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超越回帰のフォルトゥーナ

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ep-1─それは突然に舞い降りて
  #03

 
前書き
 今回始めて『選択肢』が出現します。アンケートを投下してありますので、読み終わったら解答お願いします。 

 
 レンの眠りは、比較的浅い。

 子供の頃から、熟睡すると言うことは思いの外少なかったように思う。軍役時代はもっと浅かったし、服役初期の頃は殆ど寝付けない事もあった。

 夢を見るのだ。狂乱と炎と死体の中で、血染めの剣を振るう夢を。それが恐ろしくて、常に警戒してしまう。

 夢を見るのは眠りが浅い証拠なのだが、それを知っていても、眠りにつくのは恐ろしくなってしまう。

 切り裂いたのは、ユメだった。切り裂いたのは、《隊長》だった。切り裂いたのは──マリアだった。

 誰も彼もを、この剣で切り刻み──

「はぁっ!?」

 勢い良く跳ね起きる。久し振りだ。あの夢を見たのは。ここ最近は、ずっと見なかったのに。

 汗でびっしょりと湿った右の手に、未だ人斬りの感触が残っている。忌まわしい、殺害の記憶。

 二年前。レンは、自らが所属していた《担い手》の部隊を、己の手で全滅させた。仲間の一人一人をその手にかけ、ずっと慕っていた隊長すらも殺害した。

 レンの《運命(カルマ)》が見せる記憶も、似たような《仲間殺し》の場面だ。つくづく、運命とは忌まわしいモノだ、と思わずにはいられない。

 しかも今日に至っては、夢の中にまであの女(マリア)が出てきた。これ程苛立たしい事があるだろうか。

 大体、あの女は何者なのか。《円卓のマリア(マリア・ザ・ラウンドテーブル)》と名乗りはしたが、本名だとは到底思えない。何より、なぜレンの事を知っているのか、そもそも分かる筈の無い他人の《運命(カルマ)》がどうして分かるのか。

 そんな事に、頭を悩ませていたせいだろうか。

 気付くのが、遅れた。

「──ッ!!」

 レンの感覚が、何者かが家に近づいてくるのを察知した。気配は一つ。不覚だ、既にかなり近くまで来ている。

 ──《索敵(サーチング)》。

 レンは脳裏で、自らの《超越回帰(プロバブリー)》の一端の解放を宣言した。

 瞬時に、視界に薄らとフィルターの様なものがかかった感覚。同時に、いくつかの情報が表示され、レンに周囲の状況を伝えてくる。

 レンの持つ《超越回帰》には、本命の能力の他に、様々な役立つ能力が含まれている。恐らく何らかの技術の集合体を憑依させる、《個体発現型》の能力なのではないか、と、レンの《超越回帰》を見た研究者は言ったが、どちらにせよ今はありがたく使わせてもらう。

 十を超えるサブ能力のうちの一つ、《索敵》スキル。かなり遠方まで周囲の物を感知できる、レーダー顔負けの能力である。サブ能力は同一の物を持つ人物もかなり多いので、同じく《索敵》を使える者は軍役時代もかなりいたが、効果範囲と精度の面においてレンは抜きんでていた。

 マリアの存在を家の外から察知できたのも、この能力の常時発動機能(パッシブモディファイ)、通称《感知範囲拡大》のお陰によるところが少なからず存在する。

 果たして――――近づいてきたのは、どうやら人間の様だった。情報からすれば、性別は男か。背はあまり高くない……若いのだろうか。緑色のカラーカーソルが浮かんでいる……《担い手(カルマドライバー)》だ。マリアの言葉を信じるならば、レンと『《運命軸》が同じ』。

 ――誰だ……?

