ダンジョンに復讐を求めるの間違っているだろうか
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魔法覚醒
前書き
十話「不在発見」で、うpしていない部分がありましたので、急遽うpさせていただきました。
ここまで遅れまして、申し訳ありませんでした。
諸事情によりインターネットが使える時間が限られていますので、確認および修正が遅れることがあります。
なので、変な点があれば感想で指摘していただければ、すぐに訂正を入れることができるので、できればしていただければと思います。
デイドラはルームの中を縦横無尽に駆けずり回っていた。
包囲されないように、背後を取られないように動き続けていた。
その状況に陥ることは死を意味するということに本能的に気付いていたのだ。
そのため、狙いを絞り切る前に、闇雲に攻撃することしか叶わず、刃は関節や複眼などの弱点を捉えることができず、ほとんどが鋼のように硬い外骨格に阻まれている。
だが、それでもデイドラはただひたすらに、一撃離脱を繰り返している。
それを可能にしているのは、偏に、デイドラの補正がかかった機敏さがキラーアントのそれを上回っていることや、ルームが縦横十Mあるおかげで、キラーアントを撹乱できているからだった。
しかし、残り時間は無限ではない。
(このままでは、俺の体力が尽きる)
デイドラは淡々と一撃離脱を繰り返しながら、模索する。
互いに決定打となる攻撃を出せずに、膠着状態にあったが、それは撹乱できている今だけの話。
(状況を打開するには――)
狙いを絞りきれないのは、体勢が不安定な状態で攻撃に移行しているから。
(ならば、もっと無駄を削る必要がある)
軌道を変え、もっとも近くにいるキラーアントに猛然と突進する。
それに応じて、キラーアントが爪を振り上げ、一拍の間の後、真っすぐに振り下ろした。
先程までなら、横に跳んで交わしていた攻撃だったが、デイドラはその爪を目で追い、寸前のところで、身体を捻り、紙一重でそれをかわす。
それと同時に身を屈めて、前方に跳躍してキラーアントの懐に飛び込み、胸部と腹部の継ぎ目刃を走らせた。
が、軌道が逸れて、胸部の甲殻に刃が甲高い金属音とともに弾かれた。
(もっと神経を研ぎ澄ませろ)
弾かれたことを知覚するが早いか、キラーアントの攻撃範囲から離脱する。
その間に、視線を巡らせて他のキラーアントの位置を把握し、次なる攻撃目標を定めると、転身して直線的ではなく、曲線的に肉薄した。
何度もキラーアントの間合に入ったことで、攻撃の範囲、パターン、そして速度が染み付くように体で把握したデイドラは紙一重でキラーアントの攻撃を避け、距離を詰めた。
(もっと踏み込め)
そして、懐に深く踏み込む。
短刀を握る手に感覚を集めて、最高になったとき、先ほどと同じ部位に横薙ぎの惨撃を放った。
切っ先は吸い込まれるように狙い定めた箇所を捉えた。
――が、
(殺ったか)
と思うもつかの間、
「なっ………………」
渾身の一撃が弾かれ――刀身が砕けた。
その原因は、刃毀れを顧みない戦闘が続いたにも拘わらず、デイドラは短刀をメンテナンスしなかったためで、キラーアントを考え無しに何度も切り付けたことが、ぼろぼろだった短刀にとどめをさしたのだ。
デイドラは冒険者とは言え、所詮は十四歳の少年。
絶対的に教養、戦略がなかった。
その状態で七階層に下りたつけは大きな代償になってデイドラに降り懸かったのだ。
深く懐に潜り込んでいたデイドラにキラーアントは離脱の隙を与えなかった。
絶え間無く迫る爪。
防具をつけていないデイドラにとってそれは全て致死の爪だった。
「ぐっ…………」
連撃に背中の短刀に手を伸ばすことも叶わず、短刀一本での防戦を強いられている。キラーアントの攻撃が決して速いわけではないが、短刀一振りでは、攻撃を凌ぐには全神経を傾けなければならなかった。
それが、彼に背後から忍び寄る影を気づかせるのに数瞬の遅れをとらせた。
だが、その数瞬はデイドラに再起不能の重傷を負わせるには十分過ぎる隙だった。
「がぁっはっ!?」
背後からの爪はデイドラの背に深々と紅い爪痕を残した。
