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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―見えない地平―

「…………」

 覇王城、ジェノサイドブリッジの攻略戦の後しばし。とある野営地で、カイザーこと丸藤亮は一人、もの思いに耽っていた。空を見ると、自分たちの世界では見ることは珍しい、満点の星空が広がっていた……代わりにこの世界には夜しかないわけだが。

「……カイザー」

 そんな亮に話しかけてきたのは、青い制服を着た二人組。先程の覇王城での決戦の際に、撤退ルートを示してくれた三沢大地にクロノス教諭である。二人とエドのおかげで、亮は十代と翔を連れて覇王城から撤退することが出来ていたのだ。

「三沢、十代はどうだ?」

「あ、ああ。今は翔と二人で話してるが……ダメだな、すっかりふさぎ込んでいる」

「仕方のないことナノーネ……」

 自分の意志でなかったとはいえ、覇王であった時の経験は十代の心に深い闇を落としていた。……確かにそれも心配だが、今はそれよりも考えなくてはならないことがある。

「シニョール遊矢のことナノーネ……」

 亮から話を聞いていたクロノス教諭が小さく呟く。神のカードの封印を解くために、翔が持つ悲しみのカードを追っていること。エドをも打ち負かし――この世界で打ち負かすという事は――今も、翔のことを狙っているということ。

「シニョール遊矢は……真面目すぎるノーネ……」

「カイザー、遊矢とは俺に戦わせてくれ。あいつとは俺が一番戦ってきたんだ」

「……ダメだ。三沢、お前では今の遊矢には勝てない」

 こうして逃げ回っていても、神のカードの力を不完全ながら得た遊矢から、いつまでも逃げられる訳でもない。かつての親友として、異世界で戦い抜いてきたデッキを構えて三沢はそう宣言するものの、亮にバッサリと否定されてしまう。

「今の遊矢は、君が知っている遊矢ではない。エクゾディオスを見たことのない三沢よりは、俺が戦った方がまだ勝率はあるだろう」

 亮が訥々と語っていく理由に、三沢は反対意見を口にすることが出来ない。確かに亮の言う通り、実力の面や情報面でも、確実にカイザーの方が勝率は高いのだから。

「……なら、あなたは遊矢を殺すことが出来るのか、カイザー」

「出来る」

 この世界におけるデュエルの勝利という事は、つまりそういうこと――そう問いかけた三沢の質問に、亮は一瞬の躊躇もなく肯定の言葉を言ってのけた。

「翔を守るためなら、俺は悪魔にでも魂を売ろう」

 カイザー亮がそんな意味深な言葉を吐くとともに、その大地に地響きが鳴り響いた。地震のように感じられたが、一瞬で収まると――

「……邪心経典を差し出す気がないのなら、そうするしかない」

 ――そこには、件の少年である黒崎遊矢が現れていた。三沢にクロノス教諭は、驚愕しながらも彼の名を呼ぶものの、遊矢はその呼び声に応えることはなく。ただ静かにデュエルディスクを展開する。

「…………」

 もはや言葉など意味をなさない。それが分かっている亮も、デュエルディスクにデッキを装着し、遊矢とデュエル出来る距離に近づいていく。

「三沢、さっきの地震は……遊矢!」

「お兄さん……」

 野営地から十代と翔も姿を現し、その一触即発の気配を感じて三沢たちに合流する。……もはや彼らは観客に過ぎず、二人のデュエルを止めることは出来なかった。

 ……それと同様に、エドを消滅させてしまった時点で、遊矢にももう退くことは出来なくなっていた。ここで諦めてしまえば、ただエドと明日香は無駄死にになってしまう、と。誰を犠牲にしても、最後には神のカードの力で全員を蘇らせれば、それで――

『……デュエル!』

遊矢LP4000
亮LP4000

 ――それが間違っているとは分かっていても。遊矢に亮……両者ともに、悪魔に魂を売ろうとも。

「俺の先攻」

 得も知れぬ緊張感の中、先攻を掴んだのは遊矢。そのデッキはエクゾディオスから変わりはない。

「モンスターをセット。さらに永続魔法《凡骨の意地》を発動し、ターンエンド」

 最初のターンは特に行動を起こさずに、遊矢は《凡骨の意地》という次のターンへの布石を打ったのみで、まずはターンを終了する。この異世界で手に入れた《イグナイト》と名のつくペンデュラムモンスターは、いずれもモンスターとしてはただの通常モンスターであり、《凡骨の意地》はその為であろう。

「俺のターン、ドロー」

 いつも以上に冷静沈着な声をもって、カイザー亮のターンが始まる。まずは十八番の《サイバー・ドラゴン》か、それともいきなり《融合》か――と遊矢が警戒するなか、亮は一枚の魔法カードを発動する。

「俺は《竜の霊廟》を発動。デッキからドラゴン族モンスターを墓地に送り、そのモンスターが通常モンスターならば、さらにもう一体のモンスターを墓地に送る」

「《竜の霊廟》……!?」

 デッキから通常モンスターを含む、二枚のドラゴン族モンスターを墓地に送る亮の姿に、驚愕の声をあげたのは対戦相手である遊矢だけではなかった。カイザー亮といえば《サイバー・ドラゴン》、サイバー・ドラゴンといえばカイザー亮。それほどまでのイメージを誇っていた彼が、ドラゴン族のサポートカードを使う姿など、想像もつかなかったからだ。

「言ったはずだ、悪魔にでも魂を売ると。俺は《サイバー・ダーク・キール》を召喚する!」

 ……亮が神のカードに対抗する為にデッキに投入したのは、裏サイバー流とも言われる禁じられたカード。その名の通り、白銀の《サイバー・ドラゴン》とは対になるように、召喚されたモンスターは漆黒に染まっていた。

