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魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~

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StrikerS編
  97話:預言

 
前書き
 
 若干スランプ気味な気がする今日この頃。
 頑張っていこうと思います。デジモンの方も少しずつですが書いてますから、少々お待ちを。
  

 
 





 場所は変わり、六課の部隊長室にて、ライトニング分隊の隊長―――フェイト・T・ハラオウン執務官と、六課の部隊長―――八神はやてが席について話し合っていた。


「―――臨時査察って、機動六課に…?」
「うん、地上本部にそう言う動きがあるみたいなんよ~」


 〝査察〟とはその通りであり、設立されている部隊などに対して規定通り行っているか、おかしなことをしていないか、調べる事だ。
 それの臨時、ということなのだから、査察する事を相手側に告げずに行われる。そんな情報(タレコミ)をはやてが傍受(盗み聞き)したらしい。なんともまぁ子狸らしいやり口だ。


「なんや、今バカにされた気がする…」
「どうしたの、はやて?」


 ボソッと呟いたはやてに、フェイトは気になって質問したが、はやては「なんでもない」と答えた。フェイトも大丈夫だと判断し、話を続けることにした。


「地上本部の査察は、かなり厳しいって…」
「うぇ…うちはただでさえツッコミどころ満載の部隊やしな~」


 はやてはフェイトの言葉にそう言って悩ましい表情を見せる。

 実際のところ、機動六課という部隊はかなり特殊な部隊だ。
 部隊長にSSランクで〝夜天の書〟の主である八神はやてを置き、二つの部隊の長には〝金色の閃光〟の名で有名なフェイト、空の〝エースオブエース〟である高町なのは。こちらの二人は共にS+ランクだ。

 更にははやての固有戦力である〝ヴォルケンリッター〟を副隊長、または補助戦闘員として置きすぐにでも前線へ出せるようにしてある。
 極め付けは〝世界の破壊者〟と呼ばれ、現在六課の副部隊長である門寺士。彼は魔力値だけで言えばはやてを超えるSSSランク。そして彼の魔法の性質上、常の部隊に入ることはまずない。それなのに彼は怪人対策というだけで、この六課に駆り出されている。

 勿論彼ら全員には出力リミッターと呼ばれる枷があり、部隊が保有できる魔力上限には引っかかっていない。フォワード陣や主なバックヤードも、〝まだ〟実績のない人材ばかりだ。
 それに加え、六課の後見人として管理局本局の提督―――クロノ・ハラオウン、本局総務統括官―――リンディ・ハラオウン、そして聖王教会騎士団の実質トップ―――カリム・グラシアが六課を支えてくれている。〝表向き〟の目的も、普通に見れば至極真っ当なものではある。

 しかしやはり部隊の中や後見人の中にも、六課の隊員の身内が多く見受けられるのも事実。実際に地上本部の厳しい査察を今現在の状態で受け、無傷ですり抜けられるかと言われると、はやては自信があるとは言えなかった。
 ましてや先日大きな動きがあったばかり。査察の結果で各員の配置やシフトを勝手に変えられるとなれば、六課としては大きな痛手だ。なんとか乗り切らないといけない、とはやては愚痴を漏らした。

 そんな困った様子のはやてに、フェイトは前々から気になっていた疑問を今になって口にした。


「―――六課設立の本当の理由、そろそろ聞いてもいいかな?」


 いつにも増して真剣みのある目線を持って、質問を投げかけるフェイト。それを見たはやては頷いて、「いいタイミングだ」と言った。


「今日、これから聖王教会本部…カリムのところに報告に行くんよ。クロノ君も来る」
「クロノも…?」
「なのはちゃんと一緒に、付いて来てくれるかな? そこで纏めて話すから」


 はやての言葉に、フェイトも納得して頷いた。
 となれば、なのはにもこの事を話す必要がある。先程なのははシグナム、士の三人で例の少女の引き受けに行っていた筈。時間的には、そろそろ戻ってきていても可笑しくはない。

