ダンジョンに復讐を求めるの間違っているだろうか
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不在発見
前書き
えーっと、かなり言うのが遅れましたが、原策重視と書いておきながら、原作にないことを書いて居たりしますが、こちらの都合により原作との矛盾が出ない程度に書いています。
完全に原作通りとはいきませんが、ご了承ください。
「ノエルーーーーーっ!!」
翌日の早朝、【テュール・ファミリア】を中心にして半径五00Mにテュールの叫び声が響き渡った。
「っ!!」
突然の大音声に一瞬で覚醒したノエルはベッド代わりのソファーを飛び出し、階段を飛ぶように下りて、着地したと同時にノエルのいるであろうベッドの方を向いた。
「どうしました、神様?!」
ベッドには瞳を涙でうるうるさせたテュールが女の子座りでへたれ込んでいた。
「ノエルぅ……ひぐっ」
テュールはノエルを見ると、涙で咽せて言葉を詰まらせながら言った。
「大丈夫です。落ち着いてください、神様」
ノエルは見た目相応に取り乱す主神を落ち着かせようとする。
テュールもその言葉にこくっこくっと頷いて、平静を保とうとするも、
「では、訊きますよ。何があったのですか?」
「で、デイドラが――」
「デイドラが……どうしたんですか?」
「ど……どこにもいないのじゃあああ!!」
ノエルの意図に反して、優しい言葉で瀬戸際で堪えていた涙腺が決壊し、テュールの頬を大粒の涙が絶え間無く伝った。
「ベッドの下も前の下も探したのじゃが、どこにもいないんじゃああ!」
「本当ですか!い、いつからいないんですか?!」
ノエルは平静を失って、「身を隠すにしても、そんなところには隠れないでしょう」と言う余裕もなく、テュールに問うた。
「ひ、ひぐっ、さっき起きたら短刀と、うぅ、一緒にいなくなっておったのじゃ、ひぐっ、まだデイドラの命は感じるから、生きておる。じゃ、じゃから生きておるうちに……」
普段取り乱すことがないノエルが完全に平静を失っているのは主神である自分が取り乱しているからだと考えたテュールは威厳と落ち着きを取り戻そうと必死に歯を食いしばって答えた。
が、その姿こそいじらしくて威厳がないことにテュールは気付いていない。
「わかりました、神様!…………あ、あの馬鹿っ!まだ戦える体であるはずがないのに!」
思わず素が出てるノエルは、事態を瞬時に把握し、
「神様はここにいてください!必ず連れ戻します!」
とだけ言い残し、自分が寝巻であることも忘れて、扉へ疾駆し、その勢いのまま外へと消えた。
「ノエル、着替えは……」
という神の呟きはノエルに追いつくはずもなく、頼りなく部屋に漂っただけだった。
◆
「あの~、ミネロヴァさんはいますか?」
ミネロヴァに会った翌日、再びリズはミネロヴァに会いにギルドの受付にいた。
朝、ダンジョンに潜る前に最新の情報を得ようと来た冒険者の作る行列に並び、待つこと数十分、ようやくリズは受付に辿り着いた。
リズはそれなりの時間立ったまま待たされたが、口元には曇り一つない笑みが浮かんでいた。
それは、曲がりなりにも彼女が冒険者で立っていることがそれほど苦にならないことも少々含まれるが、ほぼ全ては彼女の胸に宝物のように抱えられているバスケットに起因している。
そのバスケットからは、心なしか、ほのかに食欲をそそる匂いがする。
「在席していますが、どのような御用件でしょうか?」
いいことがあったように笑顔のリズにヒューマンの受付嬢が他の冒険者に対するように見えない壁を張った対応をする。
「え~と、う~と」
その対応にリズは言葉を詰まらせる。
もちろん、用件がないわけではない。それどころか、その用件は必ず遂行されなければいけない重大ミッションだ。
