K's-戦姫に添う3人の戦士-
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1~2期/啓編
K19 招待状
ある日、おれたちに郵送である物が届いた。
チケットだ。風鳴翼復帰コンサートも兼ねた、明日のアーティストフェスタのチケット。
「どうしよう…」
和室の中。膝向かいに正座するおれたちの間で横たわる、二枚の紙。
「啓はどうするの?」
「おれは特に。響ちゃんはどうするのさ」
「わ、わたしは……啓がいいんなら、行きたいな」
「おれのことなんかいいから、響ちゃんが行きたいんなら、行けばいいんじゃないか?」
「……一緒に行ってくれないの?」
え? さっきのって一緒に行くつもりだったからなの?
「行く行く! 響ちゃんが行くんならもちろん!!」
「よかった」
はー、っぶねー。人生最大のチャンスを逃すとこだった。久々の響ちゃんの笑顔、イタダキマシタ。
――気持ちを知られてからも、響ちゃんに変化はなかった。
あの後すんげえ緊張して家帰ったのに、響ちゃんはふっつーに、
「おかえりなさい」
笑って言った。
おれとしては、ずっと本当の笑顔を浮かべられなかった響ちゃんが笑ったって部分にびっくりして、まあいいか、って気になっちまいまして。あえて藪をつついて蛇を出す必要もないし。
んで。おれたちは今まで通りの関係のまま、今日に至ったってわけ。
その今日こそが、ライブ当日。
適当な私服で、玄関で響ちゃんを待っているおれ。
あれで響ちゃんの私服ってセンスよくて、こういうイベント事だと可愛くメイクアップしちゃうんだな。もう行く前から楽しみすぎる。
なんかこれってデートの待ち合わせみたくね?
うわやべえ。そう思うと心臓がバクバクしてき……
「ごめ~んっ。お待たせ、啓」
バクバクどころじゃねえ。ばっくーん、と跳ねましたマイハート。
予想通りだ。私服の響ちゃん、めちゃ可愛い。
現金だけどこのありがてえシチュを用意してくれた風鳴サン、あーざーっす!
「どしたの、啓。顔色が……」
「何でもない何でもないから。ほら、行こうぜ」
「うん」
いつもより元気はないけど、笑ってくれた響ちゃん。
そんじゃいっちょ、風鳴翼生ライブ、出陣といたしましょーか。
都心までモノレールで行って、会場まで二人で歩いた。
会場に近づくにつれて人が多くなってきた。きっとほとんどの人が風鳴サンの復帰ステージを楽しみに向かってんだろうな。というか、そうだと分かるイタいファッションやらグッズやら持った通行人もちらほらいるんで、分かりたくなくても分かっちまう。
「すごい人混み」
「響ちゃん、手、繋ご。はぐれたら危ないから」
「うん」
こうやって手を繋いだの、何年ぶりだろ。
言っとくけどこの行為に下心はないからな? てかおれら、ちっちゃい時から割とよくこういうことしてる。
“お前はオトコなんだから、姉ちゃんを守ってやるんだぞ”
……失せろ。おれの黒歴史。
とか考えてたら、スマホが鳴った。非通知? おれに電話してくんのなんて、家族以外にいないのに。
「もしもし?」
《啓君か》
げ!? この声って司令じゃん。何でおれのアドレス知ってんだよ! ああ、そういや元陸軍の諜報機関でしたねこんちくしょう!
