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戦国異伝

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第二百十七話 九州騒乱その八

 信長は三十万の大軍を安土に集めた、その大軍を見てだ。
 誰もが唖然となりだ、こう言った。
「何と多くの軍勢じゃ」
「あれだけの軍勢が集まったことはないぞ」
「これまで本朝においては」
「それを集められてか」
「これより九州入りか」
「何ということじゃ」
 驚いて言うのだった、そして。
 そのことを聞いてだ、奥羽の大名達の忍達もだった。
 その大軍を見てだ、彼等も言うのだった。
「あれが織田家か」
「天下の殆どを手に入れている」
「天下人の軍勢か」
「あの軍勢で九州を攻めれば」
 それこそというのだ。
「幾ら島津が強くあろうとも」
「それでもな」
「勝てる筈がないぞ」
「率いる将帥達もな」
 その彼等もだった。
「武田信玄、上杉謙信」
「毛利元就に北条氏康にな」
「あの伊達政宗もおる」
「奥羽の独眼龍もじゃ」
 彼等を脅かしていた隻眼の者も見て言うのだった。
「おるしな」
「最上義光まで」
「九州の次は我等じゃ」
「我等を攻めて来る」
「そうしてくる」
「だからな」
 それで、というのだ。
「これは危ういぞ」
「攻められると勝てぬ」
「勝てる筈がない」
「あの様な数では」
「しかもじゃ」
 それに加えてというのだ。
「具足もよい」
「随分動きやすい鎧じゃ」
「兜や陣笠もな」
「我等のものよりよい」
 そうだというのだ。
「陣笠も着けていない者はおらん」
「草履にしろな」
「皆履いておる」
「素足の者はおらん」 
 服も整っているというのだ。
「槍も長い」
「鉄砲も多いわ」
「あれだけの数のうち三人に一人がな」
「鉄砲を持っておる」
「あれだけ鉄砲を持っておるとは」
「大筒もどれだけあるのじゃ」
 馬達に牽かれているそれも見るとだ。
「あれだけ国崩しがあるとなると」
「我等の城なぞどれもひとたまりもない」
「勝てるものではない」
「全くじゃ」
「殿にお知らせせねば」
「我等では到底織田家には勝てぬ」
「勝てる筈がない」
 こう言うのだった、そしてだった。
 彼等はすぐに自分達の国に戻って行った、それは九州の者達も同じだ。
 その騒がしい人ごみを馬上から見てだ、信長は笑った。
 見れば信長は南蛮式の全身を覆う具足、黄金に輝くそれを身に着けマントの如き陣羽織を羽織っていた。表は織田家の青、裏は赤である。
 そのうえでだ、彼は幸村と兼続に言うのだった。 
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