 この異世界に来るにあたって、マスター鮫島から託されていたこの裏サイバー流のカード。使うことはないだろうと考えていたが、今の遊矢に対抗するには、このカードの力も必要不可欠だと考えた。

 外道には外道をもって。今、封印されていたサイバー・ダークが牙を向く。

「《サイバー・ダーク・キール》の効果を発動! 墓地のレベル3以下のドラゴン族モンスターを装備することで、その攻撃力を得る!」

 《竜の霊廟》で墓地に送っていた、ドラゴン族の通常モンスターである《ハウンド・ドラゴン》が装備され、《サイバー・ダーク・キール》は元々の攻撃力である800と併せて攻撃力を2500にまで上昇させる。

「サイバー・ダーク、か……!」

「バトル。サイバー・ダーク・キールでセットモンスターに攻撃! ダーク・ウィップ!」

 一瞬にしてその攻撃力を上級モンスターの領域にまで上げた、裏サイバー流のモンスターに遊矢が戦慄すると同時、亮が《サイバー・ダーク・キール》に攻撃を命じる。もちろん遊矢が伏せていたモンスターは、その攻撃を防ぐことは出来ず、ダメージはないがあっけなく破壊されてしまう。

「破壊されたのは《イグナイト・イーグル》。よって墓地ではなく、エクストラデッキへと置かれる」

 しかしてただやられる訳ではなく、遊矢もそのペンデュラムモンスターの特性を活かし、さらなる反撃の準備を整える。だがその前に《サイバー・ダーク・キール》の獰猛な鞭は、遊矢のことを捉えていた。

「《サイバー・ダーク・キール》が相手モンスターを破壊した時、300ポイントのダメージを与える!」

遊矢LP4000→3700

 予想外に受けることになったダメージに、遊矢は顔をしかめるものの、幸いにもたかが300ポイントのダメージ。まだまだ気にする必要はないと判断し、それより必要なのは亮の動きに警戒することだ。

「メインフェイズ2。フィールド魔法《ブラック・ガーデン》を発動する」

 亮のフィールド魔法の発動とともに、夜の異世界に薔薇の茨が生い茂っていく。遊矢と亮を闘技場のごとく囲むように展開するが、茨の動き自体は、何かを狙うようにうねうねと動きを止めない。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了」

「俺のターン、ドロー……《凡骨の意地》の効果を発動する」

 この局面で最も信頼する《サイバー・ドラゴン》たちではなく、あえて裏サイバー流で立ち向かってくる――遊矢には亮が何を考えているかは分からないが、とにかく今の亮はアカデミアで戦ってきた亮でないということは分かる。だが、それは遊矢も同じだ。

「《凡骨の意地》により、ドローしたモンスターが通常モンスターだった場合、さらにもう一枚ドロー出来る! ……二枚目も通常モンスターにより、さらにドロー」

 先述の通り、今の遊矢のデッキを占める《イグナイト》モンスターたちは、ほぼ全て通常モンスター。よって《凡骨の意地》の発動トリガーとなると、遊矢は労せずして二枚のペンデュラムモンスターを手札に加える。
「俺はスケール2の《イグナイト・キャリバー》と、スケール7の《イグナイト・ドラグノフ》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 ならば行われるべきは、ペンデュラムスケールのセッティング。《凡骨の意地》によってドローされた二枚のイグナイトモンスターにより、遊矢はレベル3から6のモンスターが同時に召喚可能となる。

「ペンデュラム召喚! 現れろ、イグナイトモンスター!」

 手札とエクストラデッキ、それぞれ一枚ずつイグナイトモンスターがペンデュラム召喚される。しかし《サイバー・ダーク・キール》の攻撃力には適わないのか、召喚された《イグナイト・ライオット》と《イグナイト・イーグル》のどちらもが守備表示での登場だった。

 ――そして魔法陣から現れた二体のモンスターに、魔界の薔薇が絡みついた。

「《ブラック・ガーデン》の効果を発動。モンスターが現れた時、そのモンスターの攻撃力を半分にする」

「……!」

 召喚された二体のイグナイトモンスターが茨に絡め取られ、養分を吸収するようにその攻撃力を吸収する。召喚するだけで上級モンスターほどの攻撃力を持つ《サイバー・ダーク》を相手に、召喚したモンスターの攻撃力を半分にする、というのは単純にどうしようもない効果だ。

 しかし今回は守備表示での召喚のため、幸いなことに影響はない。効果を知れただけでも助かったと考えた遊矢の前に、《ブラック・ガーデン》の蕾が亮のフィールドに花を咲かせた。

「さらにこちらのフィールドに、ローズトークンを特殊召喚する」

 モンスターの養分を吸い、花を咲かせる魔界の花園――そう異名を取る《ブラック・ガーデン》の通り、亮のフィールドにモンスタートークンという花を咲かせる。攻撃力は僅か800程度のモンスターではあるが、攻撃力が半分となった今では十分な脅威。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド

「俺のターン、ドロー」

 サイバー・ダークの前に早くも防戦一方な遊矢を追いつめるように、亮はただ淡々とカードを引くと、迷わずにさらなる一手を繰り出した。

「俺は《サイバー・ダーク・ホーン》を召喚する」

 既にフィールドにいる《サイバー・ダーク・キール》に引き続き、新たなサイバー・ダークがフィールドに召喚される。まずは共通効果たる墓地のドラゴン族の装備……より早く、魔界の花園が養分を得ようとその身体を捕縛する。

