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黒魔術師松本沙耶香  紅雪篇

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9部分:第九章


第九章

「ええ」
 その言葉に応えてきた。
「それでどうなの?」
「頂いていないわ」
「そうなの。ならいいけれど」
「だって」
 声が妖しくなってきた。その姿がすうっと消えてきた。
「貴女に会う為に」
 次の瞬間にはもう佐智子の後ろにいた。身体を側に寄せ囁いてくる。
「来たのだから」
「冗談は止めて」
 佐智子はその言葉を一旦は拒む。顔も目も同じであった。
「今は」
「気分じゃないのかしら」
「そうよ」
 ぷいっと沙耶香から視線を外して述べる。
「だから今は」
「じゃあわかったわ」
 沙耶香はその言葉を聞いて微笑んできた。従うような言葉であったが身体を離しはしない。
「それじゃあ」
「わかった?」
「ええ」
 妖しいまでに何かを含ませた笑みを浮かべながら言う。
「そういうことなら。こちらにも考えがあるわ」
「嫌よ」
 佐智子はあくまで拒む。
「今日は彼氏と約束があるから」
「この雪の中でね」
「雪の中だからいいのよ」
 佐智子は意外とロマンチストであるようだった。忌まわしい雪だがそこにロマンシズムを見るというのは少女の感性であると言えるだろう。彼女はまだ少女のそれを持っているのである。
「白い雪じゃないけれど。それでも」
「あの年下の彼氏ね」
「そうだけれど」
 その言葉にも答える。答えはするが沙耶香に顔を向けたりはしない。やはり彼女を拒む様子は変えてはいなかった。だが沙耶香はそこでまた言うのであった。
「残念ね。けれど」
「けれど。何!?」
「男と女は違うもの」
 含み笑いのまま穏やかに囁いてきた。
「そうでしょう?男に抱かれるのと女に抱かれるのはまた別のものよ」
「何が言いたいの?」
 顔を背けたまま沙耶香に問う。
「言ったけれど私は」
「駄目よ。素直にならないと」
 沙耶香の顔は佐智子の左肩のところにある。だから佐智子は右を向いて彼女を拒んでいるのである。しかし沙耶香はここで左手の親指と人差し指をピンと鳴らした。すると渋いダークレッドのネクタイが自然にほどけそのネクタイが宙に舞ってソファーに落ちる。そして次にはブラウスのボタンが数個外れた。沙耶香はその中に左手を入れてきた。
「やっ」
 少女のような恥らう声が聞こえてきた。
「今は」
 顔も同じであった。顔を右に背けたまま目を顰めさせる。
「あら、そうは言っても」
 くすりと笑いながら胸をまさぐり続ける。ブラの中に入り乳首にまで触れてきていた。
「ならこの手を抜かないの?それは貴女も望んでいるからよね」
「嘘よ」
 声ではそれを否定する。身体を前にやるが沙耶香はそれについて自身の身体も前にやり離れようとはしない。執拗なまでに彼女を責めてきていた。
「そんなこと」
「雪を見ながらするのは確かにいいわ」
 先程の佐智子の言葉を自分でも口にしてくる。
「しかも紅の雪の中でなんて。けれどね」
「けれど?」
「彼氏とだけなんて薄情ね」
 沙耶香は言う。
「私ともしましょう。幸い部屋の中には誰も入っては来られないし」
「けれど今は」
「何時するのも同じよ」
 拒むことすら許さなかった。
「そうでしょ?気分が乗らないのならその気にさせてあげるわ」
「その気に・・・・・・」
「ええ」
 妖艶に笑いながら頷く。その笑みのまま上から佐智子の喘ぐ顔を見る。まるで獲物を捕らえたのを確かめるかのように。妖しく笑っていた。
「そろそろじゃないかしら」
 左手で胸を弄りながら声をかける。

 
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