マジノ線
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第一章
マジノ線
ドイツ軍はポーランド、ノルウェーで次々に鮮やかな勝利を収めた、だが次の相手については誰もが言っていた。
「幾らドイツといえどもな」
「今度は勝てない」
「鮮やかに勝てるものか」
「これまでの様にな」
こう言うのだった。
「フランスは強いぞ」
「数がある」
「装備もいい」
「要塞もある」
「既にな」
防衛体制も整っているというのだ。
「マジノ線がある」
「幾らドイツ軍でもあのマジノ線は突破出来ない」
「突破しても相当な損害を出す」
「ポーランド、北欧は確かに見事だった」
「いい勝利だった」
このことはドイツを嫌う者達も嫌々ながら認めた、だがそれはというのだ。
「小国を相手にしていた」
「ポーランドは油断していたし後ろからソ連にも攻められた」
「それなら敗れても仕方ない」
「しかしだ」
今度の相手であるフランスはというのだ。
「フランスはもう体制も整えている」
「ドイツ軍はこれまで奇襲で勝って来た」
「電撃戦でな」
「しかしその奇襲も通じない」
「マジノ線はドイツとフランスの国境にある」
まさにそこに配置されて守られているのだ。
「ベルギーやオランダから通るルートもあるが」
「そちらにも備えがある」
「イギリス軍もいる」
「ドイツ軍が勝てるか」
「今度こそはだ」
ドイツの進撃も止まるとだ、殆どの者が思っていた。実際にドイツ軍の方もだ。
フランスとの戦いが近付いてきていたが攻撃計画はベルギーから進むものだった。だがこれではだった。
ドイツの国家元首である総統アドルフ=ヒトラーもだ、軍の高官達に難しい顔で問うた。
「成功するのか」
「それは」
「前の戦争でもそうでしたが」
「ベルギー、オランダを越えましても」
「それでも」
これが彼等の返答だった。
「それでもです」
「後には英仏軍がいます」
「あちらにも防衛ラインがありますし」
「おそらく」
ベルギー方面から進んでもいうのだ。
「勝てません」
「そうしましても」
「それでもです」
「難しいかと」
「それでは何にもならないではないか」
ヒトラーは高官達に目を怒らせて言った。
「我々は勝たねばならないのだ」
「フランスにも」
「これはシュリーフェン=プランと同じだ」
その一次大戦の時のフランス戦での作戦計画と、というのだ。
「向こうもわかっている」
「ではマジノ線をですか」
「あの要塞線を攻めますか」
「そうされますか」
「それなら」
「本気で言っているのではあるまい」
これがヒトラーの返答だった。
「あの要塞線は堅固だ、とてもだ」
「はい、攻められません」
「とてもです」
「重砲や戦車でも」
「航空機でも」
「あの要塞線は攻められない」
ヒトラーはここでこのことを規定した。
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