 心当たりはない。しかもわざわざこんな時間に来るなどと、友好的な存在だとは思い難い。

 何の目的で――――いや、心当たりがなくはなかった。

 一つは、レンに個人的に恨みがある者。あれでも一応、軍の収容所はかなり厳重な警備が成されていた。レンが釈放されたと聞いて、寝こみを暗殺しに来た可能性。

 もう一つは……マリアを訪ねてきた場合。しかしそれならば、彼女が此処に入るのを見ているわけで、だとしたら何故今更訪ねてきたのか、という疑問が残る。害をなすにしても、マリアが一人の時を狙えば良かったはずだ。

 ともかく――――レンはひっそりと部屋を抜け出すと、物置から持ち出しておいた片手剣を携えて、玄関まで近づいた。

 そして。


 コン、コン、コン。


 軽やかな音が、扉から響く。

「……誰だ」

 声を低めて、レンは問う。恐らくは答えないだろう、と思いつつ。

 しかしその予想に反して、扉の向こうからは、レンと同年代、あるいは年下とも取れる少年の声が答えた。

「ワールド」
世界(ワールド)……?」

 聞きなれない名前だ。と言うよりは、純粋な人間につけられた名前だとは思い難い。

「君に、一つ忠告をしに来た」
「忠告だと……?」

 ワールドと名乗った少年の声は、真意を感じさせない声で、静かにレンへと告げる。

「君は今日、金色の髪の女の子を保護しただろう」
「……知らないな」

 マリアの事か。しかしここで素直に答えてしまえば、何に巻き込まれるか分かったものではない。だが、しらばっくれたレンの解答を、まるで見透かしていたかのように、ワールドの声は苦笑しながら返した。

「とぼけないでくれよ。こっちも君と同じで『見えている』んだ」
「――――!」

 それは……この男(と思われる)の《超越回帰》にも、レンのそれと同じく《索敵》スキルが組み込まれている、という事を意味している。

 だが、続く言葉でワールドは、悪い意味でそれを否定した。

「それだけじゃぁない。こちらからは、君の顔も見えている」

 透視。いくら《索敵》スキルの練度が高い人物…恐らくそれに『特化』している者…だとしても、《透視》のスキルを持っている者はほとんどいなかった。レンも持っていない。いや、いないでもなかったのだが、それは本当にそう言ったいわゆる《シーフ職》、《偵察隊》の者達や、それに相当する能力を本命の能力として保有していた者達くらいだ。

 この時点で、ワールドの方が、レンより優位に立っていることが、判明していた。

「扉を開けてくれないか。詳しい話をしたい。君も、俺の顔が見えた方が気分がいいだろう?」
「……」

 ――何を狙っている……?

 疑問が尽きない。だが、ワールドの言う事にも一理ある。交渉事に於いて、相手にだけこちらの顔が見えている、と言うのは最悪に近い状態だ。相手が許可しているならば、相手の顔を見ておく必要があるだろう。

 レンはゆっくりとドアを開けた。もちろん、剣は持ったままで。

 果たして、ドアの向こうには、月光に照らされて一人の青年が佇んでいた。年のころは十六歳から十八歳ほどか。くせ毛混じりの黒髪に、快活そうな瞳。司祭服(カソック)の様なロングコートと、白いフードを身に纏っている。

 背中には、空色の大剣。あれが武器なのだろうか。

「……改めて、初めまして。俺はワールド。よろしく」
「……レン」

 ふむふむ、とワールドは頷き、

「うーん、俺が知ってるレン君よりか暗い、かな……? 気のせいか……?」
「……まぁ、そうだろうな。二年前とは違う」

 レンは二年前と比べて、自分の性格が暗くなったことは自覚している。二ヶ月目あたりまではまだ冗談を言ったりする余力はあったのだが、最近はどちらかと言うと『冷酷』になったのではないか、と、例の看守にも言われたほどだ。

