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エターナルトラベラー

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第三十八話

駆動炉の封印を終えた俺たちは、転進して最下層、プレシアの所へと駆ける。

道中の魔道アーマーの殆どは何かに切り裂かれたかのような感じで倒れていた。

なのはがやったのか、ソラがやったのか。どちらでもいいけれど容赦なく一撃で一刀両断されている。

前方に爆破された扉が見える。

開けるのが面倒になって魔法でこじ開けたな…

扉を潜り抜けるとそこでプレシアさん一人となのは、ソラ、クロノと母さんが戦闘を行っていた。

と言うか、母さんはいつの間にこっちに来ていたのだろうか?

大量展開した魔道アーマーで身辺を守り、自身は極大な固定砲台と化したプレシアに少々攻めあぐねているようだ。

「いい加減にくたばりなさい!」

部屋の中を雷撃魔法が炸裂する。

「ラウンドシールド」

入り口に居る俺とフェイト、久遠とアルフ。

中央にソラ達。

その奥にプレシア。

プレシアが行使するのは広範囲殲滅魔法。

ゲームで言うマップ兵器。

その威力はジュエルシードから供給される魔力でかなり底上げされていて、気を抜くと落とされるレベル。

シールド魔法の使えない母さんをソラとなのはが包むようにシールドを展開している。

「っく…あなたの気持ちも分るわ!だけど!独りよがりで他人に迷惑のかかる行為はやめてもらえないかしら」

「あなたに何が分るって言うの!?私の苦しみ、絶望があなたなんかに!」

「少なくても他の人たちよりは分るわ。私も突然家族を失ったことがあるもの…二回もね」

「………」

「だからあなたのやってきた事を否定する事はしないわ」

「だったらだまって見て居なさい」

母さんは顔を左右に振ってから答える。

「それは出来ない。貴方がやっている事は私の幸せを壊すもの。あなたにとって価値の無いこの世界。だけど私にとっては大切だから」

確かにこのまま次元震が大きくなれば最悪余波で地球が滅びかねないのは事実か。

問答が続きようやく雷撃が止んだ。

「だからあなたの凶行は止めるわ。…だけど、私たちに手伝える事があるはず」

「なにを…」

「きっと何か他に方法があるはずだわ」

「私がどれだけの時間を費やしてきたと思っているの!もうコレしか方法が無いのよ!だから私は旅立つの、この世界の全てを犠牲にしても!」

世界に絶望しているプレシアにしてみればアルハザードのみが唯一の望み。それ以外の選択肢は既に存在しないか。

母さんとプレシアの問答を聞いていた俺達へ、プレシアの暗く濁った瞳が向けられる。

「…あそこに居るのはアリシアのなり損ない…その存在自体が不愉快な者。あの子と同じ声で私を呼ぶ、…ああ、実に不愉快な実験動物の成れの果て」

すでに精神を病んでいるプレシアはジュエルシードから供給される大量な魔力に酔っている状態だ。

「目障りだから消えなさい!」

プレシアの周りを回る9個のジュエルシード。

それらから供給された魔力を集めてこちらに向かって打ち出してきた。

「しまった!」

「アオ!」
「フェイトちゃん!?」

攻撃対象が自分たちからそれた事で一瞬反応が遅れてしまったソラ達。

インターセプトをする暇が無かった。

空間攻撃から直射へと攻撃方法を変えた雷撃、それが俺たちへと迫る。

「くっ!ソル!」
「バルディッシュ!」

『ラウンドシールド』
『ディフェンサー』

咄嗟に俺とフェイトが二人で展開したバリアをじわじわと撃ち砕いていく。

『ロードカートリッジ』

ガシュッガシュッガシュッ

排出される薬きょう。

「くぅん!」
「はあっ!」

遅れて久遠とアルフもバリアを展開する。

しかし、九個のジュエルシードから排出された魔力によるその一撃は尋常ではなかった。




「アオ!」
「フェイトちゃん!?」

わたしとソラちゃんの叫び声が重なる。

そんな!

振り向いた先には今までに無い威力の砲撃魔法を受け止めているお兄ちゃんとフェイトちゃんの姿が。

その攻撃は展開されたバリアにひびを入れていく。

一枚、そしてもう一枚と、一枚割れると直ぐにほかのバリアも貫かれてしまった。

ドゴーーーンッ

辺りに爆音と、その後の土煙が充満する。

「そんな…」

「あーちゃん!?」

紫ママの表情から血の気が引いていく。わたしの顔からも。

そんな、そんなまさか…

わたしの心配をよそにソラちゃんはその表情に不安の色は無い。

「大丈夫」

自信にみなぎる表情でそう答えるソラちゃん。

「…でも!」

煙が晴れるとそこにはお兄ちゃんたちをその両の腕で守るように巨大な上半身だけのドクロが顕現していた。

「ガイコツ!?」

「何?あれ」

紫ママも知らないの?

