FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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新たなる目的
「ウソでしょ・・・」
「シリルが・・・死んじゃった?」
シャルルとセシリーはシリルが落ちていった海を覗いている。その水面には、少し血のような物が混ざっているように見えた。
「ウソだよね・・・ねぇ・・・」
ウェンディはあまりの出来事に、涙を堪えきれない。
「シリルーー!!返事してーー!!」
「あっ・・・」
シャルルは泣き叫ぶウェンディを見て、あることに気づく。それは、自分がこの光景を一度見たことがあるということ・・・その理由は・・・
(予知で・・・見たウェンディと・・・一緒・・・)
シャルルはそう思い、愕然とした。あの予知は、ウェンディの危険を知らせていたのではなく、シリルの身の危険を暗示していた物だったのだと気づいたからだ。
(私が・・・シリルをもっと強く引き止めるべきだったの?)
シャルルの表情は暗く、沈んでいる。
ウェンディは泣きじゃくり、顔を一生懸命擦っている。セシリーは何が起きたのかわからず、ただ呆然と立ち尽くしたまま、動けない。
ダッ
すると、そんな三人の脇を一人の男が走り抜け、海へと飛び込む。
ザバァンッ
ウェンディたちはその男を見て、我に返る。
「私たちも下に降りましょう!!」
「うん!!もしかしたら・・・」
「まだ・・・大丈夫かも・・・」
シャルルとセシリーはウェンディを持ち、崖の下へと飛んでいった。
海に飛び込んだのは、悪魔の心臓の魔導士、カミューニだった。
(水竜を俺が・・・くそっ!!)
カミューニは海の中へ潜り、シリルの姿を探している。
(死体を回収しねぇと・・・まだ魔法を取り出してねぇんだぞ!!)
カミューニは自らの目的のため、シリルのことを探していたのだった。
そんなカミューニの目に、あるものが飛び込んでくる。それは・・・
(ウソだろ!?)
何かにサメが群がっている姿だった。カミューニはその光景に目を疑う。しばらくすると、そのサメたちがいなくなる。そこには、何も残っていなかった。
(全部食われた?いや・・・あれが水竜だったかどうかなんてわから・・・)
カミューニは近くにあるものを見つけた。それは・・・靴。
(これは・・・水竜の・・・)
先程戦っている時に、カミューニはシリルの姿を見ていたのでおおよその服装も覚えていた。
カミューニが見つけた靴は、間違いなくシリルの物・・・
(やっちまった・・・)
カミューニは自分のしてしまった事の重大さと、絶望感に苛まれていた。
「シリル・・・」
ウェンディは先程までシリルたちが戦っていた崖の下にある岩の上に立っていた。両手を合わせ、祈るようにして。
「ウェンディ・・・」
「・・・」
シャルルとセシリーはそのウェンディを見て泣きそうになってしまう。
三人が呆けていると、カミューニが海から上がってくる。
「っ!!」
ウェンディはカミューニに対して構える。が、カミューニはそんなウェンディに近づいていき、さっき拾った物を渡す。
「え?」
「これ・・・」
ウェンディはそれを受けとる。
「シリルの・・・靴・・・?」
ウェンディはシリルの履いていた靴を見て、カミューニの顔を見上げる。
「すまなかった」
カミューニはそれだけ言うと、ウェンディの前から去っていく。
ウェンディたちは、その場に膝をつき、泣き崩れた。
「ふははははは!!これは愉快!!」
一方、悪魔の心臓の戦艦では、ハデスが椅子に座り、大笑いをしていた。
「ずいぶん上機嫌だな、じじぃ」
そんなハデスに一人の男がそう話しかける。
「くくく・・・我が七眷属が三人もやられたようだ」
ハデスは被っていた兜をテーブルに置く。
「やるではないか、マカロフの子らよ」
ハデスの言う三人とは、ザンクロウ、カプリコ、華院=ヒカルの三人のことだった。
ザンクロウは同じ火の使い手のナツにやられ、カプリコ・・・いや、カプリコーンと融合していたゾルディオはロキの体を奪おうとしたが、ロキに力を託されたカプリコーンに分離されそのまま消滅。