「《ブラック・ガーデン》は俺のフィールドにも適応される。よって、相手フィールドに《ローズトークン》を特殊召喚する」

 フィールド魔法たる《ブラック・ガーデン》は、自分や相手の区別はなくその効果を適応する。よって、召喚された《サイバー・ダーク・ホーン》の攻撃力は半分となり、遊矢のフィールドにそれを養分として《ローズトークン》が攻撃表示で特殊召喚される。

「《サイバー・ダーク・ホーン》の攻撃力は半分となった……が、効果を発動し、墓地の《ハウンド・ドラゴン》を装備する!」

「つまり攻撃力は……!」

 確かに《ブラック・ガーデン》の攻撃力を半分にする効果からは逃れられないが、サイバー・ダークたちの元々の攻撃力は僅かに800。ローズトークンと同じ程度でしかなく、そこからドラゴン族を装備し攻撃力が決まる。

 よって元々の攻撃力を半分にした数値に、《ハウンド・ドラゴン》を装備した分の攻撃力となり、最終的なその攻撃力は2100。《ブラック・ガーデン》によって半減する遊矢のモンスターを殲滅するには、何てことはないステータスを誇っていた。

「バトル。《サイバー・ダーク・キール》で、ローズトークンに攻撃! ダーク・ウィップ!」

 さらに、効果はそれだけではない。いくらイグナイトモンスターで守備を固めようと、《ブラック・ガーデン》にの効果が一度発動すれば、《ローズトークン》が遊矢のフィールドに強制的に召喚される。しかも攻撃表示で、だ。もちろんそれを見逃さない亮ではなく、攻撃力2500を保っている《サイバー・ダーク・キール》がローズトークンを狙う。

「伏せていた《スピリットバリア》を発動! 戦闘ダメージを0にする!」

「……だが《ローズトークン》は破壊された。《サイバー・ダーク・キール》の効果により、300ポイントのダメージを受けてもらう」

遊矢LP3700→3400

 ステータスは低いものの、スケールを維持すれば半永久的に壁となる、ペンデュラムモンスターの特性から採用した、《スピリットバリア》が遊矢への戦闘ダメージを防ぐ。しかし《サイバー・ダーク・キール》の効果までは防げず、《ローズトークン》の戦闘破壊をトリガーに300ポイントのダメージが遊矢に与えられる。

「さらに《サイバー・ダーク・ホーン》で《イグナイト・イーグル》に攻撃。ダーク・スピア!」

 貫通効果を持った一撃が、壁として召喚されていた《イグナイト・イーグル》を襲うものの、その戦闘ダメージは《スピリットバリア》によって無効化される。もちろん《イグナイト・イーグル》は破壊されてしまうが、ペンデュラムモンスター故にエクストラデッキで次なる召喚を待つのみだ。

「これで俺はターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 これで亮のフィールドには《サイバー・ダーク・ホーン》と《サイバー・ダーク・キール》という二種のサイバー・ダークに、守備表示となった《ローズトークン》、フィールド魔法《ブラック・ガーデン》と一枚の伏せカード。対する遊矢のフィールドは、攻撃力が半減した《イグナイト・ライオット》のみだが、2つのペンデュラムスケールがセッティングされており、永続罠《スピリットバリア》に通常魔法《凡骨の意地》も発動されている。

 ペンデュラムスケールがセッティングされている限り、ペンデュラムモンスターたるイグナイトたちは不死身であり、再び空中に魔法陣が映し出された。

「ペンデュラム召喚! 現れろ、《スピリチューアル・ウィスパー》! 《イグナイト・イーグル》!」
 エクストラデッキからはまたも《イグナイト・イーグル》、手札からは《スピリチューアル・ウィスパー》がそれぞれ守備表示で召喚される。それに《ブラック・ガーデン》の茨が反応し、モンスターの攻撃力を半分にしながら、亮のフィールドに《ローズトークン》を生み出した。

「《スピリチューアル・ウィスパー》がペンデュラム召喚に成功した時、デッキから儀式モンスターか儀式魔法を手札に加えることが出来る。俺は《リトマスの死儀式》を手札に加え、発動する!」

 幸せを呼ぶ青い鳥とでも言うのか、《スピリチューアル・ウィスパー》が羽ばたくと、デッキから一枚のカードが遊矢の手札に加えられる。そして二体のイグナイトモンスターを素材にすることで、新たな儀式モンスターが特殊召喚される。

「イグナイトたちをリリースし、儀式召喚! 《リトマスの死の剣士》!」

 二刀を持った死を司る剣士。イグナイトモンスターを供物に儀式召喚されたが、もちろんそんなモンスターだろうと例外なく《ブラック・ガーデン》は発動し、魔界の茨はその身体を絡め取っていく……が、その《リトマスの死の剣士》の攻撃力は元々0。半減することはない。

 しかし《ローズトークン》は亮のフィールドに特殊召喚され、亮のフィールドが三体のトークンを含む五体のモンスターで埋まる。そして《ブラック・ガーデン》の茨が《リトマスの死の剣士》を解放すると、みるみるうちに《リトマスの死の剣士》はその攻撃力を解放していく。

「《リトマスの死の剣士》は、フィールドに罠カードがある限り、攻撃力が3000に固定される!」

「…………」

 亮はその儀式モンスターのことを知っていた。《リトマスの死の剣士》――攻撃力と守備力が共に0だが、実質永続罠がある限り攻撃力が3000に固定され、戦闘と罠に耐性を持つ儀式モンスター。その効果は《ブラック・ガーデン》をも受け付けず、サイバー・ダークたちの攻撃力をあっさりと超える。