わたしと紫ママはソラちゃんに視線を向ける。

「違う、アレはスサノオ」

「スサノオって日本神話の?」

日本神話?うーん、わたしにはいまいちぴんと来ないの。

神様の名前か何かかな?

「日本神話は私は知らない。けれどアレはスサノオって言うの。アオと私の最終奥義。切り札は出来れば見せたくなかった」

ソラちゃんが説明してくれている間にだんだんドクロが人の形を取っていく。

アレは女の人かな?

「ソラちゃ…何やっているの!?」

女の人からソラちゃんに視線を戻すと、小脇に抱えるようにして気絶しているクロノ君がいた。

ほんの一瞬でクロノ君に当身を食らわせて気絶させ、連れてきたようだ。

「ちょっと!それってクロノ君のデバイス」

確かS2Uって言ってたかな?ソレを完膚なきまでに粉々に握りつぶしているソラちゃん。

ストレージでAIは無いっぽいけど、それはひどいと思うよ?

ついでに回りに飛んでいたサーチャーも潰している。

「記録とられたくないってアオが言ってる」

「そ、そうなの!?」

もう一度視線を戻すといつの間にか女性の姿は無く、大きな天狗のようないでたちの上半身だけの巨人が居た。

「母さん!取り合えずプレシアさんをぶっ飛ばして拘束してから説得しよう」

お兄ちゃんが叫ぶ。

「…そうね、今の彼女には何を言っても聞き入れてはもらえないわね。あーちゃん、やっちゃって」

「了解」

そんな会話をした後、その巨大な人影はお兄ちゃんが歩くのと共にプレシアさんに向かって前進する。

「なのは!下がるよ」

ソラちゃんに手を引かれてお兄ちゃんの後ろ側に居るフェイトちゃんのそばに紫ママと一緒に移動する。

「にゃ!?大丈夫なの?」

「大丈夫」

合流したフェイトちゃんに声を掛ける。

「フェイトちゃん、無事!?」

「うん、大丈夫。それよりもアレは…」

おどろおどろしい怪物の登場にフリーズしていたプレシアさんが再起動。

「っく…それが何だって言うのよ!沈みなさい」

もう一度先ほどの雷撃魔法がお兄ちゃんに迫る。

「あ!危ない!」

「アオ!?」

「あーちゃん!」

「平気。ヤタノカガミがあるもの」

「三種の神器の?」

紫ママが言うジンギっていったいなんなの?なんか凄そうだって言うのは分るんだけど。

フェイトちゃんも何の事だかさっぱりの様子だが、どういった現象なのだろうと一生懸命に聞いている。

「そう。ヤタノカガミはあらゆる性質に変化する。故に絶対防御」

ソラちゃんが言ったとおり、雷撃魔法の直撃を食らっても、左手に構えて銅鏡のような盾に弾かれる。

「きゃあ!?」

『ラウンドシールド』

その魔力の凄まじさから、全てを無効化できずにはじかれた余波が此方を襲う。

気を利かせてくれたレイジングハートが直前でシールドを展開してくれた。

「ありがとうレイジングハート」

『問題ありません』

のっし、のっしと歩を進めるスサノオさん。

「行きなさい」

接近されて焦ったプレシアさんが自身の守りの魔道アーマーを差し向ける。

斬っ

水平に振りぬいた右手にはいつの間には幾つも枝分かれしているヘンテコな形をした巨大な剣が握られている。

「草薙の剣ね」

紫ママがそう呟いた。

「知ってるの?」

「さっきのが銅鏡がヤタノカガミなら。あの神々しく銀色に輝く大剣は草薙の剣か天叢雲剣かのどちらかよ。まあスサノオとくれば天叢雲剣の方が有名だけどね」

「そうなんだ。私達は十拳剣って呼んでいる」

何を言っているのかチンプンカンプン。

だけど草薙の剣の名前はわたしでも聞いた事がある。

ゲームでだけど…

ジパングでヤマタノオロチを倒すとドロップする剣だよね。

っとと、それはゲームの話だ。

とつかのつるぎ?は聞いた事無いよ。

スサノオさんが振りぬいた先に居た魔道アーマーが真っ二つになって転げ落ちる。

「な、そんな…一瞬で?」

プレシアさんの驚愕の声が聞こえる。

でもその驚愕はわたしも一緒だ。

「流石に草を薙いだ剣ね。今回の場合草では無くて魔道アーマーだけど」

何十体も居る魔道アーマーがただの一振りでなぎ倒してその半数が爆散したのだから。

「っ私を、アリシアを守りなさい」

その願いをどう受け取ったのか。

プレシアさんの手元にあったジュエルシードが一箇所に集まり、そこから黒い尻尾のようなものが九つ出現した。

「あ、アレは!?」
「まさか!」
「そんな!」

うねっていた黒い尻尾が一斉に伸び、お兄ちゃんに向かう。

斬っ

それを事も無げに切り払うスサノオさん。

切り払うばかりか、さらに距離を詰めていっている。

その尻尾の出現場所には黒い球体があり、そこから今にも生まれてこようと躍動する。

あれは多分つい先ほど倒したばかりの九尾!

わたしがいくらなんでも荷が重いだろうと加勢に入ろうとした瞬間、その黒球を刺し貫いた十拳剣。

GROOOOOOOOO

瞬間、咆哮とも悲鳴ともつかない絶叫が響く。

「え?」
「あ?」

その光景に驚愕する。

刺し貫いた黒球が十拳剣に吸い込まれるようにして消えたのだ。







あ、マズイな。

俺はゆっくりと流れる閃光を前にそう思う。

相手のプレッシャーを感じ、脳内のリミッターが外される。

神速。

時間の流れが緩慢に感じられる。

展開したバリアにひびが一本一本入っていくのが見て取れる。

ああ、マズイ。

すでにカートリッジはフルロード。

こりゃ受け止められないわ。

非殺傷スタン設定な訳も無い高魔力攻撃の直撃を食らってしまう。

俺や久遠は念による身体強化、ダメージ軽減が出来るが、フェイトはまだバリアジャケットが有るから多少マシだろうけれど、アルフがなあ。

ジュエルシードで威力が向上したこの魔法の直撃に耐えられるだろうか。

無理かな…

切り札は見せたくないし使いたくないけれど、家族を守るためならば仕方ない。

ほんの数日しか一緒に過ごしていないけれど、フェイトもアルフも俺たちの家族だ。

だったら迷うな!

