寄生捕喰者とツインテール
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次なる一手
前書き
テイルイエローの初陣! ……の筈が?
項垂れていた。
地に膝をつき、肩を大きく下げ、顔を見せぬよう俯いていた。
テイルイエローとして意気揚々初陣を飾った、笑顔の輝いていたあの時の会長の姿は、見る影もなかった。
周りには倒れ込んだ戦闘員―――アルティロイドがいるが、どれも爆発はしておらず、ワザとらしくピクピク痙攣しているだけ。
初見ではおフザケ感満点なこの光景ではあるが―――何も彼らは遊んでいる訳ではない。
……一応、テイルイエローの攻撃を受け、アルティロイドはこうなったのだ。
「敵にまで情けを……私はっ……ううっ」
「イエロー……」
テイルレッド・総二が心配そうに声をかけるも、テイルイエローは涙をハラハラこぼしながら、何も答えずしゃくり上げていた。
…………彼女の意気が根こそぎ削がれることとなった此度の戦闘、それが起きる切掛けは数分前まで遡る。
アルティメギル出現を知らせるアラートを受け、何時も通り総二はテイルレッドへ、愛香はテイルブルーへ、そして会長はテイルイエローとなったまま、つい最近増築されたらしいワープ装置へ乗り込み、一旦基地まで飛んでから改めて現場へ向かう。
そこはどうやらとある学校の校門前の様で、無数のアルティロイドと一緒に、何時ものように仁王立ちっぽい質姿ではあるが、腕は腰あたりで固定され組んではいない、ウシ型のエレメリアンが目に入る。
それはよく見るとオロオロしている様にも見えるが……その原因は目の前で繰り広げられていた『ポップコーン』にあった。
とはいっても玉蜀黍が高々と跳ね上がっているのではなく、コーン代わりにアルティロイドが宙を舞っているという光景だったのだが。
その中心に居るのは、こちらも何時ものことながら、ツインテイルズよりも早く現場へ到達している、食欲万歳モンスター少女・グラトニーであった。
地面に左手を着けている所作、開閉を繰り返す吸気口兼噴出口、すぐには食いつかないことを見るに、何やら新たな技でも試しているのだろうか。
やたらコミカルな現状に、数秒間だが面食らったテイルレッドたちは、すぐに頭をぶんぶん振って我に返ると、数メートル分近づいてお決まりの如く声を上げる。
「今日も現れたか、アルティメギル!!」
「おお! その声はテイルレッドか! ……む? どうやら新たな者がいるようだが……そのツインテールからして、只者では無かろう? 何者だ、お前は!!」
その言葉を待っていたか、会長―――現・テイルイエローが、腰に手を当て堂々と宣言して見せた。
「私こそ第三のツインテイルズ! その名も……テイルイエロー!」
「なんと、新たなツインテイルズだとは……面白い、此方の血潮も滾るというものだ!!」
トゥアールが通信越しに、こっそり小さく『第四の』と付け加えていた事に、総二―――現・テイルレッドは微妙な表情を作り出す。
確かに、もう青年の事の方が記憶に残ってしまい、若干ながら影の薄いドラグギルディとのやり取りの際、トゥアールも含めてツインテイルズだと彼は言った。
それでもアルティメギル、及び世間から見れば出た順であるし、トゥアールはサポートなので第○○のツインテイルズに数えられるかどうかは、正直ぎりぎりのラインである為、会長の言い分が間違っているかと言えばそうでもないのが本当の所。
トゥアール本人としては譲れないかもしれないが、ここは涙を呑んで第四に甘んじて頂きたい。
……加入者が現れ戦闘員が増えるたびに、今回と同じような事が再び起こるとしても。
「テイルイエロー、その名しかと聞かせてもらった!」
咳払いをひとつかましてから、恐らくグラトニーには力付くで妨害されたであろう、前口上を口にし始める。
「我の名はブルギルディ! 隊長に魅せられ貧乳を求める者! ……世には乳を大きくすることを望む者が多いこと……何故分からないのか! 貧乳こそ思考にして人体の黄金比を引き出すというのに! 貧乳こそ始まりにして終りの乳だと言うのに!」