《通信機にかけても出ないので強硬手段を取らせてもらった。――翼から大体の話は聞いた。本当に君が一人で装者としてやっていくというなら、命令だ。ノイズの出現パターンを検知した。君にその処理に当たってもらいたい》
おれだけで、ノイズと、戦う。
立花啓の覚悟が試されてる。
ここで響ちゃんか風鳴サンに頼ったらアウト。できないって答えてもアウト。外堀から攻めてきやがった。
シンフォギアのペンダントは持ってる。今から逆走スタートしてってノイズと戦える条件は揃ってる。
「――分かりました。やります」
《……すまん》
「いえ。かけてくれたのがおれでよかったっす。これで響ちゃんに連絡してきたら、おれ、その場でケータイ取り上げてへし折ってました」
ああ。こういう部分を風鳴サンは「閉じ込めてる」って言ったのか。
スマホを切って響ちゃんを見やれば、響ちゃんはウサギみたいに不安そうな顔しておれを見上げてきた。
「啓、今の電話、もしかして師匠から……」
「うん。任務。そういうわけだから、ごめん。ライブは響ちゃんだけで楽しんできて」
「わたしも一緒に…!」
「だーめ。せっかくのチケット無駄になるぞ。あ、の! 風鳴翼が直々にくれたチケットが」
「で、でも」
「『でも』も『だって』も今日はなし。――ワガママだって分かってる。けどさ、おれ、響ちゃんに最後まで楽しんでほしいんだ。あの会場で」
「啓――」
「あそこが響ちゃんにとっても風鳴サンにとっても辛い場所だって分かってる。だからこそ。おれは、響ちゃんにあそこから脱け出してほしい。超えろなんて言わないから、辛い所に留まっててほしくない」
繋いでた手をほどく。
おかしいな。まだ春なのに、響ちゃんの手を離しただけでこんなに寒いよ。
「行ってらっしゃい」
響ちゃんが歩き出す。何歩か行ってはおれをふり返り、また何歩か行ってはおれをふり返り。ああくそ、嬉しすぎて出発できねえじゃん。
やっと響ちゃんが人混みに紛れて見えなくなってから、おれは回れ右して走り出した。
プリトウェンのギアを纏ってから、サーフボードに似せて編み上げたバリアに乗って、陸上サーフィンで現場へ向かった。
プリトウェンは盾であると同時に魔法の舟でもあるって了子サンが教えてくれた。おれはそのイメージをなるべく広げて、スケボーの形を採用した。これなら足捌きで方向調節が効くし、何より、速くて楽チン。
アーティストフェスのおかげか無人の道路を、ギア装着状態で進んでたのが――まずかった。
「啓くん!?」
げ! 未来ちゃん!
うわ、気まずさMAX。最後に会った時、あんな焚き付け方したからよけいに。
でも響ちゃんと絶交したってことは、おれの脅しは効かなかったってことだし。
よし。見なかったことにして現場に急ごう。うん、そうしよう。
そう思って、つい停めちまったバリアボードをまた発進させようとしたんだけど。
「ねえ!」
何だよ。おれ、マジで急いでんだけど。
「この前の『奪ってやる』って、本気なの」
「……遠回しに告白はした。返事はまだ貰ってない。拒否ってこないから、我ながらイイ線行ってると思うけど?」
うん、こういう言い回ししたら、そりゃあ未来ちゃんみたいないい子だって睨むわな。
って何だよ、その一大決心しましたって顔。
「啓くん! わたしも連れてって!」
「はあ!? ちょい待ち、おれが今から行くのってノイズ退治だよ? 分かってて言ってる?」
「分かってるから言ってるの。わたしだって知りたい。響がどんな場所に立ってたか。そこで響が何を思ってたか。啓くんだけ知ってるなんてフェアじゃないじゃない」
――いつかこんな日が来るかもしれないと、思ったことはあった。
だって、おれと未来ちゃんは同じだから。
「立花響の『一番』になりたい」って気持ちが。
恋愛にせよ、友情にせよ、「一番」は自分でいたいって気持ちが。
「分かった。乗って」
バリアボードの後ろを親指で差した。
未来ちゃんはビビってバリアボードを見てたけど、腹据えたのか、おれの後ろに乗っかって立った。
「しっかり掴まってて。行くよ!!」
「きゃっ」
ボードを蹴って、いざ発進!!
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