 そう思ったフェイトは、モニターを開いてなのはへ向けて通信を繋いだ―――のだが……


『うあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 最初に映ったのは、見慣れない少女の泣き顔。部屋中に響くのは、通信を通しての彼女の鳴き声だろう。とにかく、最初に映ったものを見て二人は大いに驚いた。
 その後ちゃんと画面が引き、状況がはっきりし始める。

 先程最初に映った少女は、なのはの服にしっかりしがみついており、その二人の周りに困り果てた様子のフォワード陣が立っていた。
 しがみつかれているなのはも、泣き止みようにお願いしており、困惑気味のフォワード陣もなんとかしようと四苦八苦している。そんな状況を見た二人は、どうにも状況が掴めないでいた。

 そして極め付けが……


『あーッはははは、おもしれぇぇッ!!』


 と笑い転げている士の姿であった。
 色々とカオスな状況に、流石にこのままでは話ができないと思い、どういう状況なのかなのはに尋ねた。

 しかし返ってきたのはとにかく助けてほしい、という旨の要望と、先程から泣き続ける少女の泣き声、フォワード陣のあやそうとする声、そしてかすかに聞こえる士の笑い声である。
 なんともまぁ…カオスな状況だろうか。










 通信を切り、すぐさまなのは達がいる部屋へと向かったフェイトとはやて。
 扉を開け部屋に入ると、未だに泣き続ける少女と、先程よりかはマシになったがそれでも腹を抑えてその辺に転がっている士の姿。そして心底困った様子のなのは達五人の姿だった。


「〝エースオブエース〟にも、勝てへん相手はおるんやね~」


 と例の少女―――ヴィヴィオにしがみ掴まれ、どうすればいいのか困っているなのはを見て、笑いながらはやてが言った。
 その後すぐになのはからの念話で助けてほしいと要望が来て、はやてとフェイトは無言で頷いた。


「スバル、キャロ、取りあえず落ちつこか。離れて休め」
「「は、はい…」」
「それから―――己はいつまで笑っとんじゃい!」
「ギャブスッ!?」


 スバルとキャロに指示を出した後、床に手を打ち付けている士に向けて、何処からか取り出したハリセンを振り抜くはやて。ただの紙素材にしてはかなりいい音が響き、士は本来ハリセンで受けるそれを超えるダメージを受け、静かに床と熱い接吻をする。
 その間にフェイトはヴィヴィオの足元に落ちているウサギの人形を拾い、それを使ってヴィヴィオに話しかける。その手腕はまさに達人の域、後ろから様子を眺めるフォワード陣はその手際の良さとフェイトの放つオーラに驚いていた。


「―――で、士君はなんでそんな笑っとったん?」
「い、否だってさ…普通では見られないなのはの様子が見られるんだぜ、しかもそれが面白おかしいもんだったら…流石にわら―――」
「その前にヴィヴィオが泣き止むように努力せんかい!」
「アベシッ!」


 と、その傍らではやてと士のやり取りが行われていたが、それは無視する方向で決定したフォワード陣は、取りあえず三人のやり取りの成り行きを見守ることに。


「―――だからいい子で待ってよ、ね?」
「うん……」
「ありがとね、ヴィヴィオ。ちょっとお出かけしてくるだけだから」
「………うん…」


 フォワード陣が見守る中、遂にフェイトの見事な手腕によりヴィヴィオはなのはを解放、その後の相手をライトニング分隊の二人がすることになった。
 そして無事解放されたなのはは、はやてとフェイトと共に聖王教会の方へとヘリで行くことになったのだが……


「あれ、はやてちゃん。士君はいいの?」


 なのははこの場にいなければならないであろう人物がいないことに気づいた。フェイトもなのはの指摘で気づいたのだが、はやては手を横に振って「いらん、いらん」と答えた。


「聖王教会で話すことは、士君にはもう話してあるから」
「「え…?」」
「実はな…士君にも関係する重要な話が、六課設立の理由とは別にあるんや」


 それについても教会に着いたら話すと言い、はやてはヘリパイロットのヴァイスへ離陸の指示をした。
























 さて、六課に残った士だが、やはり彼がするのは仕事ばかり。やることは変わらない。
 先日の報告書の残り、その他の自分がやるべき仕事、そして何故か押し付けられてしまったはやての仕事を少々。