初めての焼けるような激痛に、戦意どころか意識さえも半ば刈り取られ、デイドラは糸の切れた操り人形のように膝から崩れ落ちる。
(熱い。背中が熱い)
ぼわぁっと剥離していく意識の中、デイドラは背中を火に焼かれているような錯覚を覚えていた。
(あの時もそうだった)
それが深く閉ざしていた記憶を眼前に浮かび上がらせる。
炎に包まれ、火柱が立ち上る部屋。
その隅でただ無力に情けなくがたがたと震える自分。
時折揺らめく炎を中を横切る巨大な影。
絶えない悲鳴と怪物の喜鳴。
(これが走馬灯なのか)
脳裏をかすめていく、生々しい熱感や音声が付随した映像を見ながらデイドラは心のうちで呟く。
(ここで、死ぬのか…………)
その声音には死の甘受、生に対する諦念が滲み出ていた。
(元々長生きするつもりも、長い間生き恥を曝すつもりもなかったんだ。もっと道連れにしたがったが、もう十分だろう。天界にいる皆にも顔向けできる)
死を受け入れたことでデイドラの死が加速した。
その時。
「デイドラアアアアアアアァァァァァァッ!!!」
薄れて半ば虚無に呑み込まれた意識を聞き覚えのある声が繋ぎ止める。
(サラ…………じゃないな…………リズか……また間違えたか)
死の加速度も伴って減衰する。
(リズは俺が死ねば、悲しむのだろうか……………………テュールもノエルも悲しむのだろうか)
唐突に沸き上がったささやかな疑問に、未練の念が芽生える。
(だがもうそんなことは死にゆく今となっては些末事だ)
しかし、それは諦念に呆気なく呑み込まれる――その寸前。
――本当にそれでいいのか?――
わずかに残った意識に声が響き渡った。
だが、その声はあの時のものではなく――自分の声だった。
(何が言いたい?)
自分の声に答える奇妙さに違和感を覚えながら答える。
――ここで野垂れ死んで本当に悔いはないのかって訊いてんだ――
(するものか。俺はあの時から死に場所を求めていただけなのだ)
デイドラは声の主が言わんとするところを薄々感づきながら答える。
――死に場所を求めていると寝言をほざく、死に意味を求める愚者は概して、未練たらしく生きながらえる者。俺よ、これを見てまだ戯言を吐けるか?――
という声とともに、黒に染まっていた視界が眩しくひらける。
眼前に広がったのは静止した世界。
自分に止めをさそうと爪を振り上げるキラーアント。
その後ろにはこちらに殺到するキラーアントの群れ。
デイドラの目には全てのキラーアントは映っていたが、彼はそのどれ一つも見ていなかった。
キラーアントの群れの隙間。
ルームの入口で崩れ落ちる自分を見て何かを叫んでいるリズを見詰めていた。
その童顔は悲痛に歪んでいて、デイドラが死ねば次に標的にされるのは自分であることをまるで考えていないように見えた。
(リズ………………)
――お前が死ねば、次はリズだろうな。それで、本当に悔いはないか?――
そう言われて、デイドラは悲痛に歪むリズの顔を見た。
(どうすればいい?俺はもう闘えない)
そして、ゆっくりと言う。
――それこそ本当か?本当に闘えないか?指を動かすことも、言葉を発することもできないか?――
まるで指を動かせることも言葉を発することできることは既に決定未来であるかのようにデイドラを詰問する。
(わらない…………が、動かせると思う。言葉を発することは絶対、できる)
停止世界の中で口もおろか指が動くかどうか確認できないが、デイドラは根拠なく――つまり、勘、第六感で――断じた。
――なら、問題はない。今から言う言葉を覚えろ。長くはない――
デイドラの返事を聞いて、声の主は彼に伝えた――新たな詠唱式を。
――今からお前を帰す。お前は帰った瞬間に今言った文を叫べばいい。今更だが、お前はこれで死ぬかもしれないが、その覚悟はあるか?――
(ああ、いつでも帰してくれ、覚悟は、できている)
――わかった、頑張れ、若人よ――
と、言い終わったが早いか、止まっていた世界が動き出した。
【我が身を喰らえ】!!!
その世界をデイドラの絶叫と同時に、破壊の波動がほとばしった。
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