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第三章
ここでもだ、安曇谷に言うのだった。
「ですから気にしない」
「そういう風にしておく」
「それでお願いします」
「結構忍耐力を使ってるよ」
その気にしない風を装っていることもというのだ。
「これでもね」
「それでもですよ」
「忍耐を続けていくんだね」
「それでお願いします」
「何時まで続くのかな」
首を傾げさせて言う安曇谷だった。
「気にしていない風にしていくことは」
「時田さんのあの芸が人気がなくなるまで」
「それがだね」
「はい、そうしたら他の方の物真似をされるので」
物真似芸人の常としてだ、そうなるというのだ。
「ですから」
「それではだね」
「それまでの辛抱です」
時田の安曇谷への物真似が人気がなくなり彼が他の人の物真似をするまでの辛抱だというのだ。そちらが人気が出るまでの。
「あの人色々な人の物真似してますし」
「物真似芸人としては多彩らしいね」
「はい、しかも多芸です」
ただ物真似をするだけえではないというのだ。
「色々な人を特徴を細かいところまで再現しています」
「僕にしてもそうでね」
「ご自身を観ているみたいで」
「余計に嫌になるんだよ」
それでだというのだ、時田の物真似を好きになれないというのだ。
「僕にしてはね」
「そうですよね、ですが」
「時田君の僕の物真似が人気がなくなるまで」
「それまでの辛抱です」
「けれど僕の物真似が一番人気だよね」
「本当に若い時の安曇谷さんに似てますから」
だからこそ、というのだ。
「それが一番人気があります」
「それじゃあ当分かな」
「当分だと思います」
それこそ、というのだ。都も。
「長いと思いますので」
「その間はずっと」
「我慢されて下さい」
「やれやれだね」
安曇谷は溜息をつくしかなかった、今は。
それでだ、こうも言ったのだった。
「それじゃあね」
「これまで通りです」
「我慢していくよ」
「そういうことで」
結局これしかなかった、そしてだった。
安曇谷は時田の自分への物真似を気にしていないふりを続けた、インタヴューやバラエティ番組で聞かれてもだった。
笑顔でだ、こう言うだけだった。
「別にいいと思います」
「気にされていませんか」
「はい」
本音を隠して答えるのだった。
「そうです」
「そうですか、じゃあ」
「時田君はどんどんやって下さい」
やはり本音を隠して言うのだった。
「僕のことは気にせずに」
「では時田さんにも」
「そうお伝え下さい」
こう言うだけだった、そして。
やはり気にしないふりを続けた、だが。
ある日のことだ、彼が都と喫茶店で仕事の打ち合わせをしているとだ。隣の席にいる女子高生達が話しているのが聞こえた。
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