「中々いいこと言うじゃない? ……でも乳にこだわるなら倒さないといけないわね」
そこで脈絡無くいきなり『ポップコーン』が止まり、グラトニーが無表情に近くとも、確かに浮かぶ呆れの色を持って、テイルブルーを見ていた。
その視線に、テイルレッドは身内の好だからか庇うように、止めてくれとハンドジェスチャーで訴えかける。
その試みが失敗しそうでも。
「新たな戦士よ、このブルギルディへと存分にかかってくるがよい!! まずは小手調べだ……アルティロイド!!」
「「「「「モケーーーーッ!!」」」」」
ようやく疑似ポップコーン祭りから解放された戦闘員達が、足元が覚束ないながらも腕を高々に掲げ、鬨の声を絞り出す。
テイルイエローも不敵に笑ってそれに応え、出撃前にトゥアールから簡単ながら説明を受けていた武装の展開方法を実行すべく……リボン状パーツに触れ、強く念じる。
瞬間、黄金色の雷が迸り、彼女の手にはパーソナルカラーであるイエローに塗られた、通常サイズの拳銃よりも大きい、未来的なピストルが姿を現した。
「これぞ私の相棒―――雷の銃、『ヴォルティックブラスター』!」
「遠距離武器の使い手だと……三人目にして、とうとう現れたか!」
「今まで人々に悪行を働いてきた罪、償って頂きますわ。この銃撃をしかと身に刻み見なさい……さあ!くらい遊ばせ!!」
「「「モ、モケェッ!?」」」
宣言すると共に銃を片手で構え、大怪盗の相棒もかくやの早撃ち三連射で、アルティロイド三匹の胴体を狙う。
テイルレッドは期待に胸を膨らませ、その様を凝視する。
雷光眩い銃口から放たれるは、正に黒雲より降りる雷電の弾丸――――
―――ではなく、雷っぽい何かを纏った、縁日名物な射的で使うコルク弾のような、
情けないとしか形容できぬ一撃……計三つ。
それが、シュポポポンという、気の抜ける情けない音と一緒にとびだした。
「モォ! モケェェェェッ……モケ?」
「モゲエェェ!! エ!? ……モケケ?」
「モ、モケー……」
当然のことながら弾丸は戦闘員に傷一つ負わせられず、逆にスポンジボールでも当たったかのように跳ね返されてしまった。
如何反応していいか分からず、アルティロイドは挙動不審にあたりを見回している。
これにはテイルレッドやテイルブルー、敵である頭のブルギルディ、そしてまだ新参だから譲るべくか、一応空気を呼んでいたグラトニーでさえ、呆気にとられて棒立ちとなっていた。
「え? ……ま……まだですわ! 私の武装を『ヴォルティックブラスター』のみだと思っているのなら、それは大間違いですわよ!」
「な、なんと! 先のあれは此方を試す為の……ゆ、油断ならんな! な!」
「「「も、モケケ! モケーーーッ!!」」」
「そそ、そうだよな! もっと強い武器がワンサカあるんだもんな!」
「心配しなくても大丈夫よ会長! 失敗してもその乳は私がもらうから!!」
「……空気読めない人、約一名……」
尤もなグラトニーの発言が差す約一名が、一体誰なのかはこの際説明しなくてもよいだろう。
(一人を除いて)何とかお膳立てしてもらい、慌てながらもイエローが腕を引き再び前へ出すと、なんと碗部横から銃口が現れた。
他二人の鎧過少なコスチュームや、露出大目なコスチュームとはちがい、イエローのコスチュームは矢鱈とゴツい。
それは体の各所に遠距離武器を仕込んでいる為。だから他より重武装なコスチュームだったのだ。
手に用意された発射口。
そこから放たれるは、雷のレーザー。
無慈悲なる黄金の閃光が、アルティロイドを呑みこんでいく。
…………事は無く、ポヤヤーとしか聞こえない怪奇音を合図に水鉄砲のような、プシュ~っとしたレーザー(のような何か)が射出される。
それは放物線を描き、重力に従い曲がって狙いが定まらず、避けてもいないのにアルティロイドの小脇やら頭上やらを通り抜けていく有様だった。
「あ……フ、ウフフ、すばしっこい敵ですわね? 此方も倒し甲斐があるというものですわ!」
「モケ、モケエッ!」
「モッケモッケ!」
「モケ……モ! モケケェ!」
