妄想全開男子
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鈴木太郎〜 「死亡」
「お兄ちゃん死ぬな!生き返ってこい!お兄ちゃん!」
背中の感覚を完全にシャットアウトした玄関で、横になって倒れている俺を揺すり起こそうとする妹の亜美。
微かに残る意識の中で亜美のエンジェルボイスを聞き、徐々に意識を回復させる。
貧弱な俺がGを背中で押し潰したくらいで死ぬわけがないだろ。
全く舐められたもんだ‥‥。それより。
「亜美‥‥。揺するな。Gの感覚が背中に甦りつつある」
「よかった生きてた!」
よかったな生きてて!だからほら抱きつけ!アニメの感動のワンシーンのように「お兄ちゃん大好き」って言って抱きついてこい!
しかし亜美はそのようなことはせず、素っ気なく俺をまたいでどこかに行こうとしていた。
「お、おい」
どこへ行く我が妹よ!
今パンツ見えたな‥。
身動きが取れない俺を起こそうとはしないのか!?
白と水色のボーダーか‥。
慈悲を!!お兄ちゃんに慈悲を!!
かぼちゃパンツとは‥‥。
たくさんの感情が脳内で掻き乱れる中、亜美は振り返り汚れたものを見るような目で俺に言葉を浴びせた。
「起こさないわよ?Gの液体とぐちゃぐちゃになった体なんか見たくないし、音だって聞きたくないもの」
「そ、そんなこと言わずにさ‥‥。俺一応亜美のこと助けたんだからお互い様だろ?」
「というかそもそもゴキ兄に触りたくない」
なあ!!!?
ポキッ
グフッ!!!ゴホッ!!ガハッ!!
なんて罵倒だ。会心の一撃だ。完全に心折れたぞ!
もう死ぬんだ‥‥。亜美の奴め恨んでやる。俺は玄関で孤独に一生を終えるんだ‥‥。ハハッ!孤独じゃねえや、背中にはGがいるじゃねえか。俺は一人じゃねえ。
目から涙が自然と出た。
皮肉なことを考え孤独を感じていると、亜美も目から涙をこぼし血相を変えて俺の方に向かって走ってきた。
「ぎゃぁぁぁあぁ!!」
俺は亜美の叫び声が聞こえた途端に、無意識的にボイレコーダーの録音ボタンを押していた。
お?なんだ?やっぱ俺を助けたくなっ‥‥そんなはずないなあの感じじゃ!!!
バンッ
亜美は床に倒れている俺をまたぎ玄関の扉に強く背中を打ち付けた。
俺はその大きな音よりも微弱な別の音の方に耳がいった。
カサカサカサカサカサカサカサッ
「「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」
リビングから三匹の黒光りするGが並列してこちらに向かって来ていた。
亜美よくもやってくれおったな!
「お兄ちゃん大好き!!だから身代わりになって!!」
「薄情すぎるだろそれ!?だが‥‥わがままで可愛い妹のためだ‥‥」
「お兄ちゃん‥‥」
俺はそのまま横になったまま動かず、ただ身をまかせることにした。
これだけでもGに亜美への通路の妨げになるので十分に効果はある。
俺はその時亜美へ抱いていた感情は、怒りでもなく恨みでもなく、申し訳ないという感情だった。
そもそもこの原因を作ったのは俺だしな。
窓開けっぱにして9時間も爆睡してたのが悪いんだ。
ぶっちゃけた話‥‥
Gがここに集まってきたのは偶然じゃなくて必然なんだ。
俺が潰したGって‥‥‥きっとメスだわ。
死ぬ直前に何かしらのフェロモンを家中にぶっ放したんだろう。
家にはどこにも逃げ場はない。
ならばここは男らしく、妹をGから守るという建前を利用した、俺の招いた事故を俺自身で止めてやる!
結果的には俺は自分で招いた事故を亜美から借りを二つほど作って自分で処理する形なのだが。
「さぁこいよ。潰してやる」
俺はすでに汚れている身。Gの一匹や二匹や三匹や四匹ぶっつぶしてやる!!
