鎧虫戦記-バグレイダース-
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第37話 響き渡る静寂の音
前書き
どうも、蛹です。
本当に久しぶりに投稿しました。
お待たせして申し訳ありません。
最近、かなり忙しかったものですから。
静寂の中では音がないのでは‥‥‥‥?
そう問いたい方、結構いますでしょう。
しかし、この題名は間違っていません。
何故なら―――――――――――あとで分かります。
ついに弾丸を放ったホークアイ。
果たして、彼はどのようにして時間を稼ぐのか?
そして、ついに明かされるであろうジェーンの
"超技術"とは一体どのようなものなのか?
それでは第37話、始まります!!
弾き出された二発の弾丸はホークアイの狙い通りに
まっすぐ"鎧虫"の弱点である"増殖器官"に飛んで行った。
ガガンッ!!
しかし、"鎧骨格"並ではないにしろ
かなりの強度を誇る"増殖器官"は
弾丸の二、三発程度では破壊することは
出来ないようだった。
『んな事はとうの昔から知ってんだけどな』
さらに前へと走って行き
ホークアイは銃口を再び"鎧虫"に向けた。
ドンドンドンドンッ!!
間髪入れずに四発の銃声とともに
弾丸が螺旋状に回転しながら飛んで行った。
ガガガガンッ!!
先程当てた部分とほぼ同じ場所に
四発すべてが命中した。
ビシッ
"増殖器官"に小さな亀裂が走った。
あと数発また同じ個所に命中させれば
おそらく機能が停止してバランスを崩すだろう。
「さぁ、どんどん行くぜ!」
ホークアイは走り回りながら叫んだ。
「す、すごい‥‥‥‥‥」
俺はホークアイの銃撃戦に目が釘づけになっていた。
まさか、ここまで正確な射撃が走りながらできるとは。
正直あまり期待はしていなかったが、もしかしたら
俺がいなくても戦いを終わらせるのではないか
と思わせる程の戦いぶりだった。
『はっ、そんなこと考えている場合じゃなかった!』
しかし、人間並みの体力しかないホークアイでは
走り回り続けるにも限界があるはずだった。
なので、俺は今の俺に出来る準備をしなければ。
「スーーー、ハーーー」
俺は2、3度大きく呼吸をした。
先程から何度も俺が息を整えるのは
俺が"超技術"を使うために必要な事だからである。
「フッ!」
キィィィィィィィィィィンッ!!!
俺は口から超音波を発した。
無論、これは人間はもちろん
"鎧虫"でさえ聞こえることはない。
俺の"超技術"は"声質制御"
声の性質そのものを自分の思い通りに制御して
口から発することが出来る能力である。
そもそも声とは、喉の声帯を気道からの空気によって
振動させることによって発せられている音である。
俺はその振幅や振動数などを自由に調整する事によって
普通の声を兵器的レベルにまですることが出来るのである。
この"超技術"はかなり応用が利く能力である。
例えば、俺が"超技術"として偽っていた″音速裂刃″。
あれは、腕から生えた顎状のブレードに俺の振動数の高い声を
帯電ならぬ“帯声”することによって、攻撃で接触した瞬間に
高振動が分子構造を分解し、切断することが出来るのだ。
俺が"顎人"として行動していた時に
男の低い声だったのも、この"超技術"のおかげである。
振動数を低くすることで、男の声を出していたのである。
ちなみに、一度聞いた声なら簡単に再現することが出来る。
キィィィィィィィィィィンッ!!!
今、俺が行っているのは直接的な攻撃ではなく
あの"鎧虫"の身体の“固有振動数”を探し出すことである。
固有振動数とは、物体の最も振動しやすい振動数である。
それは"鎧虫"の個体によってやや異なっており
それを見つけなければ俺の攻撃は始まらないのだ。
しかし、ケガのせいで普段通りにいかず
なかなか12m級"鎧虫"の固有振動数が見つからなかった。
『だが、今の俺にはこれしか出来ないんだ‥‥‥ッ!』
俺はホークアイが戦っている間に
必死に"鎧虫"に声を当てて、固有振動数を探し続けた。
ドンドンッ!