何故か敵の面目を保つべく、コンマ数秒の時間も悩まず、アルティロイド達はヒョコヒョコ動いて、さも自分達は見切って避けましたー……といった雰囲気を作っている。
その様子を見たレッドは、何を幻視したか少しづつゲンナリし始めてきていた。
両肩に装備されたバルカン砲は、音こそ物々しいだけで、勢いの無いポップコーンのごとき弾丸しか射出されない。
脚に用意された電撃性の爆破弾は、特に何を破壊するでもなく己が木端微塵と消える。
腰あたりから放たれる大きなミサイルは、蝶々でも跳んでいるのかあっちへ行きこっちへ行き、地面に命中するも焦げ跡一つ残せずに消える。
膝あたりから放たれるはスタンガンか、近づいて膝蹴りを入れるも、型がなっていない上に静電気ぐらいしか走らず、結果ダメージはゼロに等しい。
脚先のネイルガンも同様。
背中あたりから放たれる刃のような特殊弾は、幼稚園児の落書きと変わらぬ手抜きな造形で、勿論何を斬るでもなく霧散し虚空へと消えた。
もう本当に情けなくなってきたか、アルティロイド達はせめて、彼女の放つ攻撃に一つの撃ち洩らしも無いよう、全力で動き回って出来るだけ受け止めている。
敵ながらの優しさ、思わずレッドの目にも涙が出てきてしまう。……ブルーは何かを期待しているようにイエローの胸部を見続けている。
グラトニーは、行く末だけは見守らんとしたか、珍しく動かずに黙っていた。
「まだっ……ぐすっ……まだですわああっ!!」
哀れになる程の悲惨さを、顔に浮かべて放つその姿にヒーローの勇ましさは無く、どちらかと言うともう手段が無い、敵方のやけくそな行動に近い。
それでもと行われた次の攻撃は……何とも、おっかなびっくり―――胸の装甲がパカッと開いて、中からミサイルが数撃放たれたのだ。
どこぞの女性型ロボット丸パクリなその武装も例にもれず、いっそ飛んでいるのが不思議な遅さで電柱にぶつかり、ペチッという大凡ミサイルは起こさない音を立てる。
この現象に一番反応したのは、やはりか意外か愛香―――現・テイルブルーだった。
「見た! 見たレッド!? 偽乳よ! 偽乳!! アハハハ! やっぱり偽乳!!」
「……不憫」
「充分解ってるから……言わないでやってくれ、グラトニー……」
「……かなり、不憫」
しつこく指さして何度も振り向き、仲間であろうと気に入らない部位を詰るそれは、逆にテイルブルーへ抱いていた不憫な思いをより増加させる、燃料のような役割しか果たさなかった。
テイルレッドが何とか弁解するも、グラトニーは斜め下を向いてテイルブルーの方を見ようとはせず、辛うじて見える彼女の目に浮かぶ『哀れ』の文字を、最早消すことはかなわない。
ちなみにその偽乳と思われた部位だが、胸部装甲下はどうも不思議空間になっていたらしく、普通にちゃんとしたおっぱいはあり、打ちひしがれる心情を現しているのか、しっかり肉感を持って揺れている。
テイルイエローが信じられない事実に地面に膝をつくと同時、テイルブルーもまた信じられない事実(?)に膝をついて泣いていた。
「ううっ……ううああぁ……」
なけなしの気力を振り絞って放たれた、残弾量がトップな『ヴォルテックブラスター』の……やっぱり変わらぬコルク弾。
明らかにあらぬ方へと軌道が逸れていた攻撃へむけ、アルティロイドは横っ跳びでわざと当たる。
「モ、モケ~ェ! ……モケッ」
うわぁやられた~……そう言いたげな所作と共に、自分でゴロゴロ転がって、一体目のアルティロイドは動かなくなる。
そこから意図を理解した他二体も続き、パタリと倒れてピクピク痙攣し、力尽きたように動きを止める。
それはもう戦いなどではなく、休日にヒーローごっこをする “父と息子” のやり取りに相違なかった。
何故だか見ているだけの第三者まで、目頭が熱くなってしまう。
「敵にまで情けを……私はっ……ううっ」
「イエロー……」
ガックリ膝をつき前を見られないイエローに、もう打つ手は無く、立ち上がる気力も無い。
レッドも、かける言葉が無く、ただ寄り添うことしかできない。
……此処でまたもや空気を読まなかったのが、別に名前を呼んでもいい『例のあの人』だった。
