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戦国異伝

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第二百十四話 家康の馳走その三

「まあ大老にはな」
「そこまでは、ですな」
「力が強いので」
「うむ、かえってよくないが」
 しかし、というのだ。
「だがな」
「徳川殿はですな」
「必ず、ですな」
「そこまでの器だと」
「そう仰るのですな」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「あの者はな」
「そういえば殿は」
 ここで平手が言って来た。
「幼き頃から」
「うむ、竹千代をな」
「高く買っておられましたな」
「あの時からそう思っておった」
「天下の執権だと」
「わしがおらねばな」
 ここからはだ、信長はあえて言わなかった。
「しかしじゃ」
「徳川殿ならば」
「天下の執権ですか」
「それだけの方ですか」
「うむ、第二の者じゃ」
 この天下の、というのだ。
「それだけの者じゃ」
「そしてその器を、ですか」
「この度の宴で出されますか」
「徳川殿ご自身が」
「他ならぬあの方が」
「うむ、御主達もよく知っている筈じゃ」
 家康のその器をというのだ。
「付き合いが長いからな」
「はい、あの方は律儀で」
「しかも仁徳があられます」
「民を思いやり懐も広く」
「立派な方です」
「だからわしも盟友に選んだのじゃ」
 家康のその器を知っているからなのだ、信長も。
「それ故にな」
「いや、徳川殿がおられたからこそです」
「我等は大いに助かりました」
「戦の場でどれだけ助けて頂いたか」
「わからぬ位です」
「そうじゃ、だから御主達も知っておる」
 家康のその器をというのだ。
「だからな」
「その器を宴でも」
「見るのですな」
「そうなる、では楽しみにしていようぞ」
 こう言ってだ、信長は家康の宴を楽しみに待ちそして実際にだ、彼が催すその宴に他の者達と共に出た。
 だがその宴がはじまる前にだ、公卿の者達が残念そうに話していた。
「ううむ、昨日の宴は贅を尽くしたものでおじゃったが」
「右府殿の宴は」
「しかし内府殿はどうか」
「心配でおじゃるな」
 こう話すのだった。
「先の能も相撲もなく」
「馬術や剣術の披露でおじゃったな」
「そして酒井殿の海老すくい」
「そうしたもので」
 信長の催しとは全く、というのだ。
「武骨でおじゃったな」
「どうにも」
「質素というか」
「昨日と全く違うでおじゃる」
「贅ではないでおじゃるな」
「ではこれからの宴も」
 それも、というのだ。
「やはりでおじゃるな」
「質素でおじゃるか」
「右府殿のものと違い」
「どうにも」
 こう話すのだった、そして。
 山科もだ、こう近衛に言った。 
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