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K's-戦姫に添う3人の戦士-

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1~2期/啓編
  K8 立花家

 目が覚めて一番に見たのは、真っ白な天井。
 体は清潔なシーツを敷いたベッドの上。窓から射し込む夕焼けが眩しい。

 ああ、わたし、知ってる。この感じ。2年前のライブでケガして入院することになってから、ずっと見てた景色で、感じてた手触り。

「響ちゃん! 気がついた? 気分は? 痛いとこない?」

 啓……だよね。あれ? 啓ってこんなに男っぽかったっけ。離れてる間に成長したのかな。

「へいき……へっちゃらだよ……」
「本当に?」
「うん」
「よかったぁ――」

 啓がわたしの手を取って強く握り締めて、その手をおでこに当てた。感触を確かめるみたいに。

「響ちゃんがずっと起きなくて、そのまま……死ん、じゃったらって、考えたら、ほんとどうしようって」
「もしかして、ずっと付いててくれたの?」
「ずっと、は無理だったけど、学校終わってからは、ばあちゃんと交替で付き添ってた」
「そっかぁ。なんか嬉しいかも」
「喜ぶなよっ。死ぬとこ、だったんだぞ」

 え? わっ、ちょちょちょ、啓!? どこ触ってんの!
 入院用のお仕着せじゃ隠しきれない胸の谷間の上にある傷口に、啓は指を添えてなぞったのだ。うっく、ちょっとくすぐったい。姉弟じゃなきゃセクハラだよ!?

「おれが響ちゃんのガングニールならよかったのに」

 ほんと――しょうがない弟。

 手を両手で取って、そっと傷跡から離させる。

「傷なんて誰でも持ってるものだから。後から付いたものだって、今の自分に残ってるものなら、きっと何かの意味がある。そう思うようになったんだ」

 すると啓は唐突にわたしを両腕で抱き締めた。ちょ、啓、くるしい、苦しいって……啓?

「泣いてるの――?」

 啓がやっと顔を上げた。虎みたいな鋭い両目には、涙がたくさん溜まってる。

「おれが…おれが響ちゃんの分も戦うから。未来ちゃんも守るし、ノイズも倒してみせるから…戦いなんてやめてくれ」

 啓はまたわたしを強く抱き締めた。ちょっと苦しいんだけど、まあ、今は大目に見てあげる。

「ごめんね……ありがとう。啓の気持ち、嬉しい。本当だよ? でもわたしも、大事なものは自分で守りたいんだ」

 背中を叩いてあげる。これやってあげるの、何年ぶりだろ?

「オトコが簡単に泣くんじゃないっ。わたしは平気。へっちゃらだから」

 3回くらい名前を呼んだとこで、啓はようやくわたしを離してくれた。







 書類の上では、わたしは交通事故に遭ったことにされてるって、啓が教えてくれた。ノイズ災害じゃなくてよかった。

 退院までは絶対安静の上、家族以外は面会謝絶ってことで。
 さすがに3日目ともなると退屈を持て余してきてる。啓がお見舞いに置いてってくれた少年漫画週刊誌はもう暗記するくらい読んじゃったし。どーしよっか。

 ん? 今、ノックの音がしたぞ。

「はーいどーぞー」

 ドアがスライドして人が入って来た……

「翼さん! ――お母さん、おばあちゃん!?」
「同じ病室を訪ねると聞いて、道案内をした」

 お母さん、仕事忙しいのに。こんな昼間に、おばあちゃんも一緒ってことは、多分、休み取って車で、だよね……

「ごめんね、お母さん。わざわざ」
「何言ってるの。こっちこそごめんね。なかなか休みが取れなくて、お見舞い、遅くなっちゃって。本当は一番に駆けつけなきゃいけないのに」

 お母さんがわたしをぎゅってした。無条件に安心して、ちょっと泣いちゃいそうだ。

「ありがとうございます、翼さん」
「――――」
「翼さん?」
「――どういたしまして」

 わっは。答えてもらっちゃった。これってすごい進歩だよね。初めて会った頃なんて、頃なんて……うん、あれだったけど、今はこうして会話が成立してるんだもん。

「ところで響ちゃん、こちらの方は? 同じ学校の先輩とは聞いたんだけど」
「おばあちゃん、知らない? 歌手の風鳴翼さん。わたしも知り合ったのはかなり最近だけど」
「まあまあまあ、歌手? そんなえらい人がねえ。わざわざ響ちゃんをねえ。ありがとうございます、ありがとうございます」
「い、いえそんな、あ、あの」

 おばあちゃんにペコペコされて翼さんがあたふたする。わー、翼さんでもあんな顔するんだ~。あ、握手まで! く~、おばあちゃん、いいなあ。

「その、そんなふうにしないでくださいっ。立…響さんのことは私にも責任がありますから」

 わ♡ 翼さんに下の名前で呼んでもらっちゃった。

 なーんか今日は翼さんが優しいなあ。嬉しいなあ。

 お母さんはパジャマや着替え、それに暇つぶしになりそうな本とかDVDを置いて、お医者さんに挨拶に行くって出て行った。おばあちゃんも一緒に。


「いい人たちね」
「はいっ。自慢のお母さんとおばあちゃんです」

 まだ実家にいた頃。どんなにイヤガラセを受けても、お母さんもおばあちゃんも「あなたのせいじゃない」「あなたは悪くない」ってずっと言ってくれて、味方でいてくれた。
 家族だから当然なんて思わない。
 そういう人たちの家の子として産まれたわたしは幸せ者だ。

「なら尚の事、秘密は隠し通すことね。全てが明るみになった時、類が及ばないとは言い切れないから」
「う……はい」

 訂正。翼さんは優しくなったけど、締めるとこは締める先輩でした。 
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