 こういう仕事に関する事については士は苦労人であるが、彼も彼女達の負担が少しでも減るならと納得して仕事をしている。まぁ今回のやつに関しては、笑っていた罰だと言われたが。
 そんな中彼はマルチタスクの利用で、今までの事を頭の中でまとめていた。

 先日の戦闘に置いて遭遇した少女達。ロングアーチスタッフの調べでは、彼らは魔力ではなく別系統のエネルギーを用いて行動していたという。
 今や魔法があって当たり前のこの世界で、あのような幻術や砲撃をするには普通魔力が必要になる。しかし実際はそれとは違うエネルギーを使っていたということは、彼女達は何らかの目的の為に〝作られた〟存在。まぁ製作者(おや)は十中八九、スカリエッティであろう。

 そしてその時保護した少女―――ヴィヴィオに関しても、色々可笑しい部分がある。
 見た目6、7歳の彼女は、確かに今まで年相応の反応や行動をしているが、その割には言語能力がしっかりし過ぎている。まぁ今は頼れる人がおらず、感情的になりやすくなってはいるが。

 そこから考えられるのは、やはり例の計画―――フェイトやエリオが関わってくる〝プロジェクトF〟によって、彼女が生み出されたという可能性。
 正直に言えば、エリオなんかは悩んでいるんじゃねぇだろうか、と思案する士。今彼にはヴィヴィオの面倒を見てもらっているが、おそらくその過程で気付くであろう。彼女がプロジェクトFに関わっているという事を。
 フォローすべきか、と思ったがエリオもそこまで弱い訳じゃない、何か影響が見られるようなら声をかけることにしようと決めた。

 そして先日はヴィヴィオを乗せたヘリに向けて、戦闘をした彼女達の攻撃が行われた。
 この攻撃が何を意図したものなのか、はっきりとはわからない。ロングアーチの調べでは、もし砲撃が当たっていた場合、レリックだけが残るという話だったが、本当にそれだけだろうか。

 今回の戦闘では、今までと様相が違った。まずレリックが二つ発見された事、そしてもう一つがヴィヴィオの存在。その変更点があったから、あの得体の知れない彼女達が現れ、戦闘になった。では彼女達は何を望んで、何を狙って攻撃してきたのか。
 彼女達がスカリエッティの命令で攻撃してきたのだったら、レリック狙いだというのはわかる。しかしそれだけだったら、今まで通りガジェットだけでも良かった筈。彼女達を動かしたのには、絶対に訳がある。

 そう考えるならやはりスカリエッティの狙いは、ヴィヴィオだったのではないか、と考えられる。
 勿論レリック収集が六課の所為で思う様に行かず焦ったから、本当にレリックだけが狙いだったという事も考えられるし、この考えが推測の域を出ないものであるのも確かだ。

 だが先日の戦闘によって―――事態が少しずつ動き始めているのは、確実だ。
 そう判断しながら、先日の報告書と一緒にしてある映像(トリスが撮っていたのとロングアーチが残していたもの)―――己とディエンドの戦闘を眺めながら、思考をひと段落させた。

 ふと画面に見える時計が目に入る。時間としては、そろそろあの五人での話し合いが終わっている頃だろうと推測した後、士はあの〝預言〟を思い出していた。
























 所変わって聖王教会本部の、カリムの部屋。
 そこには六課の隊長二人と部隊長、この部屋の主のカリム・グラシアに本局提督クロノ・ハラオウンの姿があった。

 そこではクロノとカリムによって、六課設立の理由が話されていた。
 なのはとフェイトが今まで知らなかった三提督の存在と、カリムの保有するレアスキル―――『預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)』、そして彼女の能力によって預言された『管理局地上本部の壊滅及び管理局システムの崩壊』。

 三提督の話やカリムのレアスキルに関しては、事実である為受け入れることは難しくなかった。しかしそのレアスキルで出た『管理局崩壊の危機』は、想像するのが難しいものだった。
 しかしカリムのこの預言内容の的中率は100%というだけに、それだけの危機が迫ってきているということだろう。更に言えば最近になって本格的に動き出したスカリエッティと頻繁になってきたレリック絡みの事件。それらも照らし合わせれば、預言が当たる日もそう遠くないと考えていいだろう。

