K's-戦姫に添う3人の戦士-
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1期/ケイ編
K11 グループデート
「だったら翼さん! デートしましょっ」
響のその一言が全ての発端だった。
とある週末。ケイはバイクを走らせ、街一番のショッピングモールへ向かっていた。
後部座席に未来を乗せ、サイドカーには響が乗っている。
本来ならサイドカーの免許は取れないケイだが、装者活動のため特別に免許を貰った。ちなみにこの特別免許は翼も持っているらしい。
――響が「デートしよう」と言い出した時は正直、未来との二人きりのシチュエーションを妄想してしまったが、それが単なる、装者3人+未来との外出だと知り、ケイのテンションは裏で実は落ちていたりする。
(少し時間押してるな)
「二人ともっ。少し飛ばすから、しっかり掴まってろよ」
「はいはい」
「は、はいですっ」
慣れた義妹の返事と、初サイドカー乗車の響のビビリ声。
ケイはヘルメットの下で口の端を上げ、アクセルを捻った。
「遅いわよ!」
待ち合わせ場所である自然公園の桟橋にて、ケイたちはようやく翼と合流した。
「いやそれが。二人を乗せて時間通りに来たはいいけど、休日だからか駐輪場がいっぱいで。ここに来るまで遠いの何の。走ってたら遅れた。つーわけで、すまん。にしても……」
翼はむくれた顔もそのままにケイを見上げた。続きは言わないほうがよさそう――
「すっごく楽しみにしてた人みたい」
響がまさにケイと同じ感想を述べたことで、さらなる翼の態度悪化を招いたのだが。
まずは映画タイム。
響と未来のチョイスで闘病系純愛ものの映画を観た。設定に無理があるな、と冷めた目で観ていたケイとは対照的に、女子3人は見事に泣かされていた。
次はショッピング。
とかく女子の買い物は長いとよく聞くが、意見を求められるとは聞いてなかった。
「どうかしら、兄さん」
パステルカラーの控えめアンサンブル。慎ましい未来にぴったりなデザインだと思うが、どう表現すればいいか分からないケイ。
「あー……いいんじゃないか?」
「真面目に見てよお」
「勘弁してくれ……」
そして、これだけ粒揃いの女子がいれば、試着時はちょっとしたファッションショーのようだった。
見ていたケイは飽きなかったが、翼に対し、指摘したいことが一つだけあったので、今度は素直に言った。
「ノリノリでポージングしてんじゃん」
ぽかっ
「何も殴らなくても……」
「次! 行くわよ!」
「「はいぃ!」」
「俺の味方が軒並みいねえ~……」
スイーツタイムではソフトクリームをチョイス。未来がストロベリー、響が抹茶、翼はバニラ。ケイはオレンジ味である。
「ねーぇ、兄さん、それどんな味?」
「どんなって、オレンジ風味ですんげえ甘味料味。売りの果汁100%はジャロ行きレベルだな」
「へえ~」
すると、未来がケイの腕をポール代わりに爪先立ちして、その手に持ったソフトクリームをぺろりと一舐めした。
しばらく事の重大さが分からずフリーズする小日向ケイ(20)。
「ホントだ~。甘ったるい」
「!!!!」
ようやく事の重大さに気づいてオーバーヒートする小日向ケイ(彼女いない歴=年齢)。
「! 翼さん翼さん! それどんな」
「何の変哲もないバニラ味。だからあげない」
「フラれた~~!」
未来が自分の食べかけを食べたという現実にいっぱいいっぱいのケイには、響と翼にツッコむ余裕はなかった。
その後は翼をファンの目から隠してモールを中へ外へ移動しつつ、ゲームセンターへ入った。
翼がいるからダンスやリズム系のゲームをするかと考えていると、翼が数あるUFOキャッチャーの一つの前で止まった。
未来たちと共に覗き込んでみる。
視線から察するに、この中の不細工なのかユーモアなのか悩ましいぬいぐるみが欲しいようだ。
「翼さん、あれ欲しいんですか!?」
響が喜びの色が強い声を上げた。
翼が押され気味の肯定を返すなり、響はスマートホンを出してカードリーダに当て、UFOキャッチャーを始めた。
「翼さんご所望のぬいぐるみ、この立花響が必ずや手に入れてみせます!」
……気合充分に7回ほどやって、ものの見事に全敗したが。
ケイは少し考え、響に変わるように頼んで自分のケータイをカードリーダに当てた。
「こ、小日向?」
「兄さん?」
普段、プリズムレーザーの照準を合わせるのと同じ要領だ。反動がないだけずっと易しい。
狙い通り、アームは翼ご所望のぬいぐるみを掴み、取り出し口まで危うげなく運んで落とした。
「ホイ」
「あ、ありが、とう」
「このUFOキャッチャーひいきだぁぁぁぁ! キィエエエエ!」
「変な声出さないで! そんなに大声出したいならいいとこ連れてってあげるから!」
――かくて未来の案内で一同が着いたのはカラオケボックスだった。
(確かにここなら個室で大声出したい放題の暴れたい放題。考えたな、未来)
キープした部屋のメニュープレートをうちわ代わりに、顔へ風を送るケイ。エアコンを入れたばかりの室内は蒸し暑い。温暖化も進んだものだ。
何を歌うか盛り上がる未来と響が検索機をいじっていると、室内が暗くなり、画面に「恋の桶狭間」というタイトルが表示された。伴奏を聴くに、演歌だ。
そこで前に立って一礼したのは、翼だった。
「こういうの、やってみたかったんだ」
「翼さん……」
「渋い……」
――彼らの「デート」は、実に少女たちらしい形で終了した。
最後に4人は、街を一望できる展望台に案内された。
時刻は夕暮れ。斜陽色に染まった街は、おそらく未来でなくとも一時は見惚れてしまうに違いない。
「さ、3人とも、どうしてそんなに元気なんだ……」
最後に汗だくで翼がようやく階段を登りきった。
「翼さんがへばりすぎなんですよぉ」
「今日は慣れないことばかりだったから」
「――防人であるこの身は、常にいくさ場に在ったからな。本当に今日は、知らない世界ばかり見てきた気分だ」
「そんなことありませんっ」
響は翼の手を取り、手摺の近くまで連れて行って、街の建物の一つ一つを――翼が戦ってきたからこそ今日在るそれらを説明し始めた。
(二人は同じとこに立って戦う人。きっとすぐ遠い人になっちゃう。いつか響の隣に立つのが、わたしじゃなくて翼さんになるのが自然になる日が来る)
すると、まるで未来の諦めを読んだようなタイミングで、未来の頭にケイが手を置いた。
「大丈夫だ」
見上げたケイの横顔は晴れ晴れとしていた。
「戦えない未来の代わりに俺が戦う。俺が未来の分も響ちゃんを守るよ。未来が響ちゃんを心配して、そばにいたいと思う心は、俺が背負う」
「――ありがとう、ケイ」
未来は留意なく微笑むことができた。ケイもまた未来へと向けて笑い返してくれた。
ケイが響の傍らに立つ限り、未来の想いもまた響と共に在る。響が遠い場所に行ったとしても未来は不安にはならない。ケイを通して、未来は響から離れないから。
感謝の気持ちが伝わるよう、未来はケイの左手を繋ぐため触れた。
ケイは声にならない声を上げたが、強く左手で握り返してきた。
交わった兄妹の視線は、小日向家で育ったどの日よりも、熱が篭もっていた。
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