華院=ヒカルは、自らの失われた魔法、丑の刻参りをナツたちに奪われ、それによって生まれた必殺技、“ルーシィファイアー”によって倒されてしまったのだった。
「いや、それよりも面白いのは、カミューニが相手の実力を読み取れていなかったことだな」
「あのカミューニがねぇ・・・」
ハデスは先程まで戦っていたカミューニを見てそう言う。
「俺の出番かい?」
「いやいや、主の出るような戦ではない、ブルーノート」
「俺にも少々遊ばれてほしいなぁ。体がなまっていけねぇ」
ブルーノートと呼ばれた男は立ち上がり、テーブルに手を置く。
すると、悪魔の心臓の戦艦が大きく揺れ始めた。
「これ、よさんか」
「なんだよ。船を沈めとけきゃ奴等に見つかることもねぇだろ?」
ブルーノートはそう言いつつも、ハデスの注意を聞き入れてテーブルから手を離す。
「晒しておけばよい。マカロフの子らはここに集まる。ここが悪魔の口の中とも知らずにな」
「エサを口まで運んでもらわなきゃ食えねぇのかよ。俺なら食いに出る」
ハデスの言葉にブルーノートは反論する。だが、ハデスはあくまで冷静だ。
「主はここにいろ。主が動けば場が荒れる。静まれ」
ハデスはそう言い、一口ワインを口に含む。
「ちっ。七眷属どももあと四人、約半数だ。あと一人減ったら・・・出るぜ」
ブルーノートは椅子に腰かける。
「今日は、飛べそうなんだ」
ハデスはそれを聞き、不敵な笑みを浮かべた。
その頃、評議院では・・・
「ブルーノート・スティンガーとカミューニ・フィゾーだと!?」
「カブリア戦争で、ゴウラ中佐率いる青竜連隊を一人で壊滅させた男。そして、元聖十大魔導にして、イシュガルの四天王に対抗できると言われている三人衆の一人・・・」
「そんな大物が悪魔の心臓にいたのか!?」
ドランバルトはラハールから二人の名前を聞き驚き、震え上がっている。他の船員たちも同様だ。
「もはや、我々だけで手に負える相手ではない。もちろん、妖精の尻尾にもな」
ラハールはドランバルトの脇を抜け、通信用魔水晶の前に立つ。
「さっさと本部に連絡しよう。その結果は、我々の知る範疇ではない」
ラハールが通信用魔水晶に触れて連絡をしようとした。しかし、ドランバルトがラハールの手を魔水晶から引き剥がす。
「少し時間をくれ」
「な・・・なにを」
ドランバルトはそう言うと通信用魔水晶を持ってどこかに瞬間移動してしまう。
「ドランバルト様!!」
「通信用魔水晶を持っていっちまうなんて!!」
「これじゃ、本部への連絡が遅れちまう!!」
ドランバルトの突然の行動に評議院のメンバーは皆あわてふためく。
「何をするつもりだ、ドランバルト」
少し遡り・・・
ウェンディたちはいまだに海の見える岩の上にいた。三人の目は泣いていたためか、真っ赤に充血している。
「ウェンディ、そろそろ行きましょう・・・ナツたちが戻って来てると思うし」
「そうだね~・・・とりあえず、一度戻らないと・・・」
シャルルとセシリー涙を拭いながら立ち上がる。その言葉を聞き、ウェンディも立ち上がる。
「・・・うん」
ウェンディは力なくうなずくと、マスターとリリーが待っている場所へと歩き出した。
三人がリリーたちの場所に近づくと、聞き覚えのある声が三人を迎える。
「ウェンディ!!」
「シャルル!!セシリー!!どこいってたの!?」
そこにいたのは先程勝手にどこかに走っていってしまったナツとハッピー。
「三人とも!!そのケガは!?」
二人の後ろから、カナとはぐれてしまい、代わりにナツたちと合流したルーシィがウェンディたちに駆け寄る。
「だ・・・大丈夫です・・・」
ウェンディはルーシィの問いに顔をうつ向けたままそう答える。すると、リリーがあることに気づいてしまう。
「ん?シリルはどうした?」
「!!」
「ちょっ・・・」
リリーの言葉にウェンディは体を震わせ、シャルルは慌てたようにリリーの口を塞ぐ。
「ウェンディ?」
「大丈夫?」
ナツとルーシィはプルプルとしているウェンディに近づく。そして、ウェンディはナツに飛び付くようにしがみつく。
「うわぁーーーん!!!」
「なっ・・・どうしたんだ?」
ナツとルーシィは何があったのか事情を聞く。その問いに、シャルルが答えた。
