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傭兵

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2部分:第二章


第二章

「教皇様の報酬でな」
「いやいや、皇帝陛下だろ」
 ジュリアーノは自分の雇い主を話に出した。
「この場合は」
「それは貴殿だろう?わしは教皇様だ」
「まあどっちでもいいことだ」
 ジュリアーノは実にドライにこう言うのだった。
「お金を貰えればな」
「ではたっぷりと報酬を受け取って」
「また宴会だな」
「ああ、マッケローニでな」
 笑顔で言い合ってその場は乾杯にする。半月後北イタリアのとある場所でそれぞれの兵士達が対峙していた。一方の指揮官は彫が深い顔をしていて金髪碧眼だ。肌は白く背もかなり高い。もう一方は黒い髪と瞳でやや小柄な何処となく陽気な雰囲気の男だった。
 まずはその金髪の男が叫ぶ。
「今この神聖ローマ帝国の完全復活を!敵を倒せ!」
「敵は」
「悪を為す者共だ!」
 こう叫んで敵を己が持っている剣で指し示すのだった。
「悪を倒せ!いいな!」
「おおお」
 だがそれに対する兵士達の声は弱い。その中にはジュリアーノもいた。
「いいか、打ち合わせ通りだ」
 演説をしている彼を無視して自分の兵士達に対してひそひそと話をしている。どうも事前に色々と彼等に話をしていたからしく打ち合わせは細部にこだわらないものであった。
「そのままだ。いいな」
「そのままですか」
「そう、予定通りだ」
 こうも彼等に告げる。
「予定通りだ。いつも通りとどちらがいい?」
「予定通りを」
 兵士の一人が彼に答える。
「それで御願いします」
「それはまたどうしてだ?」
「だっていつもと同じですよね」
「いつもと同じというと?」
 すぐに答えることはなくまずは惚けてみせるジュリアーノであった。
「それは何だ」
「だって旦那様はいつも同じことを仰るじゃないですか」
 彼はこうジュリアーノに述べた。
「だじからですよ」
「そうか」
「程々にですよね」
 その主に対して確かめた言葉であった。
「戦場においては」
「その通りだ。命を失っては元も子もないぞ」
 見れば彼は立派な鎧を着ている。しかし兵士達は実に粗末なものだ。まずはその差が目に着く。そしてその兵士達の殆どはどう見てもドイツ人ではなかった。イタリア人であった・
「わし等は傭兵だぞ」
「ええ」
「傭兵とは何だ」
 部下の兵士達に次に尋ねたのはこのことだった。
「傭兵とは。何なのだ」
「戦場に出てお金を稼ぐ仕事です」
「そう、それだけだ」
 部下の一人の返答に満足そうに答える。
「わかったら無理をするな」
 次の言葉はこれであった。
「いいな、決してな」
「わかりました」
 彼等がこうしたやり取りをしているその頃。教皇軍では従軍している司祭が将兵達に厳かな様子で話をしていた。その緋色の法衣から彼が枢機卿であることがわかる。一国の君主にも相当する地位と名誉、それに富がある。言うならば教会の君主達である。その彼が軍に話をしているのだ。
「宜しいですかな。あれは神に逆らう異端の軍ですぞ」
 こう告げている。
「ですから容赦は無用。いいですな」
「まずくなったらいつも通り逃げるのだ」 
 その話をしているすぐ側でロレンツォがこう部下の兵士達に話をしていた。平野の向こう側にいる皇帝軍には目もくれず自分の兵士達と話をしているのだ。
「ばれないようにな」
「ばれないようにですか」
「安全な場所にまで一時退避だ」
 こうも言い替えてもみせる。
「その時にはな」
「やはりばれないようにですね」
「では聞こう」
 急に真顔になっての言葉だ。
「イタリア男が命をかける時は何時だ」
「そんなの決まってますよ」
「言うまでもありませんよ」
 兵士達は胸を張って口々にその言葉に答えるのだった。
 
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