多くの力を持っている俺とソラが生きていく上で守りたいと思うもの。

過去二回の転生でそうだった為かもしれないが、家族と言うものと縁が薄い。

愛してくれている家族とは大抵生き別れる。

だから、守れる時は全力で。

それが俺の誓い。

グッと四肢に力を込める。

両の万華鏡写輪眼が開眼する。

「スサノオォぉぉぉぉ!」

バリアが破られ、迫る直前に俺の眼前に現れる白骨の両腕。

ドゴーーーンッ

着弾した雷撃魔法の威力をどうにか受け止める。

「あ、アオ?」

コレは?と問いたそうな顔をするフェイト。

しかしそれに答えてあげれるほど今は余裕が無い。

それにしても、なかなかキツイ。

しかし捌いてみせる。

俺は全身からさらにオーラを搾り出す。

着弾したソレを弾いた余波で舞い上がった粉塵が視界を遮る。

数秒か、数十秒か。終わりの無いと思われた砲撃が止む。

どうにか耐え切ったか。

「こっコレは!?」

「うん、その説明は後で…しないかな?」

「し、しないの!?」

余り知られたくはないしねぇ。

特に知られたくないのは管理局か?面倒そうだし。

ポケットから銀色に着色されたスピードローダーを取り出す。

ソルのリボルバーを開き装填。

『ロードオーラカートリッジ』

ガシュっと音を立てて炸裂するのは特別なカートリッジ。

俺が暇なとき、修行を終えてオーラが余った時などにこつこつ造った念製のカートリッジ。

魔力のそれとは性質が違うため両方を一気にロードする事は出来ないが、それでも今の場合は燃費の悪いスサノオの消費を外から賄ってくれるために重宝する。

【ソラ、悪い。クロノを黙らせてくれ。ついでに記録媒体の破壊もお願い】

【アオ?うん。分った】

念話でソラに後のことを頼む。

「まあ今は取り合えず」

フェイトから視線を母さんたちの方へと向ける。

「母さん!取り合えずプレシアさんをぶっ飛ばして拘束してから説得しよう」

先ずは世界を崩壊させそうな元凶を取り除かないと。

「…そうね、今の彼女には何を言っても聞き入れてはもらえないわね。あーちゃん、やっちゃって」

少しその言葉を吟味した後に母さんが言った。

「了解」

「っく…それが何だって言うのよ!沈みなさい」

またも撃ち出される雷撃を今度はヤタノカガミで受け止める。

「アオ!」

フェイトが心配そうに声を掛ける。

「大丈夫だから少し離れていて」

「あ、うん…」

「久遠、アルフ。フェイトをお願い」

「くぅん」
「了解さね」

それを聞いてお俺は視線をプレシアさんに向ける。

雷撃が聞かないと分ると今度は魔道アーマーを前進させてきた。

「行きなさい」

その言葉でこちらに歩み寄ってい来る魔道アーマーの大軍を、俺はスサノオの右手に持った神剣でなぎ払う。

中には上層で見かけた大型も混じっていたけれど、全て力でねじ伏せる。

その様子は巨大ロボットVS巨大怪獣の様相。

…もちろんこっちが怪獣だ。

しかし普通は巨大ロボットが無双するはずが、巨大怪獣がちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

…シュールだ。

あらかた魔道アーマーを始末し終えると、プレシアがジュエルシードを片手に必死の形相で叫んだ。

「っ私を、アリシアを守りなさい」

その願いをジュエルシードはどう受け取ったのか。

九つのジュエルシードが一箇所に集まると、そこに黒い球体が出来る。

その中から狐の尻尾のような、太さを持った触手が伸びだした。

少しの間うねるような動きをしたかと思うと、一直線にこちらに迫る。

斬っ

右へ左へ十拳剣を振り回し、延びてくる尻尾のような触手を切り払う。

限が無い。

しかも球体部分がなにやら躍動し始めている。

中から本体が出てくるのは時間の問題だろう。

先ほどまで形作っていた形態を覚えていたのか、どうやらコレはあの九尾を生み出そうとしているようだ。

生まれるといささか面倒だ。

機動力が低い今のうちに処理してしまう方が良いに決まっている。

一気に距離をつめ、十拳剣の間合いに入る。

よし!

