鎧虫戦記-バグレイダース-
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第34話 吹き矢でバタッとすぐに倒れたらそれは命の危機
前書き
どうも蛹です。
吹き矢、それは暗殺にも使われる飛び道具。
よく漫画などではそれにフッ!と息を吹きこむと
針にも見える程の大きさの矢が飛んで行って
相手に刺さるとバタッ!と倒れてしまいます。
ですが、実際にそんなことが起こったなら
多分その人はもうすでに死んでいます。
たとえ、それが麻酔薬でもです。
皆さんは麻酔銃で撃った猛獣は
すぐに眠ってしまうと思っていますか?
それは違います。
実際は10分以上経ってようやく効いてくるのです。
こんな感じで理想と現実とは違っている
と言う事を言いたかっただけの題名でした。
“苦無”を振りかぶる葉隠と銃を構えるホークアイ。
果たして、相対する二人の戦いの結末とは!
(どう考えてもホークアイが負けそうなのだが)
それでは第34話、始まります!!
葉隠は“苦無”を持つ左腕を
思いっ切り横に振りかぶった。
「‥‥‥‥喰らえ」
葉隠が“苦無”を投げようとした。
その瞬間、アスラは右腕を振りかぶりながら叫んだ。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁああああああああッッ!!!」
ギュンッ!
そして、さっき気付かれないように拾っていた“苦無”を
渾身の力を込めて投げつけた。運よく葉隠の方向に上手く飛んでくれた。
しかも力任せな分、回転は荒いがスピード、威力共に申し分ない。
確実に防御、もしくは回避せざるを得ないだろう。
「チッ‥‥‥!」
ガキィンッ!
葉隠は投げようとした左腕で勢いをつけたまま
アスラの投げた“苦無”を弾き落とした。
そのせいで回転が遅くなってしまっていた。
これは一回着地せざるを得ないだろう。
『やった!ギリギリ防げた‥‥‥』
ブシュウゥッ!
しかし、代わりに右足が再び使い物にならなくなった。
投げつける際に全身に力を入れていたので
右足の再生は始めからやり直し、いや
それ以上ひどい状態からの再スタートである。
ズザッ!
葉隠はあの不安定な体勢の中、綺麗に着地した。
「チッ、なかなかやるじゃねぇか‥‥‥」
彼はしゃがんだまま右側を見た。
依然、ホークアイが銃口を向けたままでいる。
その足元では俺が右腕だけを換装している。
次に立ち上がりながら左を見た。
アスラが右足を押さえたまま跪いている。
しかし、その目は未だに闘気で溢れている。
「ここはいったん退く!」
ピンッ! ボシュウゥゥゥゥゥッ!!
葉隠は懐から取り出した丸い物体を
地面に叩き付けると同時に白煙が広がった。
しばらく何一つ見えなかったが
煙が晴れると、いつの間にか葉隠は姿を消していた。
「アイツ‥‥‥‥逃げやがったのか?」
アスラは右足を引きずりながら
俺とホークアイの所に寄って来た。
「一旦体勢を立て直すって奴だな」
「多分、すぐ来るはずだ」
出来れば、俺も戦いに参戦したいが
あいにくこの状態なのでとても無理だ。
今この戦いは二人にゆだねる事しかできない。
「見てただろうけど足がやられちまったから
オレも少しの間、戦えないかもしれない」
アスラは右足を押さえたまま言った。
右手の指の隙間からは血が流れ出ている。
再生力が高くても、すぐには治らない。
こういう時にそれは歯がゆいものだ。
「ところで、マリちゃん達は大丈夫なのか?」
アスラは地面に倒れ込んで寝ている三人を
心配そうに見ながら言った。
「毒‥‥‥じゃなさそうだ。苦しそうには見えないし」
ホークアイは三人を見ながら言った。
彼の言う通り、三人は完全に寝ているだけのようだ。