「もういい……もういいわ……乳に裏切られ続けたこの思い―――お前で晴らさせてもらうからああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぬおっ! い、いきなり来たか!?」
グラトニーの一件で唐突なバトルは既に対応済みか、ブルーの『ウェイブランス』による刺突を、蹄を打ち鳴らすステップで避けていく。
頭狙いを角で流しながらダッキング、胸部狙いを半身にしてバックステップ、突き出した格好のままいきなり横に二回薙がれ、一撃をくらうもバック宙を行い着地する。
もう一度やりを突きだしたブルーに近づき一撃を打ち込もうとするが、もうやりで戦うのは性に合わないと思ったか、スナップを利かせて槍を軽く投げ、左ソバットを横っぱらに打ち込んだ。
さらなる追撃の為に脚へと力を込め……瞬間真横に跳ぶ。
飛来してきた風纏う弾丸に、ブルギルディは声も上げられず後ろへ吹き飛んだ。
その正体は……グラトニーだ。
一応ブルーを避けるように飛び込んだらしいが、彼女もこれまでの行動を見て、素直に突っ立って居られる心境には至れなかったのだろう。
「……我慢した、だから食べるの自分」
「グラトニー……っ!!」
ブルーよりも早く倒せればいいだけだと、グラトニーは吸引と噴出を行う部位をグバッと開き、エネルギーとなる空気を溜め込み始める。
しかし、今度は彼女が真横に跳ぶ番だった。
ブルーからの跳び蹴りが来たのだ。
「なんで邪魔するのよ……あんたは乳があるからいいじゃない……でも乳の無い者はどうなるの!? 苦しみを知らないあんたなんかに、乳を語ってほしくは無いわ!!」
「……は?」
どうも色々と(ブルーにとっては)信じがたい事実を突き付けられ、思考がぶっ飛び混乱している様子。
傍を通り抜けただけなのに、敵視されて乳が云々言われれば、グラトニーが目を丸くするのも頷ける。
「我慢なんて出来る訳が無い……乳のでかい奴は敵よ!! つまりグラトニー! あんたも敵なのよ!」
「どんな理屈だよ!?」
「……はぁ」
グラトニーとしては「やってらんねぇ」という意味で吐いた溜息だろうが、妙なテンションとなっているテイルブルーは、それを違った意味でとらえた。
「なによその溜息っ―――『これだから乳の無い奴は』……ですって!?」
「……にゅ?」
もう付いていけないのか素っ頓狂な声しか出ないグラトニー。
置いてけ掘りをくらったブルギルディは、(変態なのに)戦士としての誇りから逃げる事も出来ず立ち尽くす。
テイルレッドは、とりあえず見ている場合じゃないと、テイルブルーはグラトニーに任せて戦闘員を片付けに行く。
そして……余りにも理不尽なバトルが勃発した。
「うおおおおおおっ!!」
「……」
テイルブルーの連携パンチは、身長の差からか碌に狙いがつけられず、より頭を下げられたり懐に入られ無効化される。
ならばと足払いの要領で眼下の敵を狙うのだが、普通なら死角から跳ね上がってくる攻撃も、グラトニーからすれば普通に迫るキックでしかなく、これもまた余裕を持って右手添えのバック転で避けられた。
「これ見よがしにぃッ……!!」
どうも先程の動作で彼女のおっぱいが激しく揺れたか、いつの間にか集まっていたギャラリー(の主に男)は大歓声を上げ、ブルーは親の仇でも見ているかのような目つきでグラトニーを睨めつける。
ブルギルディは貧乳を求めるものだからか、少し不快感をあらわにしていた。
「私だって揺らしたいのよ!! アイツが求める理想により近づきたいのよ!! 持たざる者に見せつける為にあるのなら、いっそ私が削ぎ落おとす!!」
「……ツインテールで十分だと―――あ」
違う、とグラトニーは口を途中で噤む。
確かにツインテール属性でいえば、ブルーの方が圧倒的に上。
しかし属性力の強さとは、あくまでエレメリアンやこういった属性力依存の技術に必要な要素であり、外見的な魅力には余り関係が無い。
だから例え、思い人が紙型以外求めていなくとも、「ツインテールも欲した乳もある」グラトニーが、心底憎く映るのかもしれない。
だとしても……それならば、同条件であるテイルイエローはどうなのか?