「バトル! 《リトマスの死の剣士》で……《サイバー・ダーク・ホーン》に攻撃!」

 遊矢は亮のフィールドのどのモンスター――最も攻撃力が高い《サイバー・ダーク・ホーン》、貫通効果を持つ《サイバー・ダーク・キール》、低い攻撃力を晒したままの《ローズトークン》――のどれを標的にするか考え、最終的には最も攻撃力が高い《サイバー・ダーク・ホーン》を選択する。《リトマスの死の剣士》の二刀が煌めき、《サイバー・ダーク・ホーン》を切り刻む……かと思えば、切り刻んだのは装備されていた《ハウンド・ドラゴン》のみだった。

「サイバー・ダークは破壊される時、装備モンスターを身代わりにすることが出来る」

「……だがダメージは受けてもらう!」

 サイバー・ダークには共通効果として、装備されていたモンスターを身代わりにする効果を持つが、遊矢の言うとおりダメージまで防ぐことは出来ない。《ハウンド・ドラゴン》の破片が亮の頬を掠め、初ダメージとしてライフポイントを削る。

亮LP4000→3500

 また、《ハウンド・ドラゴン》を失った《サイバー・ダーク・ホーン》の攻撃力は元に戻り、ローズトークンと同じ僅か800。戦闘に耐えうる数値ではない。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー」

 カードを一枚新たに伏せ、遊矢のフィールドは《リトマスの死の剣士》に守備表示の《スピリチーュアル・ウィスパー》、さらに二対のペンデュラムモンスターに《スピリットバリア》にセットカード。サイバー・ダークたちの攻撃力を超える《リトマスの死の剣士》の降臨に、亮が新たに打つ手は……

「俺は《トークン復活祭》を発動!」

 ……フィールドのローズトークンたちを利用することだった。

「《トークン復活祭》は、自分フィールドのトークンを破壊した数だけ、相手フィールドのカードを破壊する。俺のフィールドには《ローズトークン》が三体!」

 カイザー亮ともあろうものが、ただ考えなしに自分フィールドを圧迫する《ローズトークン》を特殊召喚する訳もなく、専用の魔法カード《トークン復活祭》のトリガーとなる。まずは亮のフィールドの《ローズトークン》が破壊され、連鎖的に遊矢のフィールドの《リトマスの死の剣士》、《スピリットバリア》、伏せていた罠カード《イグナイト・バースト》が破壊される。。

「《リトマスの死の剣士》が……!」

 《トークン復活祭》は魔法カード、戦闘と罠に耐性を持った《リトマスの死の剣士》でも防ぐことは出来ず、あっさりと《ローズトークン》の道連れになってしまう。これからの主軸と目していたモンスターがあっさり破壊され、遊矢のフィールドのモンスターは守備表示の《スピリチュアル・ウィスパー》のみとなった。

 伏せカードとして破壊された《イグナイト・バースト》には、エクストラデッキのペンデュラムモンスターを回収する効果があるが、今は特に発動する理由はない。

「俺は《サイバー・ダーク・エッジ》を召喚する」

 そして、その隙を亮は見逃さない。三種目のサイバー・ダークこと、《サイバー・ダーク・エッジ》が新たに召喚され、《ブラック・ガーデン》がその効果を発動する。《ローズトークン》が遊矢のフィールドに特殊召喚され、《サイバー・ダーク・エッジ》の攻撃力は半分になるものの、墓地の《ハウンド・ドラゴン》を装備して事なきを得る。

「バトルを行う。《サイバー・ダーク・エッジ》でローズトークンを攻撃、カウンター・バーン!」

「ぐあっ!」

遊矢LP3400→2100

 特殊召喚されるなり《サイバー・ダーク・エッジ》に《ローズトークン》は破壊され、むしろ遊矢へのダメージソースとなる。さらに他二種のサイバー・ダークの連撃が続く。

「《サイバー・ダーク・ホーン》で《スピリチュアル・ウィスパー》に攻撃、ダーク・スピア》!」

「……だが《スピリチューアル・ウィスパー》は、一度だけ戦闘では破壊されない!」

 儀式モンスターのサーチカードたる青い鳥は、それだけでなく一度限りの戦闘破壊耐性に2000の守備力を備えている。《サイバー・ダーク・キール》の貫通ダメージは防げないが、続く《サイバー・ダーク・ホーン》による攻撃は、《ハウンド・ドラゴン》を失った今行えない。

遊矢LP2100→2000

 戦闘破壊耐性があるならば、《トークン復活祭》の破壊効果を《スピリチューアル・ウィスパー》に回しても良かったか――とは考えたが、今更どう思おうが後の祭りだ。ペンデュラム召喚という、異世界の召喚法の関連カードまで、流石の亮も把握しきれてはいない。

「《サイバー・ダーク・ホーン》を守備表示にし、ターンエンドだ」

 《スピリチューアル・ウィスパー》の戦闘破壊耐性により攻撃のチャンスを失い、《ハウンド・ドラゴン》も失った為に攻撃力が低下した《サイバー・ダーク・ホーン》が守備表示となる。亮はこれでターンを終えると、そのフィールドは三体のサイバー・ダークに《ブラック・ガーデン》、ずっと伏せられたままのリバースカード。

「俺のターン、ドロー……引いたのは通常モンスター、《イグナイト・マグナム》。よってもう一枚ドロー!」

 2ターン目ぶりに《凡骨の意地》の効果が発動すると、《イグナイト・マグナム》とさらにもう一枚ドローし、そのドローフェイズを終える。

「ペンデュラムゾーンの《イグナイト・キャリバー》の効果を発動! ペンデュラムゾーンにある二枚のイグナイトモンスターを破壊することで、デッキから炎属性・戦士族モンスターを手札に加える!」

 維持されていた二対の光の柱が自壊していき、遊矢の手札に新たなイグナイトモンスターが加えられる。ペンデュラムゾーンで破壊されたイグナイトモンスターも、ただエクストラデッキに移動しただけであり、遊矢の手札には二枚のペンデュラムモンスターが控えている。