俺は尻尾を斬り飛ばした隙に剣を一旦消してから、突き刺すように押し出した右手に再度十拳剣を顕現させる。

『ロードオーラカートリッジ』

ガシュガシュっと最後の二発がロードされる。

右手に現れた十拳剣は伸びる勢いも上乗せして途中の尻尾を突き崩しながら本体の黒球に突き刺さった。

GROOOOOOOOO

瞬間、咆哮とも悲鳴ともつかない絶叫が響いたかと思うと、ジュエルシードもろとも十拳剣に封印された。

まさかいとも簡単に無効化されるとは思っていなかったのだろう。

プレシアは何が起こったのか認識するまでに少々時間を要した。

「そ…そんな…ジュエルシードを返してっ!それが無いと、それが…がはっ」

絶望の表情から一変、吐血して片膝をつき、口元を右手で押さえ込むが、その滴り落ちる血液は止まらない。

「アリシアを……アリシア…っ」

ついに倒れこんでしまったプレシア。

度重なる高魔力攻撃の使用とその身を蝕む病で既に限界。さらには目の前で封印されたジュエルシードの事が堪えたのだろう。

その身は既にボロボロだ。

「ママ!ママー」

何だ?と振り返ると、叫びながらプレシアに走り寄るフェイトの姿が。

「フェイト!」

アルフが止めようと駆け寄るが、その拘束を抜け出してプレシアの脇へと走ってきた。

「ママ!」

「フェイト…私は貴方が大「ママ!私だよ?アリシアだよ?分らないの?」…え?」

プレシアの頬に当てた手は左手。

右利きであるはずのフェイトが左手で触れている。

「アリシアなの?…そう。いつもそこに居たのね」

敵意が消えた事を確認して俺はスサノオを解く。

どういう事だろうか。

確かにフェイトにはアリシアの記憶が転写されているかも知れないが、形作られた人格はアリシアではなくてフェイト本人のもののはず。

それにフェイトはママとは言わない。

「ママ!ママ!」

必死に抱きとめるフェイトを慈しむ様に力の入らないその腕で抱き返すプレシア。

「あーちゃん!」

心配そうに駆け寄ってきた母さん達。

その顔はどういうこと?と、問いかけている。

「プレシアが研究していたのは記憶転写型クローンだったから、可能性の一つとしては転写したアリシアの記憶から造られた人格が今になって表面に出てきたとか」

「それは違うみたい」

「ソラ?」

ソラは写輪眼を使用してフェイトを見ている。

俺も倣って写輪眼でフェイトを見る。

するとフェイトの内側に黄色に近い金色のオーラに混ざって水色のオーラが混ざっている。

「これは…」

「何?何なの?」

状況判断に戸惑っている俺の変わりにソラが説明する。

「フェイトの中に他の人の魂が混じってる。今はそれがフェイトを押しのけて体を操っているみたい」

「もしかしてアリシアちゃん?」

なのはが問いかける。

「状況からして多分そう」

二人の会話を邪魔しないように遠巻きで二人を見守る。

感動の再会だが、どんどんプレシアさんの息が細くなっているのは気のせいではないだろう。

こそっと母さんが俺に問いかけてくる。

「ねえ、彼女を助けられない?」

彼女とはプレシアの事だろう。母さんもこのままではプレシアが助からないと肌で感じている。

体から漏れ出す微弱なオーラも段々か細くなっていっている。