ホークアイは"鎧虫"の後ろ側に走りながら
再び銃口を向けて、二発の弾丸を発射した。
ガガンッ!! ビシシッ
破損した"増殖器官"にさらに弾が当たり
亀裂がさらに広がった。
ドンッ! カチッ
もう一発放つと、弾倉内の弾が空になった。
かれこれ何発撃ち続けただろうか。
『早く弾を再装填しねぇと――――――――――』
懐に入った新たな弾倉を取り出そうと
少しだけ鎧虫から目を離した瞬間だった。
「ギィィィィィィィィィィッ!!」
ブンッ!!
12m級"鎧虫"は前足を横に振り払った。
ホークアイは完全に油断していて
まったく動くことができなかった。
ミシッ!
"鎧虫"の足がホークアイの身体にめり込んだ。
そして、そのままの勢いで弾き飛ばされた。
ドガアアァァァアアンッッ!!
ホークアイは延長線上の岩肌に叩き付けられた。
「‥‥‥‥が‥‥‥ッ‥‥‥‥‥‥」
ドシャッ!!
声にならないうめき声を上げると
そのまま地面に音を立てて落下した。
運悪く尖った岩があったらしく
背中から血が流れ出ていた。
「ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥」
ホークアイは息を荒くしながら
"鎧虫"を鋭い目つきで睨んだ。
「ギィ‥‥‥‥ギギィ‥‥‥」
視界では、"鎧虫"の機械的な目が見下ろしていた。
そのまま、少しずつホークアイの方に歩いて来ている。
捕食するつもりなのだろうか。
「ホークアイッ!!」
俺はこの閉鎖された空間に響き渡るほどの大声で叫んだ。
正直、傷の痛みもすっかり忘れてしまっていた。
「‥‥‥‥‥ギィィ‥‥‥‥ギィ‥‥」
すると鎧虫は小さく鳴き声を上げて、俺の方に顔を向けた。
そして、今度はこっちに向かって歩き始めた。
ホークアイへの興味が薄れたのか、うるさい俺から
先に殺そうとしているのか、どちらでもいい。
少なくともホークアイがすぐに殺される事は無くなった。
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥よし』
俺はもう一度息を吸って超音波を発しようとした。
しかし、喉の奥から上がってくる何かがそれを邪魔した。
「うぐ‥‥‥‥ゲホッ‥‥‥」
俺は口を押さえて咳をした。
その手を離してみると、掌に少し血が付いていた。
"超技術"で音波を発する際は、声を出すために
腹筋を中心に全身に力を込めなければならない。
内臓がまだ治ってない状態で全身に力を込め続けているのだから
そのうちガタがくるとは思っていたが、まさかこんなに早いとは。
「‥‥ハァ‥‥‥‥ハァ‥‥‥‥」
最近、やけに再生の速度が遅くなっている。
一週間前に木の皮にひっけかて手にケガをしたが
それが治るのに十分以上もかかっていた。
本来なら数十秒あれば傷が塞がっていき
一分あれば表皮まで完全に再生できるはずなのにである。
(通常の人間に比べればそれでも十分早いほうなのだが)
ズシンッ ズシンッ
"鎧虫"がいつの間にか随分近くに来ていた。
固有振動数に近い音に見当が付いてはいるが
それを一致させるための時間が数十秒ほど欲しかった。
弱っている俺の声では、コイツを倒すためには
固有振動数と完全に一致させないと、まだ威力不足だからである。
「‥‥‥ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥‥ゴホッ」
しかし、もう間に合わないだろう。
上にいるみんなに期待したいところだが
それも間に合いそうにない。
「‥‥‥‥ギギッ‥‥‥ギィィ!」
"鎧虫"が先の鋭くとがった右足を振り上げた。
それを見た後に俺は目をゆっくりと閉じた。
『じゃあな‥‥‥‥ホークアイ』
俺は覚悟を決めて心の中でそうつぶやいた。
ドンッ!!
突然の一発の銃声に俺は再び目を開けた。
ズウゥゥゥゥンッ!!
