詩集「棘」
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初蝉
梅雨の半ば 文月の空
淀んだ空気に差す陽射し
目映い緑 微かな風
あの日から…もう四ヶ月
淋しさだけが傍にいて…
朦朧とする熱気にあてられ
幻のような光 揺蕩う
遠くへ鳴くは 初蝉の声
歪んだ世界に鳴り響く
夏来れりと云う蝉は
僕の心を翳らせた…
些細なことで苛立つ日々
想いも知らずに影は消え
霞んだ月は時節(トキ)を示す
緩やかに…何も言わずに
哀しみだけを居座らせ…
夜明けと共に吹き抜けた風は
熱を含んだ想いを運んだ
近くに聞こゆ 初蝉の声
強ばる心に夏を告げ
恋しと声を上げるのは
僕も同じと慰めた…
儚さ沁みる 初蝉の声
意味なき思考を嘲笑う
独りよがりの想いなど
届くあても無かろうと…
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