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白犬と黒猫

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3部分:第三章


第三章

 その彼がだ。近藤に話したというのだ。
「斉藤君がな。わしに教えてくれたのだ」
「その白犬の話ですか」
「死の間際に白犬を見るとだ」
「それで安らかにですか」
「苦しみなく死ねるという」
 そうなるというのである。
「まあどうせ死ぬのならな」
「苦しまない方がいいですな」
「人は絶対に死ぬ」
 近藤にしろそれはわかっている。不死ということは有り得ない、ましてや新撰組にいるとだ。それが嫌という程わかることだった。
 それでだ。彼は今言うのだった。
「我等がそう言うのもな」
「贅沢かも知れませぬな」
「これまで数多くの者を斬ってきた」
 幕末の都において狼とまで言われた。それだけのことはしてきたのだ。
 しかしそれでもだ。どうせ死ぬのならというのだ。
「だが。せめてな」
「死ぬ時位はせめて」
「安らかに死にたい。贅沢か」
「贅沢ではないでしょう」
 そうではないとだ。肘方は近藤に話した。
「それは誰もが思うことです」
「誰もがですな」
「そう、そう思っていいものです」 
 肘方はこう己の考えを述べた。
「人ならばです」
「誰でもでか」
「少なくとも贅沢ではないでしょう」
「そういうものか」
「左様です。しかし白犬ですか」
「そうじゃ。白犬じゃ」
「何故白犬が見えると安らかに死ねるかはわかりませんが」
 それでもだと。土方はあえて話すのだった。
 そうしてだ。彼はこれまで黙っていた沖田に尋ねた。
「総司、御主はどう思う」
「それがしですか」
「そうじゃ。どう思う」
 こうだ。彼に尋ねるのである。
「白犬について」
「そうですな」
「何故白犬なのかわしにはわからぬが」
 土方がこう言うとだ。沖田は。
 あの黒猫の話を思い出しながら。こう彼に答えた。
「わかるような気がします」
「わかるというのか」
「はい、死が黒なら」
 そのだ。黒猫を死と捉えての言葉だった。
「安らかに死ねる、安は」
「それがか」
「はい、それが白となるのでしょう」
「ふむ、そうか」
「黒と白で葬式の色にもなりますし」
 葬式の幕だ。そのことだ。
「それではです」
「死と安らかか」
「眠る様に。安らかに死ねるのでしょう」
「そうなるのか」
「そう思います。そのですから白なのでしょう」
 こう土方に話すとだ。土方だけでなく近藤も言うのであった。
「そういうものか。白は安らかということか」
「それなのか」
「それで白犬なのでしょう」
 そうだというのだった。
「それがしはそう思います」
「左様か。安らかに死ねるか」
 近藤はまた言った。
「ではそう願うか」
「そうですな。せめて死ぬ時位は」
「総司、御主もな」
「安らかに死のうぞ」
 こう二人に言われてだ。沖田もだ。
 
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