「さらに魔法カード《大嵐》を発動!」

「なにっ……!」

 ペンデュラム召喚か――と考えていた亮の眼前に示されたのは、フィールドの全ての魔法・罠カードを破壊する《大嵐》。遊矢のフィールドにあるのは《凡骨の意地》のみだが、亮のフィールドには《ブラック・ガーデン》に一枚の伏せカード――さらに、サイバー・ダークが装備したモンスターがある。

 モンスターと言えども装備魔法として扱われている以上、《大嵐》の破壊対象からは逃れられない。サイバー・ダークに装備されていた《ハウンド・ドラゴン》たちが破壊されていき、ただの低火力を晒してしまう。

「そうか……装備カードはお前の十八番だったな」

「…………俺はスケール2の《イグナイト・マスケット》と、スケール7の《イグナイト・マグナム》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 亮の戦線を支えていたカードたちが破壊されてしまった瞬間、亮が何かを懐かしむかのような表情を見せた。そういえば自分にとってのキーカードが《サイバー・ドラゴン》だったように、遊矢は装備カードを巧みに操るデュエリストだったと。機械戦士やシンクロの影に隠れがちだが、遊矢のデッキにはなくてはならない存在だった――という、亮の言葉を無視しながら、遊矢は再びペンデュラムスケールをセットする。

「集いし騎士たちよ! 今、革命の炎とともに現れ出でよ! ペンデュラム召喚!」

 二体のイグナイトモンスターたちが発する光の柱と、ただ天空に浮かぶ魔法陣。そこからエクストラデッキに待機していたイグナイトモンスターたちが次々に現れると、遊矢のフィールドは一瞬でモンスターで埋まる。

「《イグナイト・イーグル》! 《イグナイト・ドラグノフ》! 《イグナイト・キャリバー》! 《イグナイト・ライオット》!」


 先のターンに召喚されていた《スピリチューアル・ウィスパー》を入れて、五体のモンスターが一瞬で遊矢のフィールドに集結する。これこそがペンデュラム召喚の真骨頂、いくら破壊されようが蘇り、その力を一瞬で集結させるのだ。

 ――そして、その力が亮に牙を向く。

「バトル! 《イグナイト・ライオット》で、《サイバー・ダーク・ホーン》に攻撃!」

 まずは守備表示の《サイバー・ダーク・ホーン》が破壊され、伏せカードも先の《大嵐》で破壊された亮には防ぎようがない。今回は守備表示にしていたためダメージはないが、残り二回の攻撃とダイレクトアタックはそうはいかない。

「さらに《イグナイト・イーグル》で《サイバー・ダーク・キール》に攻撃!」

「ぐっ!」

亮LP3500→2300

 さらに《サイバー・ダーク・ホーン》以外のモンスターは、《ブラック・ガーデン》によりその攻撃力を半減している。《ハウンド・ドラゴン》を破壊された今、それはさらに顕著に亮を襲っていた。

「続いて、《イグナイト・ドラグノフ》で《サイバー・ダーク・エッジ》を攻撃!」

亮LP2300→1000

 イグナイトモンスターたちから放たれる一斉砲火に、最後のサイバー・ダークが破壊される。亮を守るものはもうなく、遊矢のフィールドには攻撃していない《イグナイト・キャリバー》が残っている。

「終わりだ! イグナイト・キャリバーでダイレクトアタック!」

「俺は手札から《バトルフェーダー》の効果を発動する!」

 《イグナイト・キャリバー》のトドメの一撃。その重機関銃が亮を貫かんと発射された瞬間、亮の手札から新たなモンスターが特殊召喚される。その《バトルフェーダー》が放たれた銃弾から亮を守ると、そのまま守備表示で亮のフィールドに留まった。

「相手の直接攻撃時、手札からこのモンスターを特殊召喚することで、バトルフェイズを終了させる」

「……カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 ペンデュラム召喚からの一斉攻撃の対策に投入していた《バトルフェーダー》が功を労し、亮はイグナイトモンスターたちの総攻撃から生き延びる。

「俺のターン、ドロー! ……カードを二枚伏せ、ターンを終了する!」

 しかし、イグナイトモンスターたちの継戦能力は圧倒的。サイバー・ダークたちはもう手札になく。今しがたドローしたカードを含めた、二枚のカードを伏せて亮はターンを終了する。

「俺のターン……ドロー!」

 亮が伏せた二枚のカード。亮はこの状況でも、諦めたり対抗策を用意しないデュエリストではなく、確実に何かが仕込まれている……が、あいにく先に《大嵐》を使った遊矢の手札に、リバースカードを破壊する手段はない。

「……バトル! 《イグナイト・ライオット》で、《バトルフェーダー》を攻撃!」

 結局、遊矢はそのままの攻撃を選択する。伏せカードを破壊しようがない限り、悩んでいようが仕方のない。さらに、よしんばあれがミラーフォースのようなカードでも、ペンデュラムモンスターはその特性上被害はないも同然だ。

 そして《イグナイト・ライオット》の攻撃が炸裂し、予想に反して《バトルフェーダー》はあっさりと破壊される。その効果により墓地ではなく除外されていき、亮を守るモンスターはいなくなった。

「続いて、《イグナイト・イーグル》でダイレクトアタック!」

「伏せてあった《和睦の使者》を発動し、戦闘ダメージを無効にする」

 伏せられた二枚のカードにうち、《イグナイト・イーグル》の攻撃時に発動されたカードは、相手からのダメージを無効にする《和睦の使者》。……しかし、その発動タイミングは、誰が見ても明らかなほどにおかしかった。《和睦の使者》には戦闘破壊を無効にする効果があるにもかかわらず、なぜ《バトルフェーダー》が破壊されてから発動したのか。

「ターン――」

 ――その答えは、遊矢がエンド宣言をしたのと同時に明らかになった。

「遊矢。お前のエンドフェイズ、俺は最後の伏せカード《裁きの天秤》を発動させてもらう……!」

 亮が最後のカードだというように、その発動されたカードが亮のフィールド……いや、手札も併せて発動された最後のカード。そして、そのカードはこの状況でこそ最大の力を発揮する……!

