K's-戦姫に添う3人の戦士-
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1期/ケイ編
K10 ごまかせない“キミガスキ”
大学での講義を終えたケイは、バイクに跨りながら、ケータイの未来の番号に電話をかけた。
《おかけになった電話は、電波の届かない所にあるか、電源が入っていないため、かかりません。くり返します。おかけになった電話は――》
ケイはケータイの通話ボタンを切ってから、バイクのハンドルに突っ伏した。
「み~く~…声聴きてえよ~…」
いつもなら週に1回は電話して、他愛もないおしゃべりをするのが小日向兄妹の習慣だった。だがこの所、いつ電話しても未来は留守電だ。最初は折り返し連絡が欲しいと留守電のメッセージ登録をしていたが、今はその気力さえ湧かない。
(かくなる上は学校か寮に突撃するしかないか)
リディアン音楽院は女学校だ。男の自分が出待ちしたり呼び出しをしたりするのは度胸と胆力と根性が要る。
(書類上では兄だろ俺。立花ちゃんにどういう対応したかも気になるし。怖じるな俺。行けよ俺。よし!)
ケイはバイクを発進させ、リディアン音楽院を目指そうとした。
ピロリン♪
メッセージの着信音と振動に、ケイはもしかしてと思い、勢いよくボタンを押した。
送信者は未来。笑顔が浮かびかけ――
“今、ノイズから隠れてるの。大きな音に反応して襲ってくるみたいで、動けない”
――笑顔の途中で表情筋がフリーズした。
その間にもメッセージは次々と更新されていく。
“バチが当たったみたい”
“あの過去の傷が治ってない響に「友達でいられない」なんて、何より辛い言葉をぶつけた”
“兄さんの電話もずっと無視して、話を聞いてあげようとも思わなかった。ひどい妹だ、わたし”
ケータイに着信が入った。ケイは急いで電話に出た。
「未来! 今どこにいる。すぐ駆けつけるから……」
《わたし、響とケイにひどいことした。今さら許してもらおうだなんて思ってない。それでも一緒にいたい。わたしだって戦いたいんだ。どう思われようと関係ない。響とケイに背負わせたくないんだ》
砂利を踏む音がした。
《わたし! もう迷わない!》
ブツッ! ツーツーツー…
ケイは乱暴にケータイをポケットに突っ込むと、すぐさまバイクを発進させた。
すれ違う通行人や車がない道まで出て、無人の地点に来たところで、ケイは詠った。
「 ――Harmones A-lens toges tron―― 」
聖詠に応えてA・レンズのシンフォギアが起動する。手足と胸板をアーマーが覆い、バイザーが視界を碧に塗り替える。
ギアはトップに。アクセル全開。限界まで車体を酷使し、とにかく走る。
視界の左右の景色が次々と後ろへ流れていく。ノイズの破壊の痕跡が残る建物もいくらかあった。だがケイは無視した。
『 沈めてた慕う心 浮かび上がる 戦うほど―― 』
ヘッドホンから流れ出すのはいつものBGMではなかった。だがケイには、初めて聴くはずの曲をどう歌えばいいかが分かっていた。
(今まで分かっててごまかし続けた気持ち。とっくに気づいてたんだ。俺が未来をどう想ってるか。ただ遠慮してただけだ。俺が小日向の家の貰われっ子だから。育てられた俺が育ててくれた家の一人娘を攫うなんて許されないって)
はっとする。今、ケイの声に交じって女の子の声がした。
ヘッドホンの集音を最大にする。この特徴的な声を間違えるわけがない。
響がどこかで戦っている。
『 君と僕が奏でる歌が違うように 明日も今日の Not! キャッチ&リリース 』
見つけた! 路上のタコ足ノイズにメガトンパンチを食らわせる響だ。
響はガードレールを超えて跳び、落ちていく未来を両手で抱いた。
(飛べよ相棒! 俺の大事な女の子のとこまで!)
ケイもまた、壊れたガードレールに最速でバイクを突っ込ませた。一瞬の浮遊感。すぐにハンドル操作を立て直す。
アームドギアであるレーザー砲をバイクの後部左右に装着し、ブースター代わりにすることで車体を高く跳ばせ、宙を翔けるバイクとしたのだ。
「響ちゃん!」
「ケイ、さん…!」
響は未来を抱く腕の片方をケイへと伸ばす。ケイも届けと腕を伸ばし、ついに響の手を掴めた。
『 俯か、ない 諦め、ない! pray――Your Destiny! 』
壁にタイヤを接地する。そしてレーザーブースターを全開に、壁を下に向かって斜めに走ることで少しずつショックを和らげる軌道に持って行く。
『 突破するんだ 心のmaze そして! Your Futureッッ!! 』
ギュギギギギギギギギギーーッ!
地面に到着した瞬間、ケイはドリフトを利かせて一気にバイクを停めた。
「ハア…ハッ…はあぁぁ…」
成功、した。やっている最中は夢中で気づかなかったが、今考えると相当危険なドラテクに出てしまった。それだけケイは小日向未来のことで激していたらしい。
怪我がないかを尋ねようとしたケイの傍らで、抱き合っていた未来と響が急に笑い出した。
「体中あちこち痛くて――でも、生きてるって感じがする」
ケイはギアを解除し、こっそりとバイクを押してその場から少し離れた。
(この分だと勢いで仲直りまで持って行けそうだな。お邪魔虫は退散しとこう)
笑い合い、泣き合い、抱き合い、本音を打ち明け合う少女たち。
お誂え向きにここは夕陽の河原。仲直りには絶好のシチュエーションだ。
(しかし帰りどうすっかなあ。俺はバイクがあるからいいとして、乗っけてやれるのはあと一人。今回は弦十郎さんに頼んで車回してもらうか。んで、俺は今度サイドカー買いに行くぞ。うん、決定)
「にーいーさんっ」
「ケーイーさんっ」
「うわっ」
考え事をしていて接近に気づけなかった。泥だらけで髪もボサボサの義妹とその親友。
「「来てくれてありがとう!」」
声を揃えて満面の笑みで言われたものだから、少しばかりきょとんとした。
「……こちらこそ。未来を助けてくれてありがとう、響ちゃん。それと未来。無事で――本当によかった」
ケイは答えた。
ありふれた言葉に、万感の感謝と、慕情を込めて。
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