そこでは"鎧虫"が足を振り下ろすよりも先に
銃声の鳴った方向に音を立てて倒れこんでいた。
衝撃で舞い上がった砂煙の向こうから
ゆっくりと歩いて来ている影がつぶやいた。
「‥‥‥‥‥俺だってやりゃあ出来るんだよ」
煙が晴れると、ホークアイがフラフラと
今にも倒れそうなほど足取りでこちらに歩いて来ていた。
彼に放った一発でついに右側の"増殖器官"の一つが機能を停止し
右側を支える力が低下したので、左の力が大きくなり
右に倒れ込んでしまったのだろう。
「ま、今のは運が良かっただけだけどな」
実際にあの一発で"増殖器官"が壊せてなかったら
俺はあの尖った足に串刺しにされていただろう。
本当に運が良かった。
「痛ッ!‥‥‥‥‥ふぅ‥‥‥」
ホークアイは片手で背中を押さえたまま
もう片方に持つ銃をホルスターに入れた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
俺はホークアイの顔を見たまま
しばらく呆然としていた。
「‥‥‥‥ん、どうした?」
その一言で俺はすぐに我に返った。
そして、何か言われる前に顔を逸らした。
「‥‥‥‥俺の登場のカッコ良さに痺れたか?」
「バッ、そんなわけあるかッ!!」
ホークアイの淡々としたボケに
俺は顔を赤くしてツッコんだ。
でも、どうして俺はあの時、しばらく
コイツの顔から目を離せなかったのだろうか。
その理由を考えていると、恥ずかしくなってきたので
俺はとりあえず、今はそのことについて考えるのをやめた。
「‥‥‥‥ヘッ、それもそうだな。
じゃあ、あとは頼むぜ、ジェーン」
俺は大きく息を吸って呼吸を整えた。
おそらく、これが最後のチャンスだ。
最後まで俺の身体はもってくれるだろうか。
しかし、それでもやらなければならない。
『あぁ‥‥‥任せろ』
そう心の中でつぶやいた。
キィィィィィィィィィィン!!
俺は超音波を発した。
たった数十秒だけ声を出すことが
こんなにも苦しいなんて。
血を口から垂れ流しながらも
俺は必死に声を出し続けた。
ヴヴッ‥‥‥
そして、ついに俺は見つけ出した。
固有振動数になった際に分かる共鳴音が
俺の耳に僅かにだが聞こえたのだ。
「う‥‥‥‥‥‥‥グハッ!」
しかし、そろそろ本当に限界が来ているようだ。
俺は血を吐き出して、力なく岩壁にもたれ掛かった。
激痛と息苦しさに、また気を失いそうだった。
「ゲホッ!!‥‥‥‥ハァ‥‥‥‥ハァ‥‥‥‥」
もう、普通に声を出すことさえ出来そうになかった。
「ジェーン!大丈夫かッ!?」
ホークアイは俺に必死に声をかけた。
それのおかげで、俺はギリギリ意識を保てていた。
「ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!」
"鎧虫"が鳴き声を上げながら立ち上がった。
身体を支える力のバランスがようやく分かったようだ。
"鎧虫"は機械的な目で二人の姿を捕捉した。
「ギィィィィィィィィィィッッ!!」
グオッ!!
"鎧虫"は再び鋭い脚を振り上げた。
ホークアイは銃を取り出そうとしたが、すぐに諦めた。
先程、弾倉の弾を撃ち尽くしてからもう一発撃ったことで
ようやく破壊できた物が、今さら彼が数発撃ったところで
どうにもならない事を彼は身を以て知っていたし
そもそも、正面からでは"増殖器官"を狙えないのだ。
『このままじゃ、俺は避けれてもジェーンに当たっちまう!