「閃光弾を使った後に何かを三人に当てたらしい」
一瞬の事でよくは見えなかったが、何か細い物が
高速で飛んで来ているのが見えた気がした。
「‥‥‥‥‥‥これだな」
マリーを見てみると、彼女のお尻に
長い針のような物が突き刺さっていた。
(マリーは後方を担当していたので
葉隠の来る方向に背を向けていたから)
他にも、リオさんの左足、迅の右肩に
同じものが突き刺さっていた。
「結構長いな‥‥‥‥」
それは針というよりは串に近い長さだった。
マリーのお尻に刺さった分を抜くと
針の先に少し血が付いていた。
(こんなのが刺さって痛かっただろうな、マリーは)
よく分からないが、見た感じ金属製で機械的だった。
後ろに蓋が付いていたので、それを取ると穴が空いていた。
おそらくだが、穴から中に仕込んでおいた薬液が
刺さった対象に注入されるという武器なのだろう。
「麻酔薬でも、刺さった瞬間に眠ってしまう程なら
本来は致死量レベルだが、"鎧人"と"侵略虫"だ。
多分、三人とも死ぬことはないだろう」
俺は二人にそう説明した。
「それなら良かった‥‥‥」
アスラは大きく息をついた。
逆にホークアイの表情は曇った。
「え、それってオレに刺さってたらどうなってたんだ?」
俺は少し考えた後に答えた。
「‥‥‥‥‥死んでただろうな」
「あっさり言うなよッ!!」
ビシッ!
ホークアイは銃から外した右手で
俺の前の空間にツッコみを入れた。
ヒュンッ!!
瞬間、俺とホークアイの目の前を
“苦無”が高速で通り過ぎて行った。
ホークアイの右腕がそれが少しかすったらしく
服が切れて、その下の皮膚から血が滲んでいた。
「う、うおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおッ!?危ねぇッ!!
腕持って行かれるところだった!!!」
ホークアイはしゃがみこんで叫んだ。
やっぱり気配が分からないというのは恐ろしいものだ。
近づかれていた事に全く気が付かなかった。
ヒュヒュンッ!!
「今度は見えた!」
カキキィンッ!!
アスラは飛んできた“苦無”を日本刀で弾き落とした。
片足でも樹を背にしていれば、踏ん張りを気にする必要はない。
不慣れながら、完全に相手の攻撃に対応できていた。
「足が早く治ればな‥‥‥‥」
とりあえず、しばらくこのまま時間を稼いで
足が完全に再生してから、葉隠探しを始めるようだ。
「‥‥‥‥‥ハッ!、上だ!!」
俺は上を見ながら叫んだ。
その次の瞬間、葉隠が“苦無”を逆手に
両腕を交差させたまま木の上から落下してきた。
「お前の足が治る前に仕留めさせてもらう!!」
両腕の隙間から覗く彼の姿はもうすでに人ではなかった。
側頭部から額までに小さな目が並ぶようにして六つ。
本来目だった部分も変身したことで変形していた。
大小合計8個の単眼が鋭くアスラを睨みつけていた。
遠くからでも分かる。一体彼がどのような虫の能力かが。
それは葉の上を駆け、宙を舞う虫に襲い掛かる狩人。
節足動物門、クモ綱、クモ目、ハエトリグモ科。
先に示した通り、“ハエトリグモ”である。
ズザッ! ダンッ!!
着地と同時に一瞬でアスラとの距離を詰め
葉隠は“苦無”を振り上げた叩き込んできた。
ガキガキンッ! ガガッ! カキィィンッ!!
アスラは葉隠の猛撃を片足で耐えながら
一本の日本刀で何とか凌いでいる。
しかし、誰が見ても明らかに防戦一方。
勝ち目など傍から見ても見つかりそうにない。
ドガッ!!
「ぐあッ!」
ドシャッ!!
葉隠はアスラの死角から回し蹴りを打ち込んだ。
それにより片足で何とか保っていたバランスを崩し
そのまま地面に倒れてしまった。
「アスラから離れやがれッ!!」
ドンドンッ!!