「シリルは・・・し、死んだわ・・・」
「「「「!?」」」」
シャルルの言葉に、ナツたちは固まる。
「お・・・おい、何の冗談だよ?」
「そうよ!今はそんな冗談・・・」
ルーシィはそこまで言って言葉を飲み込む。ウェンディたちの様子を見れば、それがウソかどうかなんてはっきりしているからだ。
「ま・・・マジかよ・・・」
「そんな・・・」
「シリルが・・・」
「バカな・・・」
これにはナツたちも驚きを隠せない。ルーシィ、ハッピー、二人の目から大きな雫が地面に落ちた。
「くそっ!!俺がついていれば・・・」
「いや、俺がシリルにすぐに加勢してさえいれば・・・」
ナツはウェンディを抱き締めるようにしてそう言い、リリーは小さな体を目一杯に使い、地面を叩く。
「二人とも・・・そんなに自分を責めちゃダメよ」
「うん・・・二人は悪くないもん!あいつらが・・・」
シャルルとセシリーはカミューニのことを思いだし、歯をむき出しにする。
シュンッ
「「「「「「「!!」」」」」」」
突然、ナツたちの前に一人の男が姿を現す。その男は、先程評議院の戦艦から通信用魔水晶を持ち出したドランバルトだった。
「貴様は・・・」
「どこに行ってたんだこのやろう」
「この人が、評議院のメスト」
ルーシィは記憶操作の魔法が切れていたせいで、メストのことを初めて見る感覚になっていた。そんなルーシィたちに、ドランバルトは歩み寄る。
「本当の名は、ドランバルトだ」
「ドランバルトくん?」
ドランバルトはそこまで言ってからシリルがいないことに気づき、
「あれ?シリルはどうしたんだ?」
地雷を踏んでしまった。
「ううっ・・・」
「ウェンディ、大丈夫よ。落ち着いて」
ルーシィが顔を押さえたウェンディを落ち着かせる。ナツはドランバルトの耳元でさっきシャルルから聞いた事実を伝えた。
「なっ!?」
「・・・・・」
ドランバルトも動揺する。自分の今やろうとしていることが、もう少し早ければという後悔・・・
しかし、ドランバルトはすぐに気持ちを切り替える。
「シリルのことは残念だが、よく聞いてくれ」
ドランバルトに全員の視線が注がれる。
「俺はお前たちを助けに来た」
「!?」
「え?」
「うん?」
ドランバルトにいきなりそう言われ、ハッピーたちはおかしな声を出す。
「俺の魔法があれば、妖精の尻尾のメンバーだけを、この島から脱出させることができる。なんとか、全員の居場所が分かれば・・・」
ドランバルトは評議院の封印された光の一撃がこの島に降る前に、妖精の尻尾のメンバーを助け出そうとしたのだ。だが、ナツはそっぽを向いて答える。
「お断りしますって話だ」
「なっ!?」
この答えには、ドランバルトも驚いた。
「なんで私たちが評議院の助けを借りなきゃならないの?」
「ギルドの問題は、自分たちで片付けるさ。この連中はな」
「そういうことだよ~」
シャルルたちもドランバルトの提案には乗ろうとは毛頭思ってないようだ。そんなナツたちに、ドランバルトは声を荒げる。
「そうじゃない!!今のこの状況を本部に知られたら、島への攻撃もあり得るって話だ!!」
「またエーテリオンを落とすつもり!?」
「懲りないわね・・・あんたらも」
ドランバルトの言葉にハッピーが驚き、ルーシィは呆れたように言う。
「その前にカタをつければいいだけだ」
「マカロフもやられた!!|悪魔の心臓にはまだ恐ろしい奴等が残ってる!!勝てるわけねぇだろ!!」
「おいおい!だから島ごと吹っ飛ばそうってか!?」
ドランバルトにナツが迫り、睨む。
「この島は、私たちのギルドの聖地、初代マスターのお墓もあります!そこに攻撃するなんて・・・」
ようやく立ち直ったウェンディがそう言う。
「信じらんない!!そんなことしたらみんな、ただじゃおかないわよ!!」
「オイラたちもそうやってギルドを守ってきたんだ!!」
ルーシィとハッピーは評議院の攻撃をやめさせようとそう言う。
「俺たち評議院を脅すつもりか!?魔導士ギルドごときが!!」
「いいか、よく覚えとけ」
怒鳴るドランバルトにナツは顔を近づける。
「悪魔の心臓だろうが評議院だろうが関係ねぇ!!ギルドに手を出す奴はみんな敵だ。全て滅ぼしてやる!」
