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革命家の死

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2部分:第二章


第二章

「あいつはそんなことは気にしていない」
「じゃああの本自体がですか」
「誉田の言っていることは」
「嘘だ」
 秋生は実に素っ気なく言い切った。
「わかってるかいないかは別にしてだ」
「嘘を書いてるんですね」
「そうだ。しかしな」
 秋生はその嘘を否定しなかった。むしろだった。
 今その場にいる部下達にだ。こう言う程だった。
「それでいいのだ」
「嘘を書いてですか」
「ここでは」
「そうだ。それでいいのだ」
 これが秋生の言葉だった。
「全ては日本と中国の友好の為だ」
「中国が日本をよく思う様に」
「その為にですね」
「中国の言うことは検証してはならない」
 秋生はこのことを当然として部下達に言った。
「そして中国にとって都合の悪い記事もだ」
「絶対に書かない」
「そうしますね」
「さもないと中国の評判は落ちる」
 これで終わらなかった。秋生は今の話の核心も話した。
「そしてそうなればだ」
「俺達もですね」
「巡り巡って」
「わかるな。我が社にいるのは俺達だけじゃないんだ」
 声も顔も潜ませてだ。彼はまた部下達に話した。
「ソ連派もいるんだ」
「最近北朝鮮派もいますしね」
「ベトナム派も」
「北朝鮮派を見るんだ」
 秋生は彼にとっては忌々しいだ。彼等の話もした。
「金日成主席の言うことは何でもだろう」
「はい、書いています」
「総連の言い分もそのまま」
「だから今北朝鮮の我が国での評判はいい」
 尚ここでも真実は隠して報道されていた。完全にだ。
「だから俺達もだ」
「ですね。それなら」
「このことも」
「毛主席の言葉は真実だ」
 まるでだ。神の言葉の様にだというのだ。
「だからその言葉はそのまま書け」
「わかりました。それじゃあ」
「他社の記者にも話しておきましょう」
「このことは」
 彼等はこんな話をだ。北京の高級、中国政府が当時彼等の為に用意していた特別の飯店において北京の庶民が想像だにしない、彼等が言うには普通の庶民が食っているその馳走を奇麗な部屋の中で話をしていた。そうしてなのだった。
 報道の方針を決めていた。そしてそのまま報道されていった。だが。
 文化大革命は動いていた。彼等の予想しない方向にだ。
 林彪は革命を煽動、先導ではなくそれを行っている四人組との権力闘争に入った。そしてだ。
 中国を何とか支えていた周恩来も林彪に対しては批判的になっていた。彼は四人組とも対立していたが林彪ともだ。あまり関係がよくなくなっていた。
 林彪は孤立していっていた。人民軍の領袖の一人だが軍は毛沢東が掌握していた。それを見てだ。 
 彼は暴挙に出た。何とだ。
 自分の息子を含めた側近達を使ってだ。毛沢東を暗殺して己が国家主席になり全ての権力を掌握しようとしたのだ。それは己の身を守る為のことでもあった。
 だが毛沢東は衰えたとはいえ数多くの修羅場や戦場、そして何よりも党内の抗争を生き抜き国家主席にまでなった人物だ。林彪のその計画もだ。
 事前に察知してだ。即座にだった。手を打ってきた。それを見てだ。
 林彪もだ。すぐに動いた。中国の宿敵であるソ連にだ。
 亡命しようとした。しかしだった。
 それは果たせなかった。脱出途中にモンゴルで乗っていた機体が落ちて死んだのだ。事故かどうかはこの時点では不明のままだった。
 だが何はともあれ林彪は死んだ。党内の抗争によってだ。そしてこのことはすぐに秋生達の下にも伝わった。これは世界的な大ニュースだった。
 だが秋生はだ。この話を聞いてだ。
 
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