ホークアイは葉隠の急所に向かって弾丸を発射した。
至近距離で撃てば、少なからずダメージがあるはずと踏んだ
今の彼にできる唯一の攻撃手段である。しかし――――――
キキィンッ!
「‥‥‥銃じゃ俺は殺せない」
葉隠は逆手に持った“苦無”でホークアイの放った弾丸を
二発とも正確に見切った上で、別の方向に逸らした。
ここまでの至近距離でも的確に判断した上で対応できるのは
クモの運動能力と、葉隠の思考の瞬発力があっての芸当だろう。
「目障りだ、お前も寝てな」
ヒュッ!
葉隠は袖の隙間からさっきと同じ形の麻酔針(?)を
取り出して、ホークアイに投げつけようとした。
「させるかッ!!」
アスラは地面に腰を付けたまま
足払いの要領で日本刀を横に振り抜いた。
腕だけの居合なので、威力もさほど高くないだろう。
斬れるかさえも不安なほどである。
しかし、葉隠もこれで万が一足を斬られてしまえば
自慢のスピードによる戦法を使用できないので
彼はこの攻撃を避けざるを得ないのだ。
「さっきから俺の邪魔ばかりをするな、お前は」
タンッ!
そして、予想通り葉隠はジャンプをして回避した。
これでホークアイへの麻酔針の投擲を中断することが出来た。
だが、そこから先は正直、何も考えてはいなかった。
「この距離なら片手で十分だな」
やや身体を反り返して麻酔針を持つ手を振りかぶった。
そして、そのまま腕を振り下ろし針を投げつけた。
片手で投げたとは思えないほどのスピードで
まっすぐにホークアイに向かって飛んで行った。
『嘘だろ?こんなに早いのに全然見える。
矛盾してる一言だけど、そうとしか言いようがない。
飛んで来る針の回転までしっかりと見えるくらいだ。
これってアレだろ?走馬灯ってヤツだろ?
つーか、こんな風に見えてるってことは
それほどの生命の危機ってヤツなんだろ?
頭の中の記憶のファイルを床にぶちまけて
そこからこの状況を打破したいほどだってのに
俺の脳内はおしゃべりパーティ状態なんだぜ?
ヤバいだろ。色んな意味でヤバいだろ。
さっきから意識的には全く関係のない事しか
頭に浮かんでこねぇんだぜ?
さっきから誰にともなくこの状況について
問いたくなるぐらいなんだぜ?
あ、ヤベェ!どうでもいい事言ってる間に
針が手を伸ばせば届くぐらいに来てる!!
相変わらずのゆっくり感をキープしてるが
未だ何一ついい案が浮かんで来てねぇんだぞ!?
対応どころか指一本さえ動かせないんだぞ!!?
一体どうすりゃいいんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああッ!!!』
ガキィィィンッ!!
ホークアイめがけて飛んで来ていた麻酔針を
俺は腕のブレードで弾き落とした。
「んぐッ!‥‥‥‥ッッ」
俺は腹部の激痛に腹を押さえた。
無理矢理動いた分、とてつもなく痛かった。
内臓を引っ掻き回されるかのような鋭い痛みだった。
しかし、何とか攻撃を防げたようだった。
「ジェーン!!」
ホークアイは俺を左側から支えた。
立っているのも辛くて、今にも倒れそうだったが
彼が支えてくれたおかげで、何とか倒れずに済んでいる。
「すまねぇ、助かった!」
ホークアイは俺にそう言った。
痛みでそれどころじゃないが良かった。
こんな体でも仲間を守ることが出来て。
ガクッ
「おい、ジェーン!!」
俺はそのまま気絶してしまった。
ホークアイは俺にしばらく声をかけていた。
「チッ、外れたか」
ピシュッ!