 しかしワールドは苦笑して、

「あぁ、いや、そーゆー事じゃないんだ。うーん、なんて説明したらいいかなぁ……まぁいいや、忘れてくれ」

 そう言って、さらに笑った。

 ――人懐っこい笑い方だな。

 直感的に、そう感じた。だがそれに対しては、少々の違和感を感じる。なぜならば、彼は少なくとも、マリアに対して何かを行うために此処に来たのだろうから。

「……随分と友好的だな」
「まぁね。俺の方じゃぁ、君には何の恨みもないし。というかむしろ、それこそ友好的に接したいくらいだ。だからこそ……君に、忠告をする。
 あの金色の女の子を、匿っちゃいけない」

 それはつまり。マリアを追い出せ、という事だろう。だがしかし――――

「無論そのつもりだが? あいつには明日には出て行ってもらうつもりだったんだが」
「わーぉ、バッサリ」

 容赦は無かった。事実、レンは明日になったらどれだけ渋られようが、何を吹聴されようがマリアを外に放り出すつもりであった。

 しかし、その解答に対して、ワールドは少し困った様に眉をひそめて続けた。

「けどねー、そーゆー事じゃぁないんだなぁ、これが。あのね、もっと具体的に言うとだな……」

 そして。

 


「あの女の子を、殺すんだ」



 
 その言葉は、冷たくレンの脳裏に響き渡った。

「……は……?」
「文字通りの意味さ。あの娘を殺すんだ」
「……ちょっと待て」

 意味を理解するのに、少々時間を要した。

 殺す。殺害する。つまり、《円卓のマリア》を名乗るあの少女の命を、何らかの方法で奪い取れ、という事だろう。

「何故だ? 理由を教えろ」
「詳しくは教えられない。けれど、ここで彼女を殺さなければ、もっと不味いことが起こる」

 それは――――

「どういうことだ」
「ごめん。教えられないんだ。だけどこれだけは言える。君が彼女を殺すことは、あの娘にとっても、君にとっても……そして、君の友人たちや、この世界にとっても利益になる事なんだ」
「……意味が分からない」

 殺すことと殺されることが利益になる? そんなことはありえない。そのことを、レンは二年前に痛感した。

 あの戦乱に於いて、殺すことは常識だった。敵を殺す。民間人を殺す。殺し尽くさなければ明日への()()が開かれない。殺し尽くさなければ、殺される。

 そんな空間で何日も何週間も何カ月も何年も戦い続けて、感覚が摩耗して行く。殺すことに成れて行く。そんな許されざる状態に、誰も彼もが陥っていく。

 そこに救済などは無い。そこに利益などは無い。全てが終わった時、この手に残ったのは奇妙なむなしさと、激しい後悔、そして己への悲憤だけだった。

 どうして、この手で剣を握ったのか、と。


 しかしそんなレンの内心を見透かすかの如く、ワールドはその大きな瞳を細めて、告げた。

「なら……こう言ったらどうかな。君が彼女を殺さなければ、いずれ君の大切な人たちは、残らず死ぬだろう……否、君の手で殺されるだろう、と言えば」
「――――ッ!?」

 それは。

 繰り返せ、と言うのか。《仲間殺し》を、もう一度。

「俺は……」

 右手が震えだす。止まらない……左手で無理やり押さえつけてでも。

 《仲間殺し》を繰り返すのか。

 それとも、再びあの血染めの日々に回帰するのか。

「俺は――――」

 ――――どうすれば、いい……?










 A:【「……分かった。あいつを殺す。みんなの命が大切だ」】

 B:【「……駄目だ。何があっても、誰も殺さないと決めた」】

 C:【「俺には……選べない……ッ!」】 
 

 
後書き
 ワールド君は本当は自分の能力を隠す傾向にあるらしいですが、今回は都合上このようにさせていただきました。

 そして今回は、いよいよ初の『選択肢』が登場。アンケートを投下してありますので、それを使ってルート選択を行ってください。
集計の都合上、次回更新は来週になるかもしれません。というか70%近くそうなります((
刹「気長にお待ちください」
 
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