そう言ったナツはウェンディに近寄り、頭をポンッと撫でる。
「安心しろウェンディ。シリルの仇は絶対取ってやる」
「・・・はい」
ウェンディはうなずく。そして、空を見上げた。その空は、少しずつ雨雲に覆われ始めていた。
「この空気・・・空が荒れそうですね・・・」
一方、シリルを殺してしまったカミューニは、森の中を徘徊していた。
「ちっ・・・どうするよぉ・・・」
カミューニはシリルの魔法を手に入れることができず、どうしようかと悩んでいた。
「どうしたね、カミューニ」
「!!」
そんなカミューニに上から声をかけた男がいた。
「アズマか」
男はウェンディたちを倒し、さらにはミラジェーンさえも倒した男、アズマ。アズマは岩の上に座ったままカミューニに話しかける。
「お前としたことが、ずいぶんとキズだらけだね」
「おめぇも人のこと言えねぇだろ」
「うむ、強者と戦った証だね」
アズマの顔は無表情ではあるが、カミューニはアズマが強者と戦えたことを喜んでいるように感じた、
「お前の方はどうだったね、水竜と戦ったのだろ?」
「まぁな」
「魔法は取り出せたのかね?」
カミューニはそっぽを向いてしまう。アズマはそれを見て、目を見開く。
「まさか、お前が負けたのか?」
「はぁ!?」
カミューニはアズマにイラついた顔を向ける。
「んなわきゃねぇだろ!!俺が負けるなんてこたぁねぇんだよ!!」
「だったら、なぜそんなに落ち込んでいる?」
「・・・水竜が、死んじまった」
「!」
カミューニは顔を伏せる。アズマはそれを見て、一つ疑問が浮かんでくる。
「ブルーノートの話だと、死んだ後でも魔法は取り出せるんじゃなかったかね?」
「それは死体がきっちり残ってる時の話だ。だが、死体が海に落ちちまったせいで、全部サメに食われたみてぇだ」
「それは、お前が見て確認したのか?」
「直接はわかんねぇ。んでも、水竜の靴だけが近くに落ちてた・・・多分、食われたと考えんのが妥当なんじゃねぇの?」
「なるほど」
カミューニはその場に腰を下ろす。
「あ~あ、せっかくメルディを解放するチャンスだったのに・・・」
「メルディを、か・・・」
がっかりとうなだれるカミューニ。アズマは前々から気になっていたことを聞くことにした。
「そういえば、なぜ第三世代の滅竜魔導士だと、ハデスを倒せる勝算があるんだね?」
アズマのその問いにカミューニは答える。
「なんでも、第三世代だと自分の意思で竜の力を使えるようになるらしい。竜の力があれば・・・ハデスなんて赤子同然のはずだ」
カミューニは強く拳を握りしめる。
「ドラゴンフォースか・・・」
「ああ」
「なら、まだ可能性はないこともないかもしれんね」
「!?」
カミューニはアズマの言葉に食いつく。
「どういうことだ!!」
「妖精の火竜がドラゴンフォースをしたときのことを覚えているか?」
カミューニはナツが楽園の塔でドラゴンフォースをした時のことを知っていた。そのため、どのようにドラゴンフォースを発動したのかを知っている。
「エーテリオンを食ってパワーアップしたんだよなぁ?」
「そうだ。エーテリオンは様々な属性を含んでいる、それゆえにあのドラゴンフォースが起きたと思われるね」
アズマがそこまで言うと。カミューニは何が言いたいのかようやくわかった。
「つまり、違う属性が混じると、ドラゴンフォースを解放できる“可能性”があるってことか」
「そういうことだね」
カミューニは笑顔になる。
「なら、火竜か鉄竜から・・・」
「いや、その二人は相性がよくないね。火は水に消されるし、鉄は水で錆びる。二人ともお前には良くないと思うね」
「となると・・・」
カミューニは顎に手を当てて一人の少女を思い出す。
「あいつしかないか・・・」
カミューニのターゲットが決まった。
「サンキューアズマ!魔法を手に入れたらお前と最初に戦ってやるよ!」
「楽しみに待ってるね」
カミューニはそういって走り出した。自分の次なるターゲットの元へ。
後書き
いかがだったでしょうか。
次回もよろしくお願いします。
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