K's-戦姫に添う3人の戦士-
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2期/ヨハン編
K6 愛が二つある理由
夜を切り裂くかのように、黒い撃槍が海面へまっすぐ突き立った。放つソニックブームにより、黒い撃槍が海へ沈むことはない。
その撃槍の上に降り立ち、落ちたネフィリムのケージを掴んだのは、ヨハンたちが奉じる歌姫にして巫女。
「時間通りですよ。フィーネ」
昇る朝陽が後光のようにマリア・カデンツァヴナ・イヴを照らし出した。
(ああ、やっぱり。キミは世界のどの歌姫より美しいよ。マリア)
橋の裏側にぶら下がり、ちゃんと彼らが見えるように位置を調整して隠れていたヨハン。
見守っていると、海から天羽々斬の装者が飛び出し、青い斬撃をマリアへ向けて撃ち出した。マリアは硬化したマントで斬撃を防いだ。
マリアと天羽々斬の装者の戦場が、浮上した潜水艦のブリッジに移った。その戦いに、黄金のガングニールの装者とイチイバルの少女は目を奪われている。
(ここだ!)
飛び出し、橋の上に着地した。日本側の装者たちの背後から一直線に駆ける。
「4人目!?」
少女らはふり返って迎撃しようとするが、人質を持った状態でそれは難しい。
ヨハンは容易くガングニールの少女からウェルを奪還し、ウェルを担いで全力で跳躍した。
第1チェックポイントはマリア。ヨハンはすれ違いざまにマリアからネフィリムのケースを受け取った。
第2チェックポイントはエアキャリア。この上まですでに来ている。足りないジャンプの分は――
何もない空間から現れた細い二本の腕が、ヨハンの背中を支えた。
「おかえり。切歌、調。視察お疲れ様」
「お帰り、じゃないデス! 人のいないとこで何トンデモやらかしてるデスか!」
「心配させないで」
アンカーに足を架けた調と切歌(ギア装着)は、分担してヨハン(とケース)とウェルを担ぎ、エアキャリアへ帰投した。
少女二人にドックへ引っ張り上げられるヨハンたち。レディに助けられるのは情けないが、それでも「ありがとう」は言い忘れない。
直後、視界がぶれ、ヨハンはその場に尻餅を突いた。
「「ヨハンっ!」」
「あ、れ、おかしいな。僕、何で」
調が不安をいっぱいに浮かべてヨハンに寄り添ってくれた。
「妙ですねえ。彼にはガスの影響、ないはずですけど。表に出て戦ってないんですから」
その時、殴打音がして、ウェルが床に転がった。
「下手打ちやがってッ。連中にアジトを押さえられたら、計画実行までどこに身を潜めればいいんデスか」
切歌がウェルの白衣の胸倉を掴み上げる。
「いいよ、切歌、やめて。引き受けたのに状況を不利にした。僕の責任だ」
「ヨハンは悪くないデス!」
切歌はぱっと白衣を離し、ヨハンの前に手と膝を突いた。
「元々ヨハンが顔バレを極力防いでたのは、イザって時に投入する作戦だったからじゃないデスか。それを予定より早く表に出たのはドクターの救助のため…!」
「切歌」
それ以上を言ってはいけない、という意で、ヨハンは切歌の口に指を当てた。
武装集団フィーネの計画遂行はほとんどをウェルに拠って進めている。それなのにウェルを否定するのでは理非があべこべだ。
「地上に残した二名の相手をしてあげてくれないかな。マリアの一騎打ちに横槍を入れさせないで。僕は行けないから。お願いだよ、調、切歌」
調と切歌が顔を見合わせる。やがて、こくん、と二人は肯き合った。
「ヨハンがそう言うなら」
「行ってくるデス」
調も切歌も再びアンカーを出して足を架ける。彼女らは「せーの」で同時にエアキャリアから飛び降りた。
「愛されてますねえ」
「ええ。あなたと違いますので」
ヨハンは吐き捨てた。徹夜と全力ジャンプの疲れで理性が緩んでいたせいで、本音を出してしまった。
「あなた、あんな無垢なものを愛したこと、ないでしょう。可愛くて、いとけなくて、愛しくて。愛でるだけじゃない。大切なものを育んでいける。そんな相手、あなたにはいないでしょうね」
ヨハンはウェルの反応を待たず、ギアを解除して立ち上がった。
主力3名が出たからにはコクピットにはナスターシャしかいないはずだ。行ってサポートしなければ。
そう気力を振り絞り、操縦室へ向かった。
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