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戦国村正遊憂記

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第壱章
  四……生ヘノ執着

夜明け前、村正はぐったりとしている佐助を担いで真田幸村の元へと向かった。道中で佐助の部下に攻撃されたりしたが、村正は傷がつこうと苦無が刺さろうと血を流そうと動じなかった。
大分歩いた後、やっと真田の本拠・上田城が見えてきた。

「おい、佐助の兄ちゃん、着いたよ」

呼び掛けても、彼は目覚めなかった。まだ気絶しているのだろうか。まあ、医者に係ればすぐ目覚めようが。
村正は門番に事情を話し、城内へと入る。
兵が一人、こちらを見てから怯えた様に走り去った。物の怪にでも見えたのだろうか。
そろそろ体力も限界に達し、佐助を地に降ろした。ふうっと一息。

「……手当てでもしてから来た方が良かったかな」

ぼそりとそんな事を呟く。
長い息を吐く。傍で横たわる忍と相対した時の月光が、まだ目に残っていた。
と、誰かが近づいてくる気配。殺気も感じた。その若き血潮の香りから、彼こそが真田幸村であると確信した。

「やあ、夜遅くにどうも……」
「貴殿は何者だ? 佐助に何をした!?」
「僕は村正。体調崩しちゃった猿飛さんを送り届けに来た」
「なっ、佐助!?」

佐助を抱き上げ、この人を休ませる場所は、と問うと、幸村はすぐに案内した。
彼は、佐助の頬についた傷にまだ気付いていなかった。

「佐助は何を?」
「ん、覗きはいけませんよって厳重注意したんだ」

からからと笑う。その口から見える八重歯に気付かない程、幸村は鈍感ではない。

「……貴殿は、人か?」
「一応、そだよ」

うっすらと笑みを浮かべながらそう答えた。彼も気付いただろう。村正に漂う人ならざるものの気配に。
なおも訝しげに村正を見る幸村。降参、降参と村正が諦めた様に話す。

「僕は、妖刀村正そのものだ。知ってるだろ? 妖刀村正って」
「ああ……偶然かと思ったが、やはりそうでござったか……」
「あの時は少し腹が減っててね、城に侵入してた佐助の兄ちゃんの血をちょっとばかり頂いたのさ。 ……少し頂き過ぎたのは反省するよ」

村正は舌なめずりをする。自分の顔のすぐ近くにある佐助の頬には、自分が噛み痕がまだ残っていた。そこから僅かに滲む血液。それをまた舐めとってやりたいと思った。 
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