 こうしてこれからの事についても、クロノとカリムを交えて話し合った三人。それらはすんなりと決まり、これ以上の警戒としっかりとした対応をしていくこととなった。
 そして今日はお開き―――となる訳ではなく、


「それで…六課に士君がいる理由っていうのは…?」


 五人での会合がひと段落したところで、なのはがそう切り出した。
 六課からヘリでこちらに向かう際、はやては確かに「六課とは別の理由」があると言っていた。しかし先程までの話では、士は一切関与していない。

 はやての真意を確かめるべく放たれたなのはの言葉を聞いた三人は、先程預言の話をするときと同じぐらい険しい表情をした。そしてカリムは再び己のレアスキルを発動して、一つの預言書を前に掲げる。


「―――『欲望と結晶が交わる戦場で、破壊者が真のそれへと近づくとき、黒き野望が遂に動き出す。戦渦の最中彼を支える両翼は焼け焦げ、切られ、破壊者は地に落ちる。地に伏した彼の者達と共に、世界は破滅の道を辿るだろう』……この預言には、こう書かれています」


 また預言書…と思っていた最中、その内容を聞いたなのはとフェイトは目を大きく見開いた。
 二人が気になったであろう単語は、『欲望と結晶が交わる戦場』、『破壊者』、『黒き野望』、そして『破滅の道』。

 最初の一つは、始めに話していた預言と似ている。そして『破壊者』というのには、もう危機馴染みがある。そしてそこから『黒き野望』、世界の『破滅の道』となると……


「まさか―――」
「そのまさか、やと思うで」
「少なくとも彼女のこの預言を聞いて解釈しようとした人物達によると、この預言は先程の預言のすぐ後に起きることではないか、という話だ」
「そして『破壊者』は―――おそらく門寺三佐、『黒き野望』は―――〝大ショッカー〟…」


 つまり―――


「大ショッカーによる、世界の―――全次元世界の危機」


 フェイトの呟きに、はやてとクロノ、カリムがしっかりと頷いた。それを見てフェイトの考えが当たりだという事が分かり、なのはとフェイトは目を見開いた状態で顔を見合わせた。
























 少し時間が経ち、日はもうとっくに沈み、星々が煌めく夜空が広がる時間帯。
 この頃にはもう、あの三人は帰ってきているだろうな。と士が今日の仕事を全てこなして体を休めていた時、突然通信が入った。モニターに映る名前は―――八神はやて。

 こんな夜中に、何事かと思いながら、通話を開始するボタンを押す。


「とりあえずお帰り、はやて。報告書ならとっくに書ききって、お前のデスクの方に提出してあるぞ。他になんかあるか?」
『………』


 モニターに映ったはやての姿は、なんだか暗いというのが第一印象だった。というか、部屋自体暗い。明かりを付けていないようだ。
 士は溜息をついてそのことを指摘したが、はやては黙りこくったまま。未だに口を開こうともしない。


「…なんだよ、要件があったんじゃないのか? 俺は仕事終わらせたから、何もないなら先に―――」
『あんな、士君』
「……なんだよ?」


 ようやく口を開いた思えば、声のトーンもいつもより低い。俯かせていた表情も、上げてみればあまりいいものではなかった。
 早く要件を言う様に急かした士だったが、はやてが再び黙ってしまっても今度は何も言わずに、はやてが喋り始めるのを待ち続けた。


『―――私のやり方って、間違ってたんやろか?』


 はやての口から飛び出したのは、唐突な質問だった。しかし彼女の表情からは、からかうつもりもなく、ましてや何かを誤魔化す為でもない、彼女の本心から出た言葉だという事が分かった。
 それを聞いた士は、先程よりも深く長いため息をついた後、その質問に答えるべく口を開いた。


「どうした、熱でもあるのか? お前、いつもの軽口はどうした、子狸らしい人をだますような感じはどうした?」
『…私って、そんななんかなぁ?』
「おいちょっと待て、今のは冗談だぞ真に受けるな。てかお前本当に大丈夫か? さっきのは本当にすまなかった、俺が悪かった! だからその涙ひっこめろ、お願いだから!」


