K's-戦姫に添う3人の戦士-
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1期/ケイ編
K6 向かい合う自分でいたいよ
未来は図書館で心理学コーナーの本棚の前に立っていた。
日曜日に約束した「『ふらわー』でお好み焼きを食べる」という誘いを響にかけたが、響は用事が入ったからと断った。
(残念だけど、まだ機会がないわけじゃないよね。いっつも『用事』が入る響だけど、何か危ないことでもしてるんじゃ……)
本棚から1冊の本を抜いた。タイトルは『素直になって 自分』とある。
借りてみようかと顔を上げた時、未来は、見てしまった。
リディアンの敷地内にある病院と図書館は並んで立っている。ガラス張りの壁からちょうど見えた病室には、響がいた。
響は、あの風鳴翼と一緒にいた。
響と、風鳴翼。
響と、翼。
響が、未来でない人間と、あんなに楽しそうに笑って。
未来の手は発作的にスマートホンに伸びた。
バイト中、弁当が大量に入ったケースをトラックに積んでいたケイのケータイに、電話が入った。
一度手を止めて着信を確認する。未来からだった。
ケイは周囲を窺い、こそこそと仕出し屋の裏路地に入り込み、電話に出た。
「もしもし。どした、未来」
《……今日、空いてる?》
未来の声は、あの日、響と流れ星を観に行けなくなったと告げた声と同じだった。
「まぁたデートのお誘いか?」
《うん。できるだけ遠くに行きたいの》
「そうか」
《いい?》
「いいよ。迎えに行くから支度して待ってな」
《……ごめんね》
電話が終わった。ケイはケータイをポケットに収めると、すぐさま店長を探し始める。早退の許可をもぎ取るために。
「やると言ったからには半端に投げない」が信条のケイでも、未来が絡めば話は別なのだ。
ケイはバイトを早退し、リディアン音楽院までバイクを走らせた。
未来は寮ではなく学院の正門前で、制服のまま、沈んだ面持ちを隠そうともしないで立っていた。
「未来」
「あ……兄さん」
声をかけるとわずかに笑んだが、その笑みもすぐ消えてしまった。
ケイは2つ目のヘルメットを未来に差し出した。
「行きたいとこがないなら、俺のとっときの場所に連れてってやるよ」
「うん。ありがと」
未来はヘルメットを被ってバイクの後部座席に乗った。
「しっかり掴まっとけよ」
未来の両腕が胴にしがみついたのを確かめ、ケイはバイクを発進させた。
ケイが未来を連れてきたのは、緑林地帯横の、海が見える高台だった。
日が沈む前の、夕焼けに染まる海。
未来の顔にほんのり笑みが戻った。バイトを早退してでも来た甲斐があった。
「立花ちゃんが今日断った理由だけど」
未来の微笑が消えた。
「俺と立花ちゃんの共通の知り合いが最近、大怪我してな。その見舞いをお願いしたんだ。俺はバイトであんまり行けないから」
すると未来はガードレールを強く握り、俯いた。
「兄さんまで…知らないとこで、響と、わたし以外の子と…秘密を共有してる。響と兄さん…大好きな二人が同時に離れてく…」
ケイはとっさに未来の肩を掴んでいた。未来の潤んだ目がケイを見上げる。
機密を明かせば、その相手に類が及ぶ。最悪、死の危険もある――シンフォギアを説明した時に弦十郎が言った台詞が蘇る。しかし、自分や響と密に付き合いのある未来には、いつまでも隠し通せるものではない。ならばいっそ、ここで全て打ち明けても――
ドガァァン!!
ケイも未来も爆音がした方向をふり向いた。緑林地帯の一部から煙が上がっていた。
まさか、と思っていると、通信機の呼び出し音が鳴った。
ためらいにためらいを重ね、ようやくケイは通信機を出した。
「――はい、小日向です」
《ネフシュタンの鎧の少女が現れた。今は響君が交戦中だ。至急、応援に向かってくれ》
未来の表情が信じられないものを見るものへと変わっていく。
「今、『響君』って…交戦って、なに、何と…」
今ここでギアを纏えば、今日までの嘘の全てが未来にバレる。
心の中で天秤にかける。
響を助けて未来の信頼を失うか。ネフシュタンの少女は響に任せて、未来の中の理想の兄像を守るか。
ケイは――決断した。
「現場近くで要救助民間人を発見。その子を避難させ次第、俺も立花の応援に向かいます」
ケイは通信機を切り、未来をまっすぐ見据えた。
「聞いた通りだ。未来。俺と立花ちゃんは、あそこで爆発を起こしてる連中と戦ってる。敵の中にはノイズもいる」
「うそ…嘘だよね…ねえ、ケイ…っ」
ケイは未来の前から3歩ほど下がり、詠った。
「 ――Harmones A-lens toges tron―― 」
プリズムレーザー――アルキメデスのレンズがケイの四肢を装甲する。
シンフォギア装者としての小日向ケイの姿を、初めて義妹に晒した。
「ごめん。未来」
視線が痛いとはこういうことか、と頭のどこかが冷たく考える。
「俺たち未来に嫌われたくなくて、ずっと未来に嘘ついてたんだ」
これ以上は無理だ。虚勢を張れない。
そう判断したケイは、未来から目を逸らし、緑林地帯に飛び込んだ。
「響…ケイ…」
未来の両目から大粒の涙が流れ落ちた。
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