女傑
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
7部分:第七章
第七章
「深刻と言っていいな」
「はい」
「どうされますか」
「もう少しだ」
チェーザレは彼等の話を聞き終えて述べた。
「もう少し待ちたい」
「何か御考えが」
「うむ」
チェーザレは彼等に応えて頷いてきた。
「まずはだ」
「ええ」
「資金をさらに用意しておけ」
「資金をですか」
「そうだ、今充分にあるか」
「ええ、まあ」
「先日ローマからフォルリに多量の金貨を運ばせておきましたから」
「ならよい。よいか」
チェーザレはさらに述べた。
「その資金こそが大事なのだ」
「左様ですか」
「では敵の傭兵隊の買収を」
「さてな」
この言葉にはただ笑うだけであった。それ以上は言わない。
「だが資金は用意しておけ。よいな」
「わかりました」
「それでは」
「まずはそれだけでいい」
チェーザレは静かに述べた。
「攻撃は続けておけ。ただし無理はするな。よいな」
「はっ」
「了解しました」
報告をしに来た部下達は敬礼してその場を後にした。彼等が部屋を後にするのを見てからチェーザレは後ろにいるミケロットとリカルドに声をかけてきた。
「城塞の地図はあるな」
「はい」
リカルドがそれに応えた。そして一枚の羊皮紙の地図を彼の前に差し出してきた。
「こちらに」
「うむ」
チェーザレはその地図を受け取った。まずはそこに描かれている城塞の細部に至るまでを見回したのであった。
「大丈夫だ」
それを見終えてからまた述べた。悠然とした笑みを浮かべて。
「この城は陥落する。よいな」
「それではもう策が」
「ある」
今度はミケロットに答えた。
「もう少ししたらそれを実行に移す。よいな」
「御意」
そこからまた時が経った。城を攻めはじめてから一月が経とうとしていた。フランス軍は持ち場を離れだし傭兵達の士気は明らかに落ちていた。直属の家臣達はそれを憂いていたがチェーザレは相も変わらず平然としていた。
「閣下」
部下達が彼に声をかける。
「このままでは」
「そうだな」
ここに来て彼はようやく頷いてきた。
「時が来た」
「では総攻撃に」
「いや」
しかしその問いには首を横に振る。それからまた述べたのであった。
「市民達を呼べ」
「市民達をですか」
「そうだ」
何か話を読めないでいる家臣達にそう答えた。
「わかったな。すぐにな」
「あの」
「何だ」
それでも彼等はまだ話がわからずチェーザレに問うてきた。チェーザレもそれに怒ることなく彼等に応えるのであった。
「フォルリの市民達ですね」
「その通りだ」
チェーザレはまた答えた。
「わかったな、すぐにだ」
「わかりました」
「それでは」
こうしてチェーザレの前にフォルリの市民達が集められた。チェーザレは彼等を前にしてまずは堆く積まれた金貨を見せてきた。
「一体何のつもりなんだ?」
「まさか自分の富をみせびらかしたいだけか?」
「まさか」
その金貨の山を見て市民達は口々に囁き合った。どうにもチェーザレの考えが読めなかったのだ。
「聞いたか」
そして戦いの噂話をはじめた。
「戦いは全然進んでいないらしいぞ」
「そうなのか」
「ああ、もう一月経つがな。奥方様は頑張っておられるらしい」
「ああ、それでな」
別の者が言ってきた。
「向こうの大砲の弾に書かれていたらしいぜ」
「何てだ?」
市民達はその者の言葉に耳を傾けてきた。
「大砲はもっと緩やかに撃っては如何。貴方達の睾丸が千切れないようにってな」
「うわ」
「また品がないな」
カテリーナらしいと言えばらしいあからさまな挑発であった。それだけの余裕があるということであった。
「あの方はまだまだやる気らしいぜ」
「俺達はあの公爵様を選んだけれど」
「果たしてどうなるかな」
「さて」
チェーザレはそんな噂話を意に介さず下に控える市民達に声をかけてきた。今彼は広場の台の上に昇りそこから彼等に語り掛けているのだ。
「諸君等にまずはこれを見せた」
あらためて金貨の山を指差してきた。
「そしてだ」
指し示しながら言葉を続ける。
「これが欲しいか」
「当然だよな」
「今更何言ってるんだ、あの人は」
市民達はそれを聞いてまた囁き合った。どうにも話が見えてはこない。
「欲しいのならば諸君等が望むだけ与えよう」
「おっ」
「くれるのか」
「それには条件がある」
「やっぱりな」
市民達はそれを聞いてすぐにこう思った。
ページ上へ戻る