だが、俺のこの怪我じゃジェーンを運ぶことも出来ない!!』
どんなに考えても、何か障害にぶつかってしまう。
どうしようもないのか、と半ば諦めていたその時だった。
カランッ‥‥‥‥
ホークアイの懐から何かが落ちた。
彼は反射的にそれを見下ろした。
懐に入れていた弾倉の一つが落ちてしまったのかと
落ちた直後は考えていたが、銃の整備を毎日している彼は
この音は違う、と言う事に気付いていた。
そして、それが何かに気付くと彼はニヤついた。
「‥‥ヘッ、全く‥‥‥‥マリーの奴‥‥‥‥」
ホークアイはそうつぶやいた。
彼はそれを急いで拾い上げ、振りかぶった。
その時、彼はここに来るまでの事を思い出していた。
――回想――――――――――――――――――――――――――――――――――
「はい、ホークアイ」
マリーは彼に何かを手渡した。
「ん?おいコレって‥‥‥‥」
「ホークアイにそれあげる♪」
ホークアイは少し困った顔で訊いた。
「でも、これはお前がヨセフさんから貰ったモンだろ?」
マリーは答えた。
「コレは私より、ホークアイが持ってた方がいいと思うから」
彼女は少し笑いながら続けた。
「だって、ホークアイってこの中で一番弱いから」
「オイッ!事実だけどそれ言うなよッ!!」
マリーの付け加えた一言に若干傷つきながら
ホークアイは大声でツッコんだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああッッ!!」
ブンッ!!
そして、ホークアイは手に掴んだ何かを
思いっ切り"鎧虫"に向かって投げつけた。
ジェーンは少し霞んだ視界の中を
弧を描いて飛んで行く何かの正体に気付いた。
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥小瓶‥‥‥‥‥?』
その小瓶は、ホークアイの手で
フタのはまり具合を少し緩められていた。
それは、あの"鎧虫"に当たった瞬間に
外れるようにするためである。
カンッ!
思った以上に軽い音の後に
彼の思惑通り、閉まっていたフタが外れた。
そして、中から半透明の液体が流れ出て来た。
「ッッ!!?ギイィイ゛ィィイ゛イィイイ゛ィイ゛イイ゛ッッ!!!」
それをもろに頭に浴びた"鎧虫"は
大声を上げて暴れまわった。
ズウウウゥゥンッッ!!
それにより、またバランスを崩して地面に倒れこんでしまった。
さっきホークアイが投げつけた小瓶に入っていたのは
サウジアラビア原産の木の油分を抽出して作り上げられた油
通称、精油"エッセンシャルオイル"である。
これには、虫の嫌う成分が多く含まれており
その匂いをもろに吸ってしまった"鎧虫"は
そのせいでもだえ苦しんでいるのである。
「サンキューな、マリー」
おそらく上にいるであろうマリーに向かって
ホークアイはつぶやいた。
「‥‥‥‥ガハッ!ゲホゲホッ!!」
俺は血を吐きながら咳をした。
「ジェーン!オイ、無理すんなよ!!」
無理に起き上ろうとしていた俺を
ホークアイが押さえながら言った。
「‥‥‥‥‥‥俺が‥‥‥とどめを‥‥‥刺す‥‥‥‥」
俺は倒れ込んで暴れまわっている"鎧虫"を
強く睨みながら言った。
「‥‥‥‥‥ったく、しょうがねぇな」
ホークアイは両肩を持って俺を後ろから支えた。
「どうせ止めてもやるんだろ?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
俺はホークアイの顔を見た。
微笑んでいる彼の目は俺を信頼していた。
お前ならきっとやってくれるだろ。
そう、声をかけているように思われた。
『俺だって何かしねぇと示しがつかないしな‥‥‥‥』
俺はホークアイに向かってうなずくと
息を吸って呼吸を整えた。
気道を通って、肺に空気を蓄えている最中も
俺の身体には激痛が走り続けていた。
しかし、それでも俺は息を吸い続けた。
『女にだって、やる時にはやれるんだ!!』
そう心の中で叫びながら俺は
空気を吸い込むのを一旦止めた。
そして、渾身の超音波を口から吐き出した。
『〔音速裂波〕ッ!!!』
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!
その音はこの場にいるジェーンを除く全ての生物には
全く聞こえない静寂の音だった。
同時に、その音は暴れまわる"鎧虫"の全身を包み込み
構造を粉々に分解する悪魔の歌声だった。
「ギィッ!ギッ、ギギィィイイ゛ィッ!!?」
ビシッ! ビキッ! パキキッ!
全身の"鎧骨格"に亀裂が走った。
"増殖器官"も全て完全に破損しており
"鎧虫"は動く事すらままならなくなった。
「ギッ‥‥‥‥‥ギギ‥‥‥‥‥‥‥ィ‥‥」
ピシッ!!
