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謎の美食家

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1部分:第一章


第一章

                         謎の美食家
 ベルリンのあるレストランでだ。店の店員達の間で話題になっていることがあった。
「また来ているな」
「そうだな、あのお客さん」
「今日も来てそれで」
「ビールにソーセージ」
 メニューについても述べられていく。
「それにザワークラフトにアイスバインな」
「ハンバーグも頼むしな」
「とにかく滅茶苦茶食べるな」
「全くだよ」
 彼等はこう話していくのだった。この店はレストランといっても所謂市井の平民達が出入りするありふれた店だ。店の中には労働者や小売業者で溢れている。
 その中にだ。いつも異様に厳しい顔、口髭が目立ち頭の禿げた男が来るのだ。背は高く太ってさえいる。その厳しい顔には向こう傷まである。
 その傷を見てだ。店員の一人が言った。
「軍人じゃないのか、あの人」
「ああ、あの傷な」
「只の傷じゃないな」
「それは間違いないな」
 この言葉に誰もが頷く。
「戦場で受けた傷か?」
「じゃああの人軍人か」
「そういえば姿勢がいいしな」
 背筋はぴんと立っていた。次にこのことが話されるのだった。
「それに仕草もきびきびとしているしな」
「気品もあるしな」
「そうそう、気品だよ」
「それかなりあるよな」
 このことも話される。
「この店には不釣合いな感じでな」
「ああ。掃き溜めに何とやらだな」
「そんな人だよな」
「服装は普通だけれどな」
 一応そちらはごく普通の労働者のそれであるのだ。とはいっても異様なまでの長身と立派な体格が目立つ。それはどうしようもなかった。
「この前絡んできた若い奴と喧嘩してぼこぼこにしてたぜ」
「喧嘩相当強いな」
「けれどその喧嘩の仕方もな」
 店の前でやっていたその喧嘩についても話される。
「ボクシングだったな」
「ボクシングか」
「ああ、それだったよ」
 こうした場所で普通の格闘技を使う者は少ない。ただの喧嘩が普通だ。しかしその客はボクシングを使ったのである。それもまた、であった。
「それにここに住んでる人かね」
「ううん、あんな目立つ人いたらすぐにわかるけれど」
「けれどいないしな」
「ああ、いないな」
 住む場所もわからないのだった。おまけにだった。
 食べる量もだ。尋常なものではなかった。それも驚くべきものだった。
「ハンバーグ何枚もだしな」
「ザワークラフトもソーセージも山盛り」
「ビールはそれこそ樽ごと」
 そこまで飲み食いするのであった。その客は。
「卵好きだしな」
「ゆで卵一ダース食べるてたしな」
「食べるよなあ、本当に」
「身体が大きいのもあるだろうな」
 その大柄さもまた話される。
「一体どんな人なんだろうな、あの人」
「どう見ても普通の人じゃないよ」
「けれどこの店の料理は気に入ってくれてるな」
「だからいつもこの店に来てくれるんだな」
「それは間違いないな」
 わかっていることはだ。このことだけだった。
「美味いって言ってくれるしな」
「それに金払いもいいしな」
「しかもチップまで出してくれるよ」
 こうした場所の店はないことだった。そうしたことは貴族の世界だけである。平民、しかも猥雑な労働者や小売業者の間ではだ。そうしたことはないのだった。
 それでだった。このことが余計に店の者達が客について考えさせるのだった。とにかくだった。その客は不思議な客であった。
 しかしやはり来る。そうしてであった。
「今日はだ」
「はい、何を頼まれますか」
「ソーセージだな」
 まずはそれだというのだ。
 
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