「《裁きの天秤》は、相手フィールドのカードが自分の手札とフィールドのカードより多い時のみ、発動出来るカード。その差分だけ、俺はカードをドローする!」

 ……本来デュエルを進行するにあたって、自分の手札とフィールドを合計しても、相手のフィールドのカードの枚数以下となることは稀な光景だ。それでも発動出来れば最強のドローソースとなることは変わらず、事実、亮はその発動に成功する。

「俺のフィールドにはカードが八枚……!」

「俺のフィールドは《裁きの天秤》が一枚のみ。よってその差分、七枚のカードをドローする!」

 さらに遊矢のデッキのウリである、ペンデュラム召喚からの大量展開と二枚のペンデュラムスケールにより、自ずと遊矢のフィールドの枚数は多くなる。ペンデュラムゾーンとモンスターゾーンにいる六体のイグナイトモンスター、守備表示のままの《スピリチューアル・ウィスパー》、伏せられた一枚のカード――そのフィールドの合計は八枚。

「ターン……エンド……」

「俺のターン、ドロー!」

 亮のフィールドは《裁きの天秤》のみだったため、この局面で脅威の七枚ドローを果たす。遊矢にはこれ以上何をすることも出来ず、ただ亮にターンを渡すことしか出来ない。

「俺は通常魔法《未来破壊》を発動! 手札の枚数だけ、俺はデッキの上からカードを墓地に送る!」

 ハンドレスから一転、通常のドローも併せて八枚の手札を得た亮の取った手段はまず、魔法カード《未来破壊》の発動。その効果は……自身の未来たるデッキそのもの、自らの手で破壊することだった。

「俺はデッキの上から手札の枚数分、七枚のカードを墓地に送る!」

「亮……!」

 これで今のターンだけで14枚のカードが亮のデッキから墓地に送られ、最初のドローや《竜の霊廟》なども併せれば、もはや亮のデッキに後はない。もちろん墓地肥やしが重要な戦術だということは、今更言うまでもないことではあるが、それが行き過ぎればただの自殺に過ぎない。

「地獄に近づかねば見えぬ地平がある……俺は《サイバー・ダーク・インパクト》を発動!」

 さらに発動される魔法カードとともに、破壊された筈の三体のサイバー・ダークがフィールドに舞い戻る。しかし無事という訳ではなく、その身体は半透明な上に至る所がボロボロだった。唯一無事と言えるのが、《サイバー・ダーク・ホーン》なら角、《サイバー・ダーク・エッジ》なら爪、というように、自身の名を冠しているパーツのみ。

「このカードの効果により、墓地のサイバー・ダーク三種を除外することで、融合召喚を可能とする!」

「三体……融合……!」

 カイザー亮が操る三体融合――もちろん『あのモンスター』が出て来る訳ではないだろうが、嫌でもソレを連想させられてしまう。それに間違いなく分かることは、今から現れるのはかのモンスターに比類するほどのモンスターだということ……!

「出でよ! 《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》!」

 《サイバー・ダーク・エッジ》、《サイバー・ダーク・ホーン》、《サイバー・ダーク・キール》。三種のサイバー・ダークがバラバラに分裂すると、一番本体に損傷が少なかった《サイバー・ダーク・キール》をメインにし、そこに他のサイバー・ダークの主兵装たる爪や角が装着されていく。最後に壊れかけのパーツだろうとなんだろうと吸収していき、裏サイバー流の切り札に相応しいモンスター――《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》として転生する。

「《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》が融合召喚に成功した時、墓地からドラゴン族モンスター一体を装備し、その攻撃力を得る。俺が装備するのは、《ダーク・アームド・ドラゴン》!」

 その効果は融合素材となった下級サイバー・ダークたちの上位互換であり、レベル3以下という限定がなくなった為に、墓地からレベル7である《ダーク・アームド・ドラゴン》を装備する。《未来破壊》で送られていたのだろう、そのモンスターの攻撃力を得るのはもちろんのこと、まだ終わりを告げることはない。

 ――サイバー・ダークは進化を求め続ける。

「さらに《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は、墓地のモンスターの数だけ、その攻撃力をアップする」

 亮の墓地には《未来破壊》によりモンスターたちが蠢いている。よって、その攻撃力は――4800。元々の攻撃力が1000とは思えない数値にまで成長する。

「バトル。《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》で、《イグナイト・キャリバー》を攻撃! フル・ダークネス・バースト!」

「リバースカード、《ガード・ブロック》を――ッ!」

 何とかその攻撃を遊矢は伏せていた《ガード・ブロック》で防ぐが、戦闘ダメージは防げても衝撃までは防ぐことは出来ない。サイバー・ダーク・ドラゴンから放たれた光弾は、《イグナイト・キャリバー》を一瞬にして燃やし尽くした後、衝撃波として遊矢を襲う。《ガード・ブロック》の壁が無くては、その風圧で吹き飛ばされていたかも知れない。

「カードを二枚伏せ、ターンを終了する!」

「俺のターン、ドロー!」

 ……だが、進化を求める闇のカードならば、既に遊矢の手の中にもある。

「このカードは、墓地のモンスターを全てデッキに戻すことで特殊召喚出来る!」

「来るか……!」

 遊矢が翳したカードから力が溢れ出していく。墓地のモンスターの力を奪い――とは言っても《リトマスの死の剣士》しか存在しないが――遂に、神の力を持ったモンスターが生け贄を求め降臨する。

