美しき異形達
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第五十三話 山師その二
「それはな」
「そうだよね、焼酎もいいし」
「ケーキも捨て難い」
「そこはね」
「難しい選択だよね」
「そうじゃろう、どっちにするか」
また言った博士だった。
「サイコロでも振って決めるか」
「それなら一つしかない」
ここで若い男の声がした。
「その二つならな」
「ふむ、言った傍からじゃな」
博士はその若い男の声を聞いて微笑んで言った。
「帰って来たか」
「遅れたな」
「何もなかった訳ではないな」
「怪我はしていない」
研究室に入って来た、見れば怪我はなく服も乱れていない。前に研究室を出た時のままの格好である。
「家にも帰って休んでいた」
「左様か」
「しかし三日の間調べていた」
「探すのに苦労しておったか」
「かなり隠れるのが上手な奴だった」
「伊達に錬金術師ではないからのう」
「そして山師だったな」
彼も言うのだった。
「あいつは」
「うむ、欧州を股にかけた詐欺師じゃった」
実際そうだったというのだ。
「それだけにな」
「隠れることもか」
「わかっておる」
「それでか」
「うむ、探し出せただけでも凄かったわ」
「何度か闘いもした」
このことについてもだ、平然と言った彼だった。
「だがな」
「君ではじゃな」
「何ともなかった」
実にあっさりとした口調での返事だった。
「あの伯爵とも会った」
「そうか」
「あの伯爵は戦おうとしなかったが」
「そのことか」
「戦うことになると思っていたが」
しかし、というのだ。
「あの伯爵は怪人を差し向けてもな」
「そうじゃ、錬金術を極めておるとな」
博士は自分が知っているその事情を話した。
「その所属している組織から戒律を守ることを求められる」
「戦ってはならないというか」
「他にもあるが錬金術師は自分ではな」
「戦ってはならないか」
「そうした技術を身に着けることは許されておらんのじゃ」
「それは何故だ」
「錬金術は大きな力じゃな」
博士は彼のその目を見て強い声で言った。
「命さえ生み出せる」
「それだけの力だからか」
「戦う為に使えばな」
「それは恐ろしい破壊をもたらす」
「だからじゃ」
それで、というのだ。
「カリオストロ伯爵といえどもじゃ」
「俺とは戦わなかったのか」
「おそらくあの伯爵の知識なら」
「知識は力だからな」
「君とも戦える、天使長になろうともな」
「その俺ともか」
その言葉にだ、彼も言った。
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