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K's-戦姫に添う3人の戦士-

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1期/ケイ編
  K1 景砲・プリズムレーザー

 未来をリディアン音楽院付属寮に送り届けたケイは、自宅アパートに向かってバイクを走らせていた。
 ただ、いつもの道ではなく、自然公園を突っ切る進路を取った。いつもの帰路が自衛隊によって封鎖されていたのだ。
 ノイズが出たから、と。

(ノイズ……今日まで未来をずっと悩ませてきたモノ。立花ちゃんとただの友達だった未来が、立花ちゃんを最優先にして部活を辞めるくらいに追い込んだモノ)

 ふつふつと胸に湧きかけたものを、振動で胸板をこすったペンダントの冷たさが諌める。

 ちょうど緑林公園の出入口でバイクを停めて、トレーナーの下から紅く細長い結晶のペンダントを取り出した。
 これは、今は亡き友人の「贈り物」だ。友人は高校卒業後、NGO活動のために海外に渡り、戦地を転々としてきた。その彼の訃報と共にもたらされた品が、このペンダントだった。しまっておくのも悪い気がして、今日まで着けていた。

 紅い結晶はいつもケイの理性が振り切れそうな時に、冷たい感触を思い出させる。

「――帰るか」

 その思考に至った時には、すでにノイズという存在への不快感は忘れていた。
 改めてバイクのエンジンを点けて走らせた。

 しばらく行って、ケイは気づいた。

(公園に……人? こんな夜中に?)

 好奇心か老婆心かは措いて。ケイはその広場の道でバイクを停めて降り、ヘルメットを外し――その光景を目撃してしまった。


(え、えーと。立花ちゃんがノイズに捕まってて? 何でか歌手のあの風鳴翼がいて? 公園ノイズだらけで? てか立花ちゃんも風鳴翼もメカメカな変身ヒロインっぽい格好してて? そんな格好の子がもう一人いて? だーもー! 訳分からん!!)

 外見はぽかんと立ち尽くしているケイだが、心中では頭を抱えてブリッジレベルののけぞりをしていたりする。


「 Gatrandis babel ziggurat edenal―― 」


 翼がどこの国の言語でもない旋律を歌い始めた。
 音が、聴こえない。
 世界からあらゆる音が消え、響き渡るのは翼の唄だけ。

「ケイさん!?」

 響がケイの存在に気づいた。

「翼さん、待って! 歌わないで! まだ人がいるんです!」

 響が叫んだが、白い少女に歩み寄る翼は歌うのをやめない。

 すると白い少女がぎこちない動きで杖らしき物を取り出し、直後、ケイの前はノイズでいっぱいになった。

「ケイさんッ!」

 悲鳴じみた呼び声にも、ケイはフリーズして動けない。
 ノイズに遭遇する確率は通り魔に遭うより低いとどこかで聞いた。まるで嘘じゃないか、と現実逃避に脳は別のことを考える。

 死ぬ。

 炭になって、死ぬ。

(いやだ)

 ――思い出したのは、未来の笑顔。初めて「兄さん」と呼んでくれた未来の。

 ケイは服の上からペンダントを握った。
 まるで脳に直接命令されたように、ケイはその旋律を口にしていた。


            「 ――Harmones A-lens toges tron―― 」


 ペンダントから光が迸った。ケイは思わず腕で目を庇った。
 その腕を、そして、足を、胴を、肩を、頭を、金属製の何かが包んでいく感触。

 光が収束し、ケイはようやく目を開け、その目を剥いた。

「何だ、これ……」

 黒と碧を基調としたアーマードスーツ。まるで今の響や翼のような格好に、他でもない自分が、なっている。

 両手を見下ろそうとして、はたと気づいた。右手に重い物がいつのまにか握られている。

(ロケットランチャー? キャノン砲? 何だとしてもこんな物騒なもん持ってたことなんてないぞ。どこから出てきたんだ)

 その物騒な武器を両手で水平に持ち上げた時、武器のほうがまるでケイを引っ張るように、砲門を前に向かせた。

「うわっ、ととぉ!?」

 十字の金具が立ち上がり、高速で回り始める。その刃に時折生じる電磁波。

「減圧…!? ぁ、く!」

 翼が刀を地面に刺し、苦しげに片膝を突いた。

 公園を幕のように覆っていたパープルライトが、SFアクションの中粒子ビーム砲のように、砲門へと集まる。光の弧は生まれては重なり密度を増していく。

「なんかよく分からんが――これで全部、吹っ飛んじまえぇッ!」

 ガジャゴッ!!

 ケイはレバーを力一杯引っ張った。それがトリガーだったようで、滞空していた光の円が一点収束し、照射された。

 細いレーザー光線なのに、見た目以上に反動が凄まじい。

 ケイはレーザーを横にずらしていく。レーザーメスのように動く光線が、ノイズを左から右へと焼いて炭化させていく。広場にはびこっていたノイズも、響を捕まえていたノイズも、全て焼き払われた。


 ケイはレーザー砲を落とし、その場に崩れ落ちた。
 呼吸が苦しく、腕に来た反動が痛む。

「ケイさーん!!」

 駆け寄って来たのは響だった。

「大丈夫ですか? どこかケガしたんですか?」
「ケガは、して、ないけど……これ……きっつかったわ。かなり」
「ケイさんがシンフォギア装者だったなんて……」

 そこで黒い車が現れるなり、勢いよく広場に乗り上げた。運転席から降りてきたのは、ガタイのいい中年男性。

「無事か、翼!」

 翼は遠目にも呆然としているように見えた。手を握っては開き、目は見開かれている。

「こぉんな土壇場で新しい装者なんて」

 はっと顔を上げると、髪を頭の上でまとめた白衣に色つき眼鏡の女が立っていた。

「了子さん」
「知り合いか?」
「ええっと」
「いつもならこういうのは緒川君の仕事なんだけどぉ。キミ、名前は?」
「こ、小日向ケイです」
「じゃあケイ君。特異災害対策機動部二課まで同行してちょーだい」

 女の笑顔をこんなにも怖いと思ったのは初めてだった。 
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