「《究極封印神エクゾディオス》!」

 雷鳴轟く地鳴りとともに、遂に《究極封印神エクゾディオス》がフィールドに現れる。しかし、力をまるで制御出来ていないように、怒りの雷撃を四方八方にまき散らしていく。

 その雷撃の標的には、もちろんデュエルをしている両者プレイヤーも含まれていた。

「くっ……!」

「さらに《イグナイト・マグナム》のペンデュラム効果を発動! ペンデュラムゾーンのカードを破壊し、デッキから炎属性・戦士族モンスターを手札に加える!」

 亮と揃って雷撃を避けながらも、遊矢はターンを進めていく。エドとデュエルをした際よりもエクゾディオスのコントロールは出来ておらず、地割れや雷撃の天変地異が夜の異世界を侵略していく。

「さらに魔法カード《蜘蛛の糸》を発動! 相手が前のターンに発動したカードを、手札に加えることが出来る! そして、そのまま発動!」

 相手プレイヤーが使ったカードを奪う、という効果を持った魔法カード《蜘蛛の糸》。亮が先程のターンで使ったカードと言えば、遊矢のデッキでは使えない《サイバー・ダーク・インパクト》に――《未来破壊》。

「俺は手札の枚数、四枚のカードを墓地に送り、フィールド魔法《神縛りの塚》を発動する!」

 遊矢の手札は、先にサーチされたカードも含めて四枚。それらのカードをデッキから引き抜いた後、フィールド魔法《神縛りの塚》を発動する。現れた祭壇から伸びた鎖がエクゾディオスを捕らえ、そうしてようやくエクゾディオスの暴走は収まった。

「ふぅ……そして、エクゾディオスは墓地の通常モンスターの数だけ、その攻撃力を1000ポイントアップする!」

 特殊召喚する際に墓地のモンスターを全て墓地に戻してしまうため、エクゾディオスの攻撃力はどう足掻いても最初は0。その為に亮の墓地から《未来破壊》のカードを奪っていた。

「亮。お前が地獄に近づかないと、見えない地平があるっていうなら……その地平は、俺にはもう見えている!」

 デッキから引き抜いていた四枚のカードを掲げた後、そのカードたちの居場所である墓地へと送る。そこから祭壇を通してエクゾディオスの力となり、その攻撃力は何枚通常モンスターを墓地に送れたか、により決定する。

「よって、《究極封印神エクゾディオス》の攻撃力は――4000!」

「……引き当てたか……」

 遊矢が《未来破壊》によって墓地に送ったのは、エクゾディオスの糧となる通常モンスターが四枚。遊矢の勝利への執着心が、そのカードたちを引き寄せたのだ。

「バトル! 《究極封印神エクゾディオス》で、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》に攻撃! エクゾード・ブラストォ!」

 エクゾディオスの攻撃力4000に対し、亮のフィールドを守りし《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の攻撃力は4800。一見して及ばないように感じるものの、エクゾディオスには、攻撃時にデッキからモンスターを一枚、墓地に送る効果がある。

 もちろん墓地に送るカードは通常モンスター。さらにエクゾディオスの力への贄が増え、攻撃の直前にさらに進化を果たす。

「お前の覚悟は伝わった……だが、俺とて負けるわけにはいかん! 《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は、装備モンスターを身代わりに破壊を無効に出来る! ――――ぐぅぅっ!」

亮LP1000→800

 《神縛りの塚》を通して現れた怒りの雷撃に、亮と《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は真正面から受け止める。しかし、下級サイバー・ダークたちと同様、その身代わり効果により何とかフィールドに留まった。

 身代わりにした《ダーク・アームド・ドラゴン》は原型を留めぬ程に粉砕され、亮にも少なくない現実におけるダメージを喰らったものの、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》が生き残ったことで遊矢の追撃は止まってしまう。戦闘破壊出来ていれば《神縛りの塚》によりバーンダメージが、それが防がれていようが残りのイグナイトモンスターがいたのだが……戦闘破壊出来ねば《神縛りの塚》は効果を発揮せず、下級モンスター程度の攻撃力を持たないイグナイトモンスターでは、自身の効果で攻撃力を上げた《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》を突破出来ない。

「っ……! ……イグナイトモンスターを全て守備表示。カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「俺の、ターン。……ドロー!」

 遊矢のフィールドには、満を持して召喚された《究極封印神エクゾディオス》。守備表示のイグナイトモンスターたちと《スピリチューアル・ウィスパー》はいるが、もはや大勢に影響を及ぼすには至らないだろう。四体のモンスターという数が問題にならないほど、《究極封印神エクゾディオス》という存在が圧倒的なのだから。さらにフィールド魔法《神縛りの塚》に、二枚のリバースカードが伏せられている。

 対する亮のフィールドには、裏サイバー流の切り札こと《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》が控えているが、先のエクゾディオスの攻撃に装備していたドラゴンを失い、もはや下級モンスターほどの攻撃力しか残っていない。……こちらも、先のターンに伏せられた伏せカードが二枚存在している。

「フッ……俺は《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》をリリース!」

 ドローしたカードを見て、亮は一瞬微笑んだような気配を見せると、なんと切り札である《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》をリリースしてしまう。しかし、遊矢はそれ自体に驚くことはない――もはやそのステータスでは、エクゾディオスに及ばないことは明白だったからだ。

 肝心なのは、それをリリースして亮が何をしてくるかだ。

「《サイバー・ドラゴン》をアドバンス召喚する!」

 ――モンスターをリリースする魔法カードの発動かと思いきや、亮が選んだ手段はまさかのアドバンス召喚。それも彼の主力モンスターである、《サイバー・ドラゴン》の遅すぎる登場だった。

