K's-戦姫に添う3人の戦士-
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1~2期/啓編
K10 覚醒、デュランダル
朝の5時。朝練慣れしてない響ちゃんにはキツイんじゃと心配したが、響ちゃんはキリッとしてる。この分なら心配要らないか。
ちなみにデュランダルって聖遺物は了子サンの車で運ぶことになってる。その車に同乗するのが響ちゃんと風鳴サン。おれは司令と一緒にヘリで上から付いてく。
どーか風鳴サンが、響ちゃんに良くするようおれが頼んだことを内緒にしてくれますよーに。
ヘリに乗ってから、司令はハッチを開けて車列を見守ってる。おれも司令の横でしゃがんで、紅いペンダントを握り締めて下を見てた。
緊張してる? おれが? 試合だってバッシングだって平気の平左だったおれが?
《了子さん!》
通信機から響ちゃんの悲鳴じみた声。
――橋が、壊れてる!? ヤバイ。あのまま突っ込んだら左側の護送車が海に墜落する。
目の前でみすみす人が死ぬのを見過ごせねえよ! 平凡な一市民としちゃあな!
「 ――Ezehyte Prytwen tron―― 」
了子サンが「絶対防御」と言ったプリトウェンのシンフォギアを、起動させた。
全身の服装が変わるってのは不思議な感じだ。変身ヒーローってこんな感じかも。
ギアの装着が終わってすぐ、おれは手を道路に向けてかざした。
バリアシールド、平面、平行、最大出力! 割れて無くなった橋の上をコーティング。……よかった。護衛車落下は食い止めた。
《啓っ?》
「了子サン! プリトウェンのバリアで視える範囲の道路全部カバーしました。安心して走ってください!」
《ほんっとキミってば、お姉ちゃんのためなら限界超えちゃう子ね!》
それが唯一の取り柄ですんで。
《弦十郎くん、ちょっとヤバいんじゃない? この先の薬品工場で爆発でも起きたら、デュランダルは……!》
「分かっている! 狙いがデュランダルの確保なら、あえて危険な地域に滑り込み、攻め手を封じるって算段だ!」
《勝算は?》
「思いつきを数字で語れるものかよ!」
何このおっさんマジかっけえ。おれもオトナんなったら言ってみてえわその台詞。
「啓君! バリアコーティングをこの先の薬品工場まで広げられるか!?」
「視えてさえいれば……っ何とか!」
今度こそ響ちゃんはおれが守る。了子サンも、ついでに風鳴サン、律儀に年下の中坊のお願い聞いてくれたあんたもな。
工場地帯に入った直後、ノイズがわらわら出てきた。しまった。工場地帯はカバーしてなかった。
ノイズが護衛車だけ的確に狙って、ピンクの車だけが工場地帯へ入り込んだ。
くそ、この煙。護衛車の一台は吹っ飛んだか。中の人が無事ならいいんだけど。
てーか煙ジャマ! 響ちゃんたちが見えねえ!
「降ります!」
バリアサークル楕円形展開。魔法陣みたいにアレコレ模様が浮かぶサークルに飛び乗る。当然、重さがかかれば盾でしかないサークルは落ちるだけ。
煙に突っ込んだ。げほっ。さすがにのどにキツイ。
最高全開 行っちゃえ ハートの全部で――!
分かる。響ちゃんがどこにいるか。だって聴こえる。響ちゃんの歌。全力全開の響ちゃんの声。
スケボーの要領で、足捌きで落ちる方向を調節する。
「そ、こ、だああああああッッ!!」
煙を突き破る。果たしてそこには――ノイズの群れを食い止めてる風鳴サン、宙に浮いた黄金のバスタードソードと、それに手を伸ばす白い子、白い子を追っかける響ちゃん。ビンゴ!
「ぶっ飛べ! 最大出力ぅぅぅぅ!!」
「何ィ!?」
白い子の横っ面を蹴った。勢いは止まらない。白い子もろともぶっ飛んで地面に落ちるコースだ。でも、これで。
「響ちゃん!」
「サンキュー、啓!」
響ちゃんがジャンプし直して、デュランダルをキャッチした。
やったぜ! 守り通したんだ。おれたち姉弟の力で。
カ…ゥアアアアン…ッ!
黄金で出来た鐘を撞いたみたいな、荘厳な音だった。
「え?」
「!! いい加減…どきやがれ!」
落ちて縺れたままだった白い子がおれのアゴを下から蹴って飛んでった。自業自得とはこのことか。必殺の技が討つのは我が身か。泣くぞちくしょう。
「大丈夫か!?」
風鳴サンがおれのほうに駆け寄ってきた。
「へ、へっちゃらっす…! それよりデュランダルは、響ちゃんは」
カ…ゥアアアアン…ッ!
2度目はおれも見た。見て、何で了子サンや風鳴サン、そして白い子が驚愕したかを知った。
「ひびき、ちゃん…?」
デュランダルを掴んで着地した響ちゃんは、まるでケモノだった。全身黒く染まって、赤い眼を剥いて牙を剥き出しにした、おれが全然知らない響ちゃん。
この光。知ってる。響ちゃんのガングニールが初めて起動した日に見たのと同じ。
眩しくて、禍々しい、金色。
響ちゃんがデュランダルを両手で掴んで頭上に振り被って、振り下ろそうとしてる。待ってくれよ。そんなことしたら、この地帯、吹っ飛んじまう。どんだけ犠牲者が……
「ダメだ…『そっち』に行っちゃダメだああああ!」
全力疾走。響ちゃんのがら空きの胴にタックルみたいに抱きついた。
そんで何もかもがホワイトアウトした。
櫻井了子は、もつれ合って倒れた立花姉弟を、嫣然と見下ろした。
完全聖遺物をただ一人の歌で起動した響。そして完全聖遺物をただ一瞬で休眠させた啓。
こんなにも他者に興味を持つのは何年ぶり――否、何百年ぶりであろうか。
頭上に展開したバリアコーティングのパープルライトが、女の顔を妖しく照らしていた。
立花弟が立花姉に抱きついた瞬間、凄まじい光量と熱量が迸って、私も前後不覚になってしまった。
眩しくて何も見えなかった。あの姉弟はどうなった。ネフシュタンの鎧の少女は。
起き上がり、見回せば、工場地帯は壊れてはいるが、思ったよりマシというレベルだった。
「気づいたか、翼」
「おじさま……い、いえ、司令。状況はどうなったのです?」
弦十郎おじさまは親指で後ろを指差した。――立花姉弟!
立ち上がろうとして、また崩れ落ちた。思ったよりあれはダメージだったらしい。
「俺こそ情報が欲しい。翼。デュランダルは一度覚醒した。なのにこの程度の被害ですんだ。その理由に心当たりはないか?」
「心当たり……強いて言えば、デュランダルを揮おうとした立花響に立花啓が飛びついて――すみません。その後は、私にもはっきりとは」
「まあ、軽度で済んだとはいえ、破壊行為は確かに行われたんだ。デュランダル護送は一時中止。撤退だ。ご苦労だった、翼」
「いえ……」
あの時、何が起きたのか。眩しさと煙で見えなかったが、確かめられるものなら確かめたい。
だが今は、あの姉弟をメディカルチェックに放り込むほうが先だ。
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