葉隠は舌打ちをしながら糸を枝に飛ばして貼りつけ
それを引き寄せて木の上に移動した。
網を張らない徘徊性の蜘蛛である“ハエトリグモ”は
糸が全く出せないわけではない。
と言っても、罠として設置するためではなく
命綱の代わりに使用する程度の使い道なのだが。
それでも、自重を支えられる程の頑丈さはある。
最初の時の木の上からのジェーンへの奇襲は
この糸を使っていたようである。
葉隠はこのまま茂みの奥に姿を消した。
「クソッ、また隠れたか‥‥‥‥」
アスラは足を少し引きずりながら
ホークアイの近くに歩み寄った。
「どうする?ジェーンが気絶しちまった。
もう、さっきの作戦は使えないぜ?」
ホークアイは周りを警戒しながら言った。
さっきの作戦とは、俺が相手の位置を探索し
アスラが攻撃を仕掛けるというあの単純な作戦である。
「仕方ない。次の奇襲で確実に仕留めるぞ!」
アスラはそう言って気合いを入れ直した。
ホークアイの目にも再び闘志が湧き出て来ていた。
「あの男について、気付いたことがあるんだ」
ホークアイは俺を背負って移動を始めた。
眠っている三人から離れて安全にするためである。
そうしながら、しばらく二人は作戦会議をした。
**********
『あいつら‥‥‥‥何を考えているんだ?』
俺は二人を樹の上から眺めながら思った。
少々場所を移動したかと思ったら
今度は作戦会議をしながら動かずにいる。
俺の事さえすっかり忘れているのではないかと
言いたくなるほどである。
『‥‥‥‥そろそろ行くか』
たった二人の相手になど負けるハズがない。
残りの奴らも麻酔の効き目がもう少しあるから
あと数十分は起きてこないはずだ。
さっき気絶した女が何故倒れてしまったのかは
全く分からないがこっちにとっては好都合だ。
タンッ!
森を吹き抜ける風に紛れるほどの
ごくわずかな音で枝を蹴りながら
二人の上に移動して行った。
『上を取ったぞ。どうするつもりかは知らないが
俺を倒せる者なら倒してみろ!』
そう心の中で言いながら飛び降りようとした瞬間
相手二人の行動を見て俺は驚いた。
ダダダダダダダダダダダッ!
何とアスラとホークアイはジェーンを置いて
一直線に向こうへと走り出したのである。
おそらく、あの方向に俺がいるであろうと踏んでである。
奇襲に出たつもりなのだろうか、残念だったな。
俺はお前たちの後ろを取っている。
スッ‥‥‥‥
俺は懐から“苦無”を取り出した。
何度もあの日本刀に弾かれたことで刃が少し欠けている。
ここまで“苦無”を受け切った者は未だ一人としていない。
彼はあの長い日本刀を手足のように正確に使いこなしている。
成長すれば、素晴らしい剣士になり得るだろう。
『だが、こちとら命が懸かってるんだよ』
卑怯と言われようが何と言われようが
俺は勝たなければいけないんだ。
‥‥‥‥‥‥死にたくないからな。
『すまないな‥‥‥‥』
誰だって生きる権利がある。
そんなことはすでにわかっている。
俺は“苦無”を持つ手を振りかぶった。
『すまないが‥‥‥‥やられてくれ』
俺は“苦無”を持つ手に渾身の力を込め
その腕を素早く振り抜いた。
“苦無”は風を切りながら音もなく
ホークアイの背中へと向かって行った。
後書き
一難去ってまた一難!ホークアイが再び大ピンチです!
何度こうなったら気が済むのでしょうか(作者が言うな)
しかし、アスラがきっとまた何とかしてくれる‥‥‥はずです!
葉隠の能力はまさかの“ハエトリグモ”でした。
しかし、小さくても素早くて壁も走れる
まるでジャパニーズニンジャのような生き物です!!
つまり、彼にピッタリな能力であると言う事です。
最後のシーンで“苦無”投げる際にややためらっていた
葉隠の心の内に秘めている真意とは?
そして、ついに彼が投擲した“苦無”は
ホークアイに刺さってしまうのか?
まだまだ続きそうなサウジアラビア編。
次回 第35話 剣は振り下ろす派?それとも薙ぎ払う派? お楽しみに!
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