「リバースカード、オープン! 《激流葬》!」

 しかし、その《サイバー・ドラゴン》が何をするよりも早く、一番最初に開帳した遊矢のリバースカード《激流葬》の効果が適応される。カードから流れた激流がフィールドを殲滅していき、遊矢のエクゾディオス以外のモンスターと、《サイバー・ドラゴン》を例外なく墓地に送る。《神縛りの塚》の効果により、レベル10モンスターである《究極封印神エクゾディオス》には、対象を取る効果と効果破壊耐性が付与されているため、フィールドにいたモンスターの中で唯一の無傷。

 遊矢がイグナイトモンスターたちを犠牲にしてまでも、素の《サイバー・ドラゴン》を破壊するためだけに《激流葬》を発動したのは、この状況を逆転できるコンボを警戒してのこと。

「……読まれていたか」

 亮のフィールドに伏せられた《DNA改造手術》に、エクストラデッキに眠る《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》。その効果はフィールドの機械族モンスターを融合素材にする――という特異な融合モンスターであり、《DNA改造手術》により機械族を選択すれば、フィールドのモンスター全てを飲み込む最強の除去と化す。それは例え、《神縛りの塚》に守られたエクゾディオスだろうと防げるものではなく、そのコンボを持ってすればエクゾディオスの攻略も可能だった。

 ……だが、それを警戒した遊矢の《激流葬》により、エクゾディオス以外のモンスターは破壊されてしまう。《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》を失い、《サイバー・ドラゴン》のアドバンス召喚により、召喚権を失うという最悪の結果に終わる。

「だが……俺にはまだ、『切り札』が残っている! 速攻魔法《サイバネティック・フュージョン・サポート》を発動!」

「まさか……!」

亮LP800→400

 亮が自身のライフの半分を対価に発動したその速攻魔法に、遊矢は驚愕に目を見開く。アカデミアにその名を轟かせた、カイザー亮の必勝パターンの第一歩――《サイバネティック・フュージョン・サポート》。ライフポイントを半分にすることで、機械族モンスターの墓地融合を可能とする速攻魔法である。ただ《ミラクル・フュージョン》のような類似カードとは違い、このカードだけで融合召喚が可能な訳ではなく、さらに別途融合召喚をするカードの発動が必要不可欠だ。

 しかしそれも、カイザーの手に掛かればメリットへと変わる。《サイバネティック・フュージョン・サポート》の効果が適応され、亮はさらにもう一枚のカードを発動する。

「俺の信じる、最強の融合カード――《パワー・ボンド》!」

 ――そして、このコンボから現れる最強のモンスターは、もう既に決まっている。

「現れろ……《サイバー・エンド・ドラゴン》ッ!」

 遂に降臨する、カイザー亮が誇る最強の切り札。《未来破壊》と先程の《激流葬》で墓地に送られていた、《サイバー・ドラゴン》たちが一つに合体し、神のカードたる《究極封印神エクゾディオス》と並び立つ。放たれる雷撃をものともせず、ただ主の命令を待ってフィールドに鎮座する。

「《パワー・ボンド》の効果により、《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力は8000。さらにレベル10モンスターのため、《神縛りの塚》の効果を得る」

 フィールド魔法である《神縛りの塚》は、遊矢のフィールドにだけではなく亮のフィールドにも影響を及ぼしてしまう。神のカードと同等の力を手に入れた《サイバー・エンド・ドラゴン》は、究極の融合カードたる《パワー・ボンド》により、元々の攻撃力を倍にしその攻撃力を8000とする。

「サイバー・エンド・ドラゴン……だが、負けるわけには……!」

「バトルを行う。サイバー・エンド・ドラゴンで、エクゾディオスに攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 エクゾディオスの攻撃力をゆうに超えた、《サイバー・エンド・ドラゴン》のレーザーがエクゾディオスに発射される。さらに《神縛りの塚》の耐性をも備えて――しかし、遊矢とて負けられない理由がある、と《サイバー・エンド・ドラゴン》に立ち向かう。

「リバースカード、オープン! 《封印防御壁》!」

 先のエドとのデュエルにおいても発動された、《究極封印神エクゾディオス》のサポートカードたる罠カード。その効果はレベル10モンスターを対象に取る効果でもなく、ましてや破壊する効果でもない。

「相手モンスターが攻撃宣言をした時、そのバトルフェイズを終了させる!」

 永続的な強制バトルフェイズ終了効果。遊矢の周囲に、発動された《封印防御壁》を中心として防壁が展開され、《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃だろうと防ぎきる。

 ――だが《封印防御壁》はその役目を果たせず、防壁を展開するより早くバラバラに破裂していく。

「チェーンして《トラップ・ジャマー》を発動した。バトルフェイズ中に発動された、罠カードの効果を無効にする」

「――――ッ!?」

 ……青色の防壁がパリンと砕け散ると、遊矢の目の前には《サイバー・エンド・ドラゴン》が放った光の柱。先程自らで宣言した、負けるわけにはいかない――というセリフが脳内でリフレインするが……遊矢にもはや、その攻撃を止める手段は存在しなかった。

「俺は……負けるわけには……負けるわけにはあああああっ!」

 最後にもう一度そう叫ぶと、遊矢は光の奔流に巻き込まれていく。鎖で縛りつけられた、エクゾディオスとともに……

遊矢LP2000→0

 
 

 
後書き
肝心な時に勝てない系主人公。さて、予定通りになるなら、3期はあと2話~4話で完結する予定です。では、また。最後までお付き合いいただければ幸いです。
 
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