しかし、それは赤の他人に面と向かって言うには憚れる極秘ミッションでもある。
「渡したいものがあって!」
リズは思い付いた胡麻かしを反射的に言った。
「それは、個人的な贈与、ということでしょうか?」
「え~、あ、はいっ」
(ぞうよってなんだろ?)と思った少し知能の発育が遅れているリズだったが、適当に答えた。
「それになりますと、ギルド職員は、職務規律により、理由の如何を問わず、職務中に贈与物を受け取ることを禁止されておりますので、大変申し訳ありませんが、お引取りください」
「は、はぁ~」
「御用件が他になければ、後ろの方とお代わりください」
(リズにとって)難しい言葉が並び何が何だかわからず返答に困っているリズに受付嬢は事務的な口調で言った。
「うぅぅぅ」
途方に暮れて唸るリズだったが、背後で上がった怒声に救われる。
「おい!ちゃんと並びやがれ!」
「煩いっ!緊急の用件なのだ!」
怒声は二つ上がっていて、男女のもののようだった。
そして、それに重なるように散発的にヤジが上がった。
――だが、
「いや、待て、お前、もしや【冥境の傀儡師】か!」
「私をその名で呼ぶなぁ!」
「逃げろ!操られぞ!」
怒声とヤジはすぐに悲鳴となってロビーに響き渡った。
それと同時に蜘蛛の子を散らすように冒険者がロビーから逃げ出す。
その中には全身を重厚な鎧で固める重撃型の大男もあった。
受付の前に残った者はこの事態を引き起こした金髪のエルフと騒ぎに動じなかった見るからに歴戦の勇者然とした冒険者数人だった。
そのエルフ以外の者達は此れ幸いとばかりに受付に向かったが、そのうちの数人が俯き何かを堪えるように肩を震わせているエルフに同情の眼差しを送りながら横を通り過ぎる。
「不遇よね、ノエルさんは」
「あっ、ミネロヴァさん」
その様子を眺めていたリズの横にいつの間にかミネロヴァの姿があった。
「ミネロヴァ、いるのか!」
金髪のエルフ、名をノエル、はリズの声にぴくりと反応すると、音が聞こえる程の勢いで顔を上げた。
そして、ミネロヴァの姿を認めると、ドガガガガッという床が抜けるのではと思うぐらいの音を立てながら、二人の方に疾走した。
「デイドラを見ていないか?」
ノエルはミネロヴァの手前で急停止すると、鬼もかくやという形相で言った。
「へっ?デイドラ?」
普段ならば、ノエルの鬼の形相に縮み上がっていてもおかしくないリズだが、胸に抱えていたバスケットを取り落とし、ぽかんとしているだけだった。
「見ていないわ……………………いなくなったのね」
「………………ああ」
ミネロヴァの至って冷静な言葉にノエルは苦々しく首肯した。
「い、いなくなったってどういうことですか!」
その首肯にリズは思わず叫んだ。
「君は…………」
ここで初めてリズの存在に気付いたノエルは悲痛に叫んだ少女を見る。
そして、すぐにその少女がデイドラに救われた人物であり、またデイドラに特別な気持ちを寄せているのだと瞳を見て、たいした根拠もなく思った。
「デイドラは短刀を持って消えた。恐らくは――」
だから、ありのままを伝えようと思ったが、言い終えるより早く、リズは踵を返し、走り出していた。
どこへ向かうかは容易にわかった。
「おいっ!どこに行くっ」
だが、リズはノエルが止める間もなく、ロビーから外へと飛び出した。
「冒険者依頼をしに来たのでしょう?報酬をどうするつもりかだけ言いなさい。後は私がするわ」
「わかった、かたじけない」
と言ってから、ノエルはファミリアの全財産に迫る金額を言い、駆け出していた。
「あ、それと、素が出てるわよ、ノエルさん」
「っ!」
ミネロヴァの一言にノエルは肩を飛び上がらせるように震わせたが、足を止めることなく、リズが姿を消した方へ疾駆した。
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