有名人の特権
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第二章
「そんなことしたら」
「物真似された位でクレームをつけるとか」
「はい、そうしたことをするとなると」
「幾ら嫌でもない」
「器が小さいとか言われます」
「それはそれで嫌だな」
「そうですよね、ですから」
さらに言う都だった。
「このことについては」
「何も言わない方がいいか」
「気にしないことです」
それが第一だというのだ。
「安曇谷さんは」
「それがいいか」
「はい、幾ら気になろうとも」
「気にしていないふりでいくか」
「それが一番です、それに安曇谷さんはベテランで」
ベテラン俳優だというのだ、芸能界で確かなポジションを築いている。
「時田さんは若手ですよ」
「ベテランが若手に怒ることも」
「やっぱり大人気ないですよ」
「じゃあ無視するしかないか」
「はい、そうしていきましょう」
「何か納得出来ないんだがね」
安曇谷は都の言葉を聞いてもだ、それでもだった。
その釈然としない顔でだ、都に言うのだった。
「僕はいい気持ちはしていないから」
「ですから気にしないことです」
「無視するんだね」
「それで時田さんとお会いした時も」
その時もというのだ。
「普通に挨拶をされればいいです」
「顔には出さずに」
「演技だと思ってそれで」
そうしてというのだ。
「お願いします」
「悪役になっている時みたいにかな」
「特撮の」
「特撮ね、今でも好きだしね」
若い頃に出ていたのだ、それも悪役の幹部で。安曇谷はそこから人気が出たのだ。
「あの時の役も」
「ダーク博士ですね」
「徹底した悪役になってくれって言われて」
「実際に徹底されていましたね」
「楽しませてもらったよ、それで」
「はい、あの時みたいに」
「徹すればいいんだね」
これは他の役、今もドラマに出た時も同じだ。
「何も気にしていない様に」
「そうして下さい」
「まさかカメラの向こう以外でも演技をしないといけないなんて」
「それも仕方ないです」
「じゃあ何も気にしていないということで」
「お願いします」
都はこう言って安曇谷に時田のことは納得させた。そうしてだった。
彼はだ、実際にだった。
時田については何も気にしていないことを装い続けた、たまにテレビ局で一緒になってもそれでもであった。
笑顔で挨拶をした、しかし。
都にはだ、不機嫌な顔で言うのだった。
「相変わらずね」
「時田さんにはですか」
「いい気はしないね」
自分への物真似についてはというのだ。
「今もね」
「そうですよね」
「うん、だからね」
それで、というのだ。
「あまり会いたくないし」
「物真似自体も」
「止めてくれたら何よりだけれど」
「そうもいかないので」
「そうだね、それじゃあ」
「それじゃあですね」
「今もね」
それは、と言ってだ。そのうえで。
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