魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
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sts 12 「過去からの想い」
午前中に模擬戦が組み込まれたせいか、今日の午後の訓練はいつもより早めに終わった。しかし、いつもよりもバタバタした1日だったような気がする。
まあ……今日はあの人達とも出会ったから仕方ないのかな。
今日私達フォワードは昼間になのはさんの姉妹なのではないか、と疑問を持ってしまうほどのそっくりさんであるシュテルさんに出会った。髪型や瞳の色が違うのでよく見れば別人だと理解できるのだが、初見は誰しも間違うと思う。
声とかは特に似てるみたいだし……あのときは呆気に取られてたけど、今思い返してみるとシュテルさんがやったなのはさんの物真似笑えてくるわね。必死になのはさんが否定してたから実際にはあんなぶりっ子みたいなこともしてないし、物騒なことも言ってないんだろうけど。
「ねぇねぇティア」
「何……顔が近い。少し離れなさいよバカスバル」
「あはは、ごめんごめん」
まったく……あんたは犬か何かなの。もう少し距離感を考えて近づきなさいよね。私とかならまだ付き合いが長いからいいけど、嫌がる人は本当に嫌がるんだから。私も最初は嫌だった気がするし。
「それで何よ?」
「うーんとね、今日のこと思いだしてたらシュテルさん凄かったなぁっとか、なのはさんでも慌てたりするんだなって思って」
スバルも同じようなこと考えてたわけね……まあ強烈な印象を受ける出来事だったわけだから無理もないだろうけど。
「そうね……もしかしてなのはさんに幻滅とかしちゃったわけ?」
「まさか、そんなことあるはずないよ! だって慌ててるなのはさん可愛かったし!」
分かった、分かったら少し落ち着きなさい。興奮しすぎで私との距離縮まってきてるから。それを手で気持ちを伝えると、スバルの興奮は収まっていないようだけど足だけではその場に静止した。
昔から分かっていたことだけど、本当にこいつはなのはさんのこと好きよね……可愛いとかの言い方から少し危ない気がしないでもないけど。発育は良いから間違われたりはしないでしょうけど、スバルってボーイッシュだし……あっちの道に進んだりしないわよね。
もしそんなことになってしまった場合、まず最初に私が餌食になるのではないだろうか。……いやいや、馬鹿なところがあったり大食いだったりするけどスバルだって女の子。そのへんの感性だって普通のはず。そうじゃないと一緒の部屋で寝ているだけに……考えるのはやめよう。
「はいはい、あんたがなのはさん大好きなのは分かってるから」
「えへへ」
「別に照れるところじゃないわよ。気持ち悪いわね」
「ティア、気持ち悪いはいくら何でもひどいよ!?」
いや、あんたのなのはさんへの愛は度が過ぎてる時があるから。憧れを抱くようになった理由は知っているし、人間としても魔導師としても尊敬できる人なのは分かるけど……。
「今日のなのはさんすっごく可愛かったじゃん。午後の訓練の時も最初はご飯の時のこと気にして照れてたみたいだし!」
「うっさいスバル、もう夜なんだから静かにしないよね。というか、私からすればなのはさんよりもシュテルさんのほうがインパクト大きかったのよ!」
はたから見てると、ある意味なのはさんがボケまくってるようなもんなのよ。それにショウさんからは前に思いっきり平手打ちされた相手だって教えられるし。
場を騒がしくしそうな人のようには思えたけど平手打ちをするような人には見えなかった。だから確認を取ってみたけど……
『そんなことも彼は言ったのですか。やれやれ、困ったものですね。1歩間違えれば私が乱暴者だと誤解されるというのに……』
『え、えっと……す、すみません。その、私が悪いんです……私が』
『ふふ、それ以上言う必要はありませんよ。ちゃんと分かっていますから』