 軽く雰囲気をよくするつもりで、軽くでもいいからツッコみが来るのを待っていた士だったが、流石にガチな反応をされるとは予想しておらず慌ててフォローする。
 なんだか画面の隅でティッシュを取り出して鼻をかんでいるはやてを見て、今回はかなり重症なんだなと感じる士。


「落ち着いたか?」
『泣かせたのは誰や?』
「俺です、すいません」


 しかしこれではいっこうに話が進まない。そう判断した士は、もはやお遊びは禁物と肝に銘じて話を始める。


「何か気に病むことでもあったのか?」
『…いや、ちょっと親友達がいい人過ぎてなぁ』
「親友…あぁ、なのは達か」
『うん、そしたらなんや、皆に申し訳ないな~…て思うて』


 おいおい、とハンカチで目元を抑えながら涙を流すはやて、しかしそれには士も眉を寄せた。


「…お前、それ本気で言ってんのか?」
『え…?』
「俺やなのは達は、損得勘定でお前を助けてきた訳じゃない。お前が俺達にとって親友だから、助けたいから助けてきた。お前だってそうだろ?」
『せ、せやけど…』
「じゃあ何も迷う事はねぇ、今まで通りお前はお前の思う通りに突き進めばいい。それがどっかで間違ってたなら、俺達が殴ってでも正してやる。どっかで行き詰ったら、俺達が引っ張ってやる」


 だから下向いてんじゃねぇ、上司なんだから上向いてろ。
 そう言って士は、モニター越しにはやての瞳を見つめ続ける。その真剣な眼差しに、はやても思わずたじろいでいた。


「それとな、お前この六課での戦いに自分の命を懸けようと思うなよ」


 しかし士の次の言葉を聞いた瞬間、はやては目を大きく見開き、その後眉を寄せた。


『…なんで? 私の命は私のもんや。どう使おうとも―――』
「アホ、その前提が根本的に間違ってるんだよ」


 いいか、と士はモニター越しに、はやてを指差した。


「命は〝使う〟もんじゃねぇ。大切にして、されて、その人が〝生きていく〟為にあるものだ」
『……ッ!』
「人を救うのは〝命〟じゃない、〝力〟だ。結局のところ悲しみをなくすには、それ以上の喜びじゃなきゃダメなんだよ。そしてそれを得るためには…生きていくしかない」
『でも、でも私は…!』
「幸せじゃいけないって、生きていちゃいけないって誰が決めた? 救急隊員だって、火の中に入る時はしっかり防火服を来てから飛び込む。一番に大切にしなきゃいけないのは、自分の〝命〟なんだよ」


「だから生きろ。お前はお前として、皆と一緒に笑って生きろ」


 士はそう言い終えると、ふぅと息を吐き背もたれに体を預ける。
 ずっと聞きっぱなしのはやては、顔を俯かせてずっと黙りこくっていた。そしてガバッと勢いよく顔が上がると、そこには晴れ晴れとした表情があった。


『ほんま、士君はようそんなクサい言葉言えるな~』
「…言わせてんのはどいつだよ?」
『はは、私や』


 あっはっは、と軽快な笑いをするはやて。やっといつも通りに戻った。そう判断した矢先、はやてが笑いを止めて口を開いた。


『―――ほんま、ありがとうな』
「……大丈夫なんだろうな?」
『うん、もう大丈夫や。元気出た。これからも頼むで、我らが副部隊長さん』
「今後こういう事がないように、しっかりしていてくれよ部隊長」


 お互いの返しに笑みをこぼす二人。はやては最後に「ほな、お休み」と言って―――心の中では最大限の感謝を込めた「ありがとう」を言って、通信を切った。


「……さて、俺も寝ますか」


 先程まで考えていた預言の事について考えたいのは山々だったが、今は目の前の―――先に預言されている事件の方へと力を注ごうと思い、頭を切り替える。
 取りあえず今は体を休める事にしよう、そう思い士は自室へと向かう為、副部隊長室の扉を開けた。





  
 

 
後書き
 
 はやては士にだけ、自分の弱い部分を見せられます。それだけ信頼してるんです。
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