戦国異伝
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第二百十六話 慶次と闇その五
「それだけであります」
「左様か」
「そうです、しかし闇が」
「あ奴にはありか」
「包んでいますな、あの御仁を」
これが慶次の見立てだった。
「そして松永殿はそこから出ようとされています」
「わからぬな」
「ですか」
「そうした者には思えぬ」
「わしもじゃ」
平手だけでなく可児もまた言って来た。
「根っからの悪者じゃ」
「国崩しの悪人ではないか」
「そうした者だから」
「一刻も早くと思うがのう」
「いやいや、それなら上様の身の回りは万全であります」
誰もが懸念している松永の謀に配慮しての言葉だ。
「毒なり刺客も」
「そのどれもか」
「上様の周りには兵もおります」
森と池田の兵がだ、二人がいつも身の回りを固めているのだ。
「それにです」
「新助達もじゃな」
「はい」
次は毛利と服部のことだった、個の武で信長を護る二人だ。
「しかも今は真田幸村、直江兼続と」
「知勇兼備の猛者も揃った」
「飛騨者、十勇士もおりまする」
「そこまでおればか」
「急に二万の兵に囲まれようとも」
例えだ、そうした事態になってもというのだ。
「大丈夫です」
「毒も刺客もか」
「それこそ龍が来ようとも」
これは例えだが慶次はあえて言った。
「上様は大丈夫ですな」
「御主もそう言うか」
「そしてそれがしもお傍にいれば」
慶次は笑ってこうも言った。
「朱槍で戦います」
「そうするか、では上様はな」
「何があろうともですな」
「安心じゃ、御主と真田、直江に十勇士か飛騨者達がおれば」
それだけでというのだ。
「例え二万の兵に攻められても上様は大丈夫じゃ」
「そう仰って頂けますか」
「よし、御主と才蔵は上様のお傍役じゃ」
毛利達と共にというのだ。
「これであ奴でも他の誰が何を上様にしようともな」
「上様は大丈夫ですな」
「だからじゃ」
それで、というのだ。
「そうしよう」
「さすれば」
「それがしも」
慶次だけでなく可児も応える、可児は平手に鋭い声で言った。
「松永めが何かをすれば」
「頼むぞ」
「それがしがあの白髪首を取ります」
こう言って誓うのだった。
「そして口に笹を刺してやります」
「その様にな」
「それでは」
「ではな、まああ奴が何をしようとも」
平手はまた言った。
「人がおる、それにわし等も目を光らせておるからな」
「だからですな」
「奴に大事はさせぬ」
こう言ってだ、平手は慶次達の前から姿を消した。そうして安土城で政に励むのだった。
慶次は相変わらず政には関心を見せずにだ、それでだった。
日々酒に舞にと遊んでいた、しかしその中でだ。
遊びつつだ、この日共にいた飛騨者達に言うのだった。
「闇がのう」
「闇?」
「闇とは」
「うむ、感じるな」
こうしたことを言うのだった。
「何かな」
「闇とは何かな」
鞠が彼に問うた。
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