K's-戦姫に添う3人の戦士-
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1~2期/啓編
K16 仲直りのヒケツ
夜になってもネオンが絶えない歓楽街を、クリスちゃんと並んで歩く。
迷子の兄妹は、歩けないと訴える妹ちゃんはおれが肩車して、兄貴な子はクリスちゃんが手を繋ぐことになった。
いや~、異様な組み合わせだよなこれ。親子にも兄妹にも見えない4人組の夜歩き。補導されても文句言えない。
「なあ、聞いてもいいか? 迷子んなったって言ったけど、何で父ちゃんなんだ? 普通先に母ちゃんに会いたがらねえ?」
「……母ちゃん、おれが子供のころ死んじゃったから」
Oh…まさかの地雷ワード。ノイズが流行してるご時世、片親なんて珍しくもねえけど。クリスちゃんお願いだからそんな目で見ナイデ。
「だから父ちゃんかあ。おれんちとは逆だな」
「は?」
おや、クリスさんや、そこには反応してくれるんすね。
「にーちゃんは父ちゃんいないから、迷子になっても父ちゃんに見つけてもらうのは無理だわあ」
……そっから兄妹も空気読んだのかあんましゃべんなくなった。単に夜歩きが疲れたのもあるだろう。
「~♪ ~♪」
するとクリスちゃんが何かのメロディをハミングし始めた。疲れてた兄妹の目に光が戻った。
へえ、意外。綺麗な唄も歌えるんじゃん。そーいや両親とも音楽やってたって弦十郎サン言ってたっけ。
DNAっていいよなあ。おれも最初から立花家の子だったら……いや、よそ。ループするわこの悩み絶対。
「♪~……な、なんだよ」
「おねえちゃん、うた、スキなの?」
「……歌なんて大嫌いだ。特に、壊すことしかできないあたしの歌は……」
あ、ひらめき。そういう意味だったのか、「歌が大っ嫌い」発言は。
この人、本当は歌が大好きで堪らないんだ。歌に対して真摯な気持ちがある。誠意がある。だから、その歌を穢すようなことをしたくなくて、ずっと歌が要るイチイバルを使わなかったんだ。
――しばらく夜の繁華街を歩いてると、ちょうど交番から出てきたおじさんが兄妹のパパさんだったようで。
おれとクリスちゃんはパパさんに何回もお礼を言われた。そん時のクリスちゃんの狼狽え様といったら。ぷふ。
「そうだ。どうやったらそんなに仲良くできるのか、教えてくれよ」
? クリスちゃん?
「そんなの分からないよ。いつもケンカしちゃうし」
「ケンカしても、なかなおりするからなかよし!」
――親子と別れてからも、しばらくクリスちゃんは何か考え込んで俯いてた。声かけにくい。
「お前」
「何さ」
「さっき父親いないって言ったな」
「ああ。いわゆる蒸発ってやつ? おれがまだ中学上がりたての頃に出てってそれっきり。響ちゃんの父親は物心ついた頃にはいなかったって言ってたし」
クリスちゃんが訳分からんって顔。ああ、そっか。
「おれんちの両親、再婚組でさ。だからおれと響ちゃん、血は繋がってないんだ。父親も母親も別の連れ子同士」
「へえ……」
「同情した?」
「誰が。生きてるだけいいじゃねえか。あたしのパパとママは……っ」
クリスちゃんは胸の谷間に下がる紅いペンダントを握り締めた。この話題、今後避けよう。
「これからどうすんだ?」
「――――」
答えなし。でもこれ、流れから言って、フィーネに凸るよな。あのやりとりだけでも分かるくらい、クリスちゃん、フィーネにご執心っぽいし。
でもフィーネとかいうあの女、ソロモンの杖持ってんだよな。クリスちゃんもシンフォギア持ってるとはいえ、これはなあ。
「あの、さ。もしメーワクじゃないなら、おれ、クリスちゃんと一緒に…」
「メーワクだ」
「早ぁ!」
「もっと言ってやってもいいんだぜ? ウザイ。キモイ。迷惑千万極まりない」
「トドメ刺しに来やがったあ!!」
地面に四つん這いで凹むおれを、クリスちゃんは得意満面に見下ろしてる。チクショウ。やっぱこいつ可愛くねえ。
「んじゃ。次に会うときゃ鉄火場だ。ドタマに風穴が空かねえよう、せいぜい注意しな」
「あ」
行っちまった。
はあ。分かったよ。
また生きて会える日を楽しみにしてる。じゃあ「また」な、雪音クリスちゃん。
次の日も「いつも通り」の学校を終えて、チャリ漕いで我が家にいざ帰宅――ってなるはずだった。
家の前で、リディアンの制服姿の響ちゃんが立ってなければ。
「響ちゃん!?」
チャリの速度上げて、響ちゃんの前で停めて降りた。
「どうして。何かあったんか?」
響ちゃんが実家に帰るなんて、母さんかばあちゃんに何かあったとか、そんくらいヤバいレベルじゃなきゃありえねえ。
だって「ここ」は響ちゃんの一番の傷を思い出させるんだから。
「啓……」
ふいに響ちゃんがふらっと倒れかかる。
「ちょ、響ちゃん!?」
慌ててチャリを道に転がして支えた。相変わらずちっこい……いや、細い?
「……く…ない…って」
「え?」
「みくが…っ、もぉ、ともだちで、いられな…って…!」
ともだちでいられない。
つまり、未来ちゃんが響ちゃんに絶交宣言したってこと?
ウソだろ。ありえねえ。あの未来ちゃんが、小日向未来が立花響から離れるなんて。何かの間違いじゃ。でも響ちゃんが人前でここまで無防備に弱さをあらわにするなんて滅多な事態じゃない。
「響ちゃん、落ち着いて。落ち着いてとにかく家に入ろう? ね?」
響ちゃんはなおも泣く。おそるおそる肩を押したら、何とか歩いてくれた。
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