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戦国異伝

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第二百十三話 徳川の宴その八

「あの御仁は」
「質素でおじゃるぞ」
「それもかなり」
「いつも麦飯や強飯ばかり食されるとか」
「服もえらく質素で」
「城もそうだとか」
「とかく質素な御仁でおじゃるぞ」
 それでだというのだ。
「ましてや百六十万石」
「織田殿とは比べものにならぬでおじゃる」
「それでこれ程の宴を開けるか」
「無理でおじゃろう」
「どう考えても」
 これが彼等の見方だった。
「果たしてどうした宴か」
「心配でおじゃる」
「内府殿はよき方」
「天下一の律儀殿でおじゃる」
 家康に対する感情は彼等も悪くない、それ故に思うのだ。
「ここで恥をかかれては忍びない」
「よい宴であることを祈るでおじゃる」
「果たしてどういった宴か」
「気になるでおじゃるな」
 こう話していた、そしてそれは織田家の家臣達も同じだ。柴田が宴の後で他の者達に控えの部屋で心配する顔で言っていた。
「徳川殿だが」
「そうですか、明日はあの方が宴を開かれますが」
「果たしてどうなるか」
「この度の宴は山海の珍味、明や南蛮の料理も出しましたが」
「あちらの酒まで」
「食器も見事でしたし」
「夜光杯まで出しました」
 まさにこれまでにないまでの宴だった。
「それにです」
「能や相撲の催しも見事でした」
「茶会もありましたし」
「そうしたものも素晴らしかったです」
「しかし」
 だが、とだ。ここで明智はあえて言った。
「それは織田家だからこそ」
「うむ、その通りじゃ」
 柴田も明智のその言葉に頷く。
「織田家の力のな」
「織田家は織田家本家で六百万石あります」
「そして全体でもな」
「降った家まで含めれば」
 それこそだった。
「二〇〇〇万石を優に超えます」
「まさに天下の家じゃ」
 実際に天下のかなりの部分を有している、近畿に東海、北陸、甲信、山陰に山陽に四国それに関東とだ。そして奥羽の一部もだ。
「これだけの力があるからのう」
「この度の宴を開けました」
「そうじゃな」
「しかしです」
 明智は柴田に確かな顔で言った。
「徳川殿も確かに大きいですが」
「百六十万石じゃな」
「それではこの様な宴はです」
「とてもじゃな」
「開けませぬ、ましてやです」
 明智はさらに言った。
「徳川家は駿府も領していますが」
「それでもじゃな」
「三河はどうしても」
 家康の生まれ故郷であるこの国はというのだ。
「都の文化に疎く」
「それで、のう」
「はい、こうした宴はです」
「我等も確かに尾張生まれの者が多いが」
「しかし都も預かりです」
「そうしたことを知ることも出来た」
 都の文化をだ。
「公卿の方々とのお付き合いも出来たしな」
「それが大きかったわ」
 林もここで言って来た。
「まことにな」
「うむ、新五郎殿もそう言われるな」
「そうじゃ、やはり公卿の方はお詳しい」
 都の文化、それにというのだ。 
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