一応仲間だから、そして今イエロー自身も現在かなり惨めだから、手に掛けないのだろうか。
何にせよ、グラトニーにとってはいい迷惑でしかないが。
「フン! フン! フンヌゥッ!!」
「は、よ、ほっ……」
「オオリャアアアァァッ!!」
「やっ」
上から下、繋げて中段の三連回し蹴りを、屈み、跳び、右腕を脚にぶつけることで回避。
コンクリートが罅割れる踏み込みからの刺突を、リンボーから蹴り上げる形でやり過ごす。
……もう大分女性としてやってはいけない顔、出してはいけない声を、我問せずとしこたま出し続けている事についてはもう何も触れない事にしたか、グラトニーは当然のことラースですら戦闘関連以外で何も発さなかった。
(『なんつーカ……この後のテレビが楽しみっつーカ、怖いといウカ……』)
ここまで来られると楽天家な彼でも、流石に豪気に笑い飛ばせないようだ。
テイルレッドはと言うと、既に戦闘員をせん滅し、ブルギルディと対峙している。
怒りのままに拳を、槍を振うテイルブルーと、ブルーの所為で動けないグラトニーに変わり、ここに来た本来の目的を果たすつもりだろう。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
「ヤットッ、ホッ、ヨッ……ハッ」
スピードはともかく迫力だけならば、かの “星の白金” に勝るとも劣らない、ブルーの拳でのラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。
グラトニーはラースからの助言を頼りに、必要最低限よければいい攻撃に対して空気を噴出させ、人工的な気流とそれに合わせた右手捌きで確実に的確にやり過ごす。
拳に意識を引きつけてからのキックも、グラトニーに目線は騙せてもラースの目は騙せず空振る。
しかし腕を上にあげ隙を晒したかに見えた格好から、放り投げていた槍をキャッチし、そのまま槍先で穿たんばかりのラッシュ。
焦ることなく冷静に左手を前に構え、風圧と合わせて盾とし、グラトニーはこのテイルブルーの(理不尽な)攻めを、またも難なく凌ぎ切った。
此処までの流れからお互いの力が互角なようにも思えるだろう。
……思えるのだが、実際の所グラトニーはそれなりに手を抜いて戦っており、これまでのやり取りから察する事が出来るように、『ただ攻めていないだけ』というのが本当の所。
別に女の子だから拳を振るえない―――といった理由がある訳ではないが、リアルでも知り合いなのだし、割と洒落にならない怪我を負わせるのだけは、正直グラトニー……もとい中の人・瀧馬としては遠慮したい。
さらに言えば、性格方面はグラトニーに引き摺られる為、これ以上長引かせると我慢の限界が来ると言った理由もある。
しかしながら今のブルーの怒りは、一発でもデカい一撃を決めなければ、落ち着く事などまず無いと、そう思ってしまうぐらいの勢い。
意識を飛ばすにしても、怯ませて言葉で血を下げるにしても、どこかで武力行使がかかわるので、このまま受けに回ってばかりでは状況は進展せず、向こうがやる気満々なこともあり埒が明かない。
「ハアアアアッ!!!」
「……やっ……むぅっ」
「っ……! なら―――これならどう!?」
何回目かのテイルブルーとグラトニーの、攻守も変わらねど進行も無い攻防で焦れたのか、ブルーは思い切り後方へと距離を取った。
何を行うか、何が飛んでくるのか察したグラトニーも、敢えて避けようとはせず真正面から視界に納めている。
「『オーラピラー』ッ!!」
「うっ!?」
「へ? ちょ、まっ……ブ、ブルーッ!?」
……悲しいかな、ブルギルディとの戦闘は注目もされずに、とっくの昔に終わっていたらしく、テイルレッドがテイルブルーの蛮行を目の当たりにして、悲鳴にも近い声を上げた。
ギャラリーは色々な意味で目が離せないこの勝負を、ただ口を閉ざして目を見はり、一瞬も見逃さぬよう体諸共硬直させ固定している。
そして――――時が訪れた。
「エクゼキュゥゥゥゥゥウト……ウェイブゥゥゥゥウゥゥゥウウッ!!!」
「ちょ―――」
空間を貫く荒波の槍が、オーラピラーにて拘束されたグラトニーへと、範囲から逸れ、そこで目視するだけでも伝わってくる力を持って、今度こそ(私的な)目的を達せんと突き進む。
その中で、何人聞く事が出来ただろうか―――
「もういい、許さない……新技、試そう……」
小さく不本意ながらも、確かに “決意” のこもった声を。
空耳にも近い囁きと同時、『エクゼキュートウェイブ』は見事命中してしまい、大発布の如き水しぶきをあたりへとまき散らした。