カサカサカサカサッ
ひゃぁぁぁぁぁぁぁ!!やっぱ無理キモい!!怖い!!助けて
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
「きゃぁぁぁぁあ!!!」
俺らはともに叫んだ。
何年もの間忘れていたあの存在が、再び俺らに恐怖を植え付ける。
高温に反応した一匹のGが亜美に向かって羽音を立て飛んでいく。
俺はただそれを見届けることしかできなくて、自分の弱さを痛感した。
しかし、亜美は幸い恐怖に打ち負け泡を吹いてその場に崩れ落ち気絶した。そのおかげでGの猪突猛進を避けることができた。
「おい亜美起きろ!口開けてたら奴らが入り込むぞ!」
カサカサカサッ
バンッバンッ
俺は玄関に無造作に置かれた自分の靴を両手に持ち、亜美の高音に反応しなかった二匹を昇天させた。
しかし、飛んで行った一匹のGをそのおかげで見失ってしまった。
俺は両手の靴を恐怖のあまり振り上げることができず、靴から手を離すこともできなかった。
この状態でGに襲われてしまったらひとたまりもない。
どこだ!どこいった!
ガチャッ
身動きが取れぬ状態で首だけをキョロキョロと動かしGを探していると母さんが仕事から帰ってきた。
「亜美ちゃんにたろちゃんこんなとこに寝転んでどうしたの?」
母さん!!神だ!!ヴィーナスが帰ってきた!!
「母さん!今ここにGがもう一匹いるから殺して!!始末して!!」
「え‥‥よくわからないけどわかったわ‥‥」
オドオドと帰宅早々目の前の光景に戸惑いを見せるが、しっかりと持つべきもの(スリッパ)は持っている。
「そこか!!!」
パンっ
靴なんかより良い音を響かせるスリッパは、俺の手のすぐそばで獲物を仕留めた。
「やった!!潰したわよたろちゃん」
「あ、ありが‥‥」
しかしスリッパをどけると、本来いるはずのものがいず、代わりに俺のボイレコーダーの部品が幾つか転がる形で散乱していた。
そこまでは良かった。良くはないけど‥‥。壊れたボイレコーダーは何を思ったのか、今朝方録った音声を永遠と再生される。
『きますお兄ちゃん!行ってきますお兄ちゃん!行ってきますお兄ちゃん!行ってきますお兄ちゃん!行ってきますお兄ちゃん!いってーー』
「たろちゃん‥‥‥」
ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!ノンノンノンノン!!!時よ止まれ!
「母さん違うんだ!これはその違うんだ!!あれはこれがそれになって俺じゃない!!」
「これ‥‥亜美ちゃんの声‥‥」
ボイレコーダーに気を取られていると、俺のお腹に何かが飛び降りた。
俺はそれを見ることなく、母さんの気をこちらに向けた。
「母さん殺せ!早く殺してくれ!Gもゴキ兄も一緒に殺してくれ!!マカンコウサッポウでひと思いに!!」
「え‥‥あっ!たろちゃん動かないでね!!ごめん!!」
母さんは一直線に俺のお腹に不時着したGに向かってスリッパを振りかぶった。
俺はこの時、本日二度目の走馬灯体験をした。
そうか‥‥。これで俺も死ぬのか‥‥。
楽しい人生だったとは言えなかったけど、刺激のある人生だった。
ちょっと俺にはスパイスがきつめだったかな。
来世ではみんなに愛される‥‥‥‥アニメになりたい。
勿論、女で、亜美の声を当ててもらって、1クールすぎたら自然にいなくなろう。
俺はそんなことを思いながら、社会的にも死ぬ直前に一つ学習できた。
人間って‥‥ガチのパニックになったら‥‥‥
玄関のドアさえ開けられないんだな。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「うらぁぁぁぁ!!」
あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!
「おりゃ」
ブチュッ
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