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戦国異伝

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第二百十三話 徳川の宴その七

「何でも」
「蒲萄から作った酒じゃな」
「血の様な色ですが」
「しかし美味い」
 飲んでみての言葉だ。
「非常にな」
「はい、この酒も」
「この杯もそうはないがのう」
「夜光杯ですな」
「まさかこれを出して来るとは」
 このことについても言う政宗だった。
「思わなかったわ」
「とてもですな」
「この杯のことも」
「うむ」
 片倉と成実に答えた。
「しかしこの酒にはな」
「夜光杯がですな」
「合いまするな」
「明の詩にあったのう」
「確か唐の頃のですな」
「詩でしたな」
「葡萄の美酒、夜光の杯であったな」
 このことを言うのだった。
「それであったな」
「はい、確か」
「その詩でしたな」
「その通りじゃ、それをここで飲むとはのう」
 唸って言う政宗だった。
「まことに考えが及ばなかったわ」
「本朝の味だけでなく」
「明や南蛮の味も出す」
「それがですか」
「この宴なのですな」
「そうじゃな、ここまでの宴をされるとは」
 政宗は信長も見て言った。
「これが上様か」
「ですな、天下の宴ですな」
「天下人のこれですな」
「これこそまさに」
「そうですな」
「うむ、わしでは到底出来ぬ」
 ここでだ、政宗はこのことも察したのだった。
「やはりな、わしはな」
「天下を望まず」
「そうされますか」
「みちのくでよき国を作るのが似合いじゃな」
 己の器をそこまでと言ってだ、そして。
 政宗はその酒を再び飲みだ、また言った。
「この酒を多くの者が飲める国は無理でもな」
「豊かな国をですな」
「作られますな」
「そうした藩をな」 
 こう言ってだ、政宗は密かに兜を脱いだ。信長は天下の宴を宴に出た者全てに堪能させた。そしてだった。
 宴が終わった時にだ、彼は家康に対してこう言った。
「では内府殿」
「はい」
 宴とはいえ公の場なのでここでは家康を官位で呼んだ。内大臣であるので内府という「呼び名になるのだ。
「それではですな」
「お願い申す」
「はい、この度は楽しませて頂きました」
 この宴をというのだ。
「そのお礼にです」
「内府殿がですな」
「明日宴を開かせて頂きます」
 こう言うのだった。
「そうさせて頂いて宜しいでしょうか」
「場所はここをお使い下され」
 信長は自ら家康に申し出た。
「そのうえで」
「はい、それでは」
 こうしてだった、家康も宴を開くことになった、だが。
 公卿達はいぶかしみだ、密かにこう話した。
「徳川殿がでおじゃるか」
「宴を開かれるでおじゃるか」
「それはいいでおじゃるが」
「しかしでおじゃるな」
 こう言うのだった。 
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