このときに浮かべられた顔はデフォルトになっている無表情とのギャップのせいか、とても優しげで暖かい笑みに見えた。このときのシュテルさんは本当のシュテルさんで、なのはさんをからかっていたのは彼女なりに歩み寄ってくれようとしたのではないかと思えるほどに。
何となくだけど……あの人ってショウさんに似てるところがある気がする。
そんなことを思った直後、危険を知らせるアラート音が基地中に流れ始める。部屋着になっていた私やスバルは急いで制服に着替えて移動を開始。
今回は海上でガジェット2型の4機編成が3組と12機編成が1組の計24機が相手とのこと。空戦になるため、私達フォワードはロビーで待機しておくように指示される。なので今回出動するのはなのはさんにフェイトさん、それにヴィータ副隊長だけらしい。
「そっちの隊長はシグナムだ。何かあったときはちゃんと言うこと聞けよ」
「はい! ……えっと、ショウさんも待機でいいんですか?」
「うん。今回はガジェットⅡ型だけだし、敵の狙いがこっちの戦力確認の可能性が高いからあまり人を出したくないんだ。それに何かあったときのために戦力は残しておくべきだし」
戦力という言葉のところでショウさんを見ながら言ったあたり、なのはさんは彼のことを信頼しているのだろう。10年以上の付き合いに加え、リミッターが掛かっていても隊長陣と同等の戦果を上げてきた人なので当然とも言えるけど。
「ちょっとお願いもしてるから……そろそろ出発しないとね。じゃあみんな、もしものときは頑張ってね」
こうしてなのはさん達3人はヘリに乗り込んで目的地である海上に向かって行った。私達フォワードはショウさんやシグナム副隊長に連れられる形で、指示されたとおりにロビーへと移動する。ロビーにはすでにシャマル先生が待機していて、私達の姿を認識すると笑顔で手を振ってきた。
私達は4人固まってソファーに腰を下ろし、向かい側に座っていたシャマルさんの横にショウさん達が腰を下ろした。なのはさん達のことでも話題にして沈黙の時間が流れないようにしようかと思った矢先、先に口を開く人物が居た。
「よし、確認も出来た……フォワード、お前達に話しておくことがある。本当なら明日なのはから行われる予定だったんだが、こうして待機しておく必要が出来た以上、ただ待っているだけなのも時間が勿体無い」
だから今自分が代わりにやっておく、とショウさんは続けて一旦口を閉じて視線を落とす。視線が再びこちらに向けられた時、身が強張ってしまうほどの真剣さが彼の瞳には宿っていた。
「別に身構えて聞く必要もないが……これから見せる映像と行う話は実際にあった現実であり、今後お前らの行動次第ではいつその身に起きても全くおかしくないことだ。そのへんは心して聞け」
いつもならば私達は元気に返事をしていたのだろうが、普段とは別人とも思えるほどの圧力にも似た真剣さに頷き返すことしかできなかった。
ショウさんが映像を出そうと操作しようとした矢先、彼のデバイスであるファラさん。それに今日機動六課に合流したセイクリッドキャリバー、通称セイバーさんが代わりに操作を行う。長年一緒に居るだけにマスターのやりたいことは理解しているようだ。
ちなみにセイバーさんは人懐っこくて明るい雰囲気のファラさんとは違って、落ち着きがあって凛とした雰囲気だ。この部隊で言えば、話し方に違いはあるけどシグナム副隊長に近いかもしれない。
「今から10年ほど前……ひとりの少女が魔法に出会った。その子は魔法なんか知りもしない普通の少女で、友達と一緒に学校に通って、家族と幸せに暮らしていた」
直後に映り出された映像には、栗毛をツインテールにした女の子が映っていた。明るく温厚そうなその子はとてもなのはさんに似ている。
「この子って……」