全身が割れ切ったかと思われたその瞬間。
サァァァ‥‥‥‥‥
"鎧虫"の肉体は塵のようになって
この空間に消えていった。
「‥‥‥‥やった‥‥‥のか?」
ホークアイは喜びに顔を緩ませながらつぶやいた。
「‥‥‥‥‥‥ガハッッ!!!」
俺は口から大量の血を吐き出した。
そして、
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ゲホゲホッ!!」
もう、限界だ。指一本動かせないとは、まさにこの事だ。
おまけに、呼吸が全くその意味を成していない。
多分、さっき無理やり呼吸をしたせいで
肺に血が溜まっているからだろう。
あまりの苦しさに涙が出て来た。
「おい!やっと倒したんだぞ!!
死ぬんじゃねぇよ!ジェーン!!」
ホークアイは俺にそう叫んでいるようだ。
だが、そんな事を言われると余計に死にたくなる。
腹部の激痛に重度の呼吸困難。
視界は涙で歪んでいて、おまけに少し暗い。
こんなことなら、もうこのまま目をつぶって
永遠の眠りにつきたいくらいだった。
そう思っていた時だった。
ギュッ!!
「‥‥‥‥‥‥‥え‥‥‥?」
俺は驚いた。ホークアイが俺を抱きしめたのだ。
それは、とても力強くて、それでいて優しかった。
ホークアイの体温を直に感じられるこの状態は
彼に背負われていることを思い出させ
全ての苦しみを忘れさせた。
「頼む‥‥‥ッ‥‥‥お前が死んだら‥‥‥‥オレは‥‥‥‥」
ホークアイは涙を流していた。
顔は横より向こうにあって俺は直接見えないが
彼の声は明らかに悲しみに染まっていたからだ。
「‥‥‥‥‥何‥‥‥泣いてん‥‥‥‥だよ‥‥‥‥」
俺はそんなコイツに言ってやった。
「泣くん‥‥‥‥‥じゃねぇよ‥‥‥‥男‥‥‥だろ‥‥‥‥」
ホークアイは身体を少し離した。
そして、俺と顔を合わせた。
「‥‥‥‥‥‥‥お前って」
俺はホークアイの頬に手を添えた。
そこは濡れていて、今なお溢れている涙が
俺の手をゆっくりと伝っていた。
だが、全く不快な気分にはならなかった
「結構‥‥‥カッコ良かったんだな‥‥‥‥‥‥‥」
俺は彼に向かってそう言いながら微笑んだ。
上手く笑えているのだろうか。正直、自信はない。
だが、久しぶりに心から笑うことが出来た。
マリーもいつもこんな感じで笑っているのだろうか。
だとしたら、俺にはそれを毎日見せるのは
難しいのかもしれないな。コイツに対して
本当の顔を見せれるのは、今ぐらいだから。
「‥‥‥‥‥ジェーン‥‥‥‥」
ホークアイの顔は安堵の表情に包まれていた。
それを見届けた俺はゆっくりと目を閉じた。
力なく腕が硬い岩盤の上に音を立てて落ちた。
「‥‥‥‥嘘だろ‥‥‥‥なぁ‥‥‥オイ‥‥‥‥」
ホークアイはそう言いながら俺を揺すった。
しかし、俺は目を開ける事も、反応する事もなかった。
俺の口から、ゆっくりと血が伝って行くだけだった。
「う‥‥‥‥あぁ‥‥‥‥‥‥‥‥」
ホークアイの目から溢れている涙が
俺の頬にポタポタと落ちて、流れて行った。
「あああぁぁあああああああああぁぁぁぁぁあああああああああッッ!!!!」
ホークアイは俺を抱き上げたまま
身体を反らして、悲痛な叫び声を上げた。
それは、暗く閉じられたこの空間に響き渡って行った。
後書き
ついに発動した超音波による破壊の歌声、〔音速裂波〕。
鎧虫は倒しましたが、同時にジェーンも力尽きてしまいました。
果たして、彼女は生きているのか。そして、二人は
この地面の中の牢獄から脱出することは出来るのか。
次回 第38話 光の中にたたずむ誰かへ お楽しみに!
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