「命を繋ぐ事は出来るだろう」

「だったら…「でも」」

母さんが言葉を言い切る前に言葉を被せる。

「でも、命を救う事が彼女を救う事?」

「あっ…」

「命を救っても、彼女には犯罪者としての服役が待っている。そこで彼女の望みは叶わない。彼女の望みは大きいよ」

「望みって、アリシアちゃんの復活」

いいや、と俺は首を振る。

「彼女の望みはアリシアの居た幸せだった日々の存続。…例えアリシアが蘇ったとしても叶えられない」

今度の事件で彼女を無事に助け出しせたとしても管理局に追われることとなるだろう。

それは日々怯えながら過ごす、穏やかとは程遠い日常。

彼女の望みが叶えられるとしたら過去の改ざん。

だが、俺たちにそんな力は無い。

「人一人を助けるのは凄く重いよ。彼女のその後の人生全てに責任が取れないならば、何もするべきでは無い」

「そうなのね…」



目の前で抱き合う二人の会話。

それは伝えたかった思いと、伝えられなかった言葉がたくさんあった。

「私、ずっとフェイトの中で夢を見るようにママの事を見てたんだよ」

「そう…」

「ねえ、ママ。私の誕生日プレゼント、何が欲しいって言ったか覚えている?」

「もちろん…覚えている…わ。妹が欲しい…だったわ…ね」

段々意識が朦朧としてきたのか、その言葉はゆっくりとしている。

「うん。だからフェイトの中で眼が覚めた時、ああ、私に妹が出来たんだって思った」

「…そう」

「私はそこに居ないけれど、妹と二人幸せになってくれたらなって、思ったんだよ」

「…うん」

「私はお姉ちゃんで、ずっと母さんと一緒にフェイトを守っていくんだって思ってた」

「…うん」

「私は二人に私の分まで幸せに暮らして欲しかっただけなのに」

「そう…だったのね。アリシアの…願い…いつも私は…気づくのが…遅すぎる」

その言葉を最後に体から力が抜ける。

「ママ…」

我が子を抱きしめたまま息を引き取ったプレシア。

すぅっと人が入れ替わったみたいにアリシアの表情が変わる。

「こんなのってないよ…こんなのって」

頬につたう涙は二人を思ってか。

フェイトはプレシアを床に寝せて起き上がると母さんに駆け寄って力いっぱい抱きついた。

「ああぁっぁぁぁああ」

「…フェイトちゃん」

フェイトを優しく抱き返した母さんの表情も辛そうだった。

ドーーーン

そんな感傷を打ち破るかのように、今まで鳴りを潜めていた庭園の崩壊が始まる。

「まずい!庭園が崩れる」

「脱出しないきゃ」

なのはが少し慌てたように辺りを見渡す。

ピシッ

「危ない!」

今まで持ちこたえていた床に亀裂が入り砕けて虚数空間へと落ちていく。

咄嗟に飛行魔法を使って抱き合っていたフェイトと母さんを抱き上げる。

虚数空間へと落ちていくプレシアとアリシアの躯を遠目に確認したが、手を出せず。

二人の亡骸を見送り俺たちは庭園内から脱出する。

アースラへと戻ってきた俺たちは、次元震が収まるまで数日与えられた部屋で過ごしたあと海鳴へと帰還した。 
 

 
後書き
今回で無印編は終了です。
次話はA’s編を飛ばしてsts編へのクロスになります。 
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