「ブ、ブルーのバカーッ!? 敵じゃ無い奴を爆破するなんて、今度こそお終いじゃないかーッ!?」
「……あ」
そこでようやく我に返ったか、ブルーの表情は見事なまでの呆気顔となる。
まだ聞きたい事も聞いていないのに、アルティメギルのエレメリアン同様必殺の一撃をぶつけてしまったのだ。
これからの戦い的にも、テレビ的にも、そしてテイルブルーの世間体的にも、完璧に終わったも同然だった。
「……こんなの、充分対応できる」
―――晴れた水煙の向こうに、グラトニーの姿が見えなければ。
「すごい! すごいわグラトニー! どんなエレメリアンをも沈めてきたブルーの槍を防ぐなんて!」
「最高だぁ! テイルレッドちゃんは最高に可愛くて、グラトニーは最高に強いなんて!」
「……え? あれ? 当たったわよ、ね?」
「う、うん。当たったみたいだけど……?」
右手がところどころ、打ち据えたかのように赤くなり、別箇所にあざが出来ている以外は、特に変化や怪我など無い様子。
しかし、だとするとどれだけ丈夫なエレメリアンでも、一突きのもとに貫くテイルブルーの『エクゼキュートウェイブ』を、ただの拳一発で沈めた事になるが、いくらなんでも企画外すぎないだろうか。
……そう、コレにはからくりがある。
「……感覚、つかんだ。次で決める」
技を新たに作り出す為、まずは右手に意識を集中させ、その技を試していたというからくりが。
グラトニ―のつぶやきの真意をだれも汲み取れず、何が起きたのかと首をかしげる者たちや、安堵して溜息を吐いたり、先の如く声を上げる者たちに囲まれる中……アルティロイドで感覚をつかみ、先の一撃で実用性を上げた“新たな技” を彼女は始動させる。
「フゥゥ……はあっ!!」
まず脚から膨大な量の空気を、一旦ためてから膨らませ、爆発させるイメージで放出し、ブルーへ向けて爆足で接近。
その速さは言うまでも無く、彼女から感じる圧力でさえ、ひとつ前の戦闘とは比べ物にならない。
レッドやブルーが何か言う前に、軽く弧を描いて横に陣取ると、今度は腕から風を巻き起こす。
その風は “左拳の前” で渦を巻き、その手の甲に現れた十字状の噴射口から、常に風が噴出し、目の前に滞留する特殊な空気を支え続けている。
次の瞬間、テイルブルー・津辺愛香の脳裏に浮かんだのは―――
(あれ? これなんて理不尽?)
自らの言動を棚に上げた思考だった。
「風撃颯!!」
風を打ち抜き穿たれる拳は、まさしく疾風の如くな速度ながら、しかし大砲の様な破壊力を感じさせる。
グラトニーは、拘束技に続く第二の接近戦用の技を編み出し、ブルーへと遠慮なく叩きつけた。
……ぶつかる紙一重前に、だが。
「のっぷぅぅうわあああああっ!?」
「うおおおおおおおおっ!?」
それでも衝撃波と爆風は彼らを襲い、ゴロゴロ転がって行ってしまった。
グラトニーは虚空へと顔を向けて、どこか納得のいかない表情こそしていたが、深い深いため息の後、顔を下す。
「フゥゥ~…………これで……おあいこ」
やっぱり感情を抑えきれないかとぎれとぎれに言葉を紡ぎ、右手で彼らを指さすと、もう用が無いからか、グラトニーはこの場から消えていってしまった。
呆けてしまうレッドとブルーではあったが、この位で済ませてくれたことに感謝すべきかと、テイルレッドは目線で訴えかけ、テイルブルーも含まれた感情を読み取り頷く。
そもそも向こうは猛風込みとはいえ力付くで落としたにもかかわらず、此方へは寸止めで済ませてくれたのだ。
エレメリアンを食べる事が出来なかったことと、ブルーが理不尽な戦闘を勃発させた事で、怒りのままに攻撃をぶつけていても可笑しくは無かったのに。
「感情のままに動くかと思いきや、ちゃんと考えてくれていたりもするし……なんだか分からない奴だよな」
「もしかするとあっちにも “支え”がいるのかもね。現にさっき、グラトニー自身はぶつける気満々だったみたいだけど、連絡あったのか直前にちょっと驚いた顔になったし」
「……そんなの見えてたのかよ……」
相変わらずなテイルブルーの身体能力、及び感覚の鋭さにテイルレッドも思わず頭が下がる。
兎も角戦闘は終了。未だ居るギャラリーの方へと視線を向けてから、二人は帰路へと突く事にした。
「ぐすん……私を忘れないで下さいましぃ……」
「「あ」」
すっかり蚊帳の外であった、テイルイエローの存在を思い出してから。
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