「ああ、お前達もよく知っている人物……昔のなのはだ。本来なら魔法なんてもの知ることなく、平和な世界で一生を送るはずだった。だがある日、事件は起きた……俺やなのはの住んでいた街の至るところに、色々あってロストロギアが散らばってしまったんだ」
ショウさんも魔法のないその世界で生活していたわけだけど、ご家族に関係者が居たこともあって魔法のことは認識していた。
街に散らばったロストロギアを集めようとしていた人物の助けを求める念話もあり、まずは状況を確認しようとしたらしい……そして、同じように念話が聞こえていたなのはさんが魔法に出会ったところを目撃したらしい。
「俺達の住んでいる世界は管理外世界……言うまでもなく魔法学校なんてものはなかったし、なのはには特別なスキルもなかった。魔法と出会ったのは偶然だった。けれど高い魔力を持っていたこと、助けを求める人を放っておけない性格だったから怖い目に遭いながらも彼女は事件に関わり続けた」
スクリーンには、ロストロギアの力で暴走してしまった原生動物と戦うなのはさんが次々と映し出されていき……不意に戦う相手が人間へと変わった。それはなのはさんと同じくらいの背丈で長い金髪をツインテールにしている。
「これ……」
「フェイトさん?」
「ええ……フェイトちゃんは当時家族環境が複雑でね。街に散らばっていたロストロギアを巡ってなのはちゃんと敵対していたの」
「この事件の中心人物はテスタロッサの母……その名前を取ってプレシア・テスタロッサ事件。あるいはジュエルシード事件と言われている」
エリオから前にフェイトさんの過去については少しだけ聞いたことがあるけど、まさかあんなに仲が良さそうななのはさんと敵として戦ったことがあったなんて……。
スクリーンには本気で戦うふたりの姿が映っている。なのはさんはまだ魔法と出会ってから間もないはずだが、フェイトさんに劣らない力量を持っているように見えた。天才のようにも思えるけど、命懸けの実戦を繰り返していたことを考えると妬みのような感情は湧いてこない。
ふたりの戦いは終盤へと入ったようで、フェイトさんがなのはさんをバインドで動きを阻害し、そこに大規模な魔法を放つ。雨のような魔力弾にフィニッシュで放たれた雷槍。その威力は実に凄まじいものだった。
しかし、なのはさんはそれに耐えてみせた。
今度は逆にバインドでフェイトさんの動きを止めたなのはさんが砲撃を放つ。フェイトさんはそれに耐えてみせた。レベルの高い戦闘に驚きを隠せないが、次の瞬間私達フォワードは思わず息を呑んだ。残留していた魔力が空へと上がり、一箇所に集まっていたからだ。
「収束砲!? こんな大きな……」
「9歳の女の子が……」
「ただでさえ、大威力砲撃は体にひどい負担が掛かるのに」
「……その後もな、さほど時も置かず戦いは続いた」
シグナム副隊長の言葉をきっかけに映像が切り替わり、私服姿で魔力弾に対して防御魔法を張っているなのはさんが映し出される。魔力弾が飛来した逆側から襲い掛かってきたのは、ヴィータ副隊長だった。
「これは……私達が深く関わった闇の書事件と呼ばれるものの映像よ」
「事件の前半は我らの方が力は上だった」
その言葉を証明するかのように、防御魔法だけでなくレイジングハートまで粉砕してなのはさんを吹き飛ばすヴィータ副隊長。バルディッシュを切断しながらフェイト隊長を撃墜するシグナム副隊長、といった映像が流れていく。
そして、ショウさんとシグナム副隊長の戦闘が流れ始める。剣による近接戦、距離を取りながらの射撃戦……と凄まじい勢いで戦況は変わるが、常にシグナム副隊長のほうが上手。砲撃を食い破る一撃を受け止め切れなかったショウさんはダウンしてしまう。
けれどショウさんは立ち上がり、疾風のような連撃を繰り出していく。だがそれもシグナム副隊長には通じず……最後にふたりが選んだのは大技による決着だった。炎を纏った刃同士が交わり、片方が壊れる。結果から言えば、ショウさんはシグナム副隊長に負けたのだ。
「だが……彼女達は我らに打ち勝つためにある方法を選ぶ。当時はまだ安全性の怪しかったカートリッジシステムの使用。加えて、闇の書が覚醒してしまった後の決戦では体への負担を無視して自身の限界値を超えた力を引き出すフルドライブまで使用した」
長い銀髪の女性に立ち向かっていく黒と白の長剣を持ったショウさん。彼を援護していたなのはさんも魔力刃を形成して突貫、そこからのゼロレンジ砲撃を行う。
世界が終わってしまいそうな雰囲気の中で必死に戦い続けるふたりの姿は、見てるだけで辛くなってくる。けれどスクリーンに映っているショウさんやなのはさんの瞳には力強い光があって、決して諦めるようには見えなかった。
「彼女達の奮闘もあってこの事件は無事に終結を迎える。この事件を機にショウは戦闘から距離を置いたので問題はなかったが……嘱託魔導師であり、すぐに管理局に入ったなのはは誰かを救うため、自分の想いを通すための無茶を続けた」
「ここまで聞けば想像できるだろうが、カートリッジシステムやフルドライブの使用が体に負担を掛け、それが問題を生じさせないわけがない」
「……事故が起きたのは入局2年目の冬。異世界での捜査任務の帰り……ヴィータちゃんや部隊の仲間と一緒に出かけたんだけど、不意に現れた未確認体。いつものなのはちゃんなら対応できたんだろうけど、溜まっていた疲労や続けてきた無茶が一瞬なのはちゃんの動きを止めたの。……その結果がこれ」
シャマル先生が映像を切り替えると、そこに腹部から胸部、左腕に包帯が巻かれた状態で眠るなのはさんの姿が映った。私だけでなく、フォワード全員から悲鳴のような声が漏れる。
「なのはちゃん……無茶して迷惑掛けてごめんなさいって私達の前では笑ってた。けどもう空は飛べないかもとか、立って歩けなくなるかもとか言われてどんな思いだったか……」
シャマル先生の言葉と必死に痛みに耐えながらリハビリを行うなのはさんを見て、私達は思わず目を背けてしまう。だが直後、静かに鋭い声が発せられる。
「目を背けるな」
「見てて気分が良いものじゃないのは分かるが、最初にも言われたはずだ。これはお前達の行動次第で現実に起こりえることだとな」
「とはいえ、無茶をしなければならない状況や命掛けの戦いは確かにある。だが……そんな機会は滅多にない」
直接的ではないけど、私はショウさんにこう言われているように感じた。
この前の一件は、仲間の安全をかなぐり捨ててまで……自分の命を掛けてまででも撃たなくてはならない状況だったのかと。
「なのはの行っている訓練は成果が実感しにくいものがある。時として不満や焦りを覚えることだってあるだろう。……けどな、あいつはお前達に自分と同じ思いをさせたくない。お前達が無茶なんてしなくいいように、って心から思って教導している」
数値的なもので見れば、私達は日に日に成長していること。今はまだ実感がなくても、将来的にここでの経験が活きてくるはずだ。だからなのはさんのことを信じて付いて行け。
と、そのようなことをショウさんは口にする。
自分達がどれほど大切にされているのか、恵まれた環境にいるのか実感した私達の中には涙を浮かべている者も居た。
「ついでだし、あのことも説明しておいたほうがいいかな」
「そうですね。つい先日、無茶な使い方をした人物がいるという話も聞きましたし……マスター、よろしいですか?」
「ああ、どうせするつもりだったからな」
今の会話からして話題はなのはさんの教導のことから他に移るのだろうが、いったい何の話をするのだろうか。シグナム副隊長達は何となく予想が付いているように見えるが……。
「さっきシグナムが少し言っていたが、昔のカートリッジシステムは危険性が高い代物だった。今は技術の進歩のおかげで高い安全性が実現されているが……それでも過信や慢心、危機的状況を打開しようとして事故が起きないわけじゃない」
「まあみんなはそんな経験がないだろうし、どんな風になるかは映像を見た方が理解できるかな」
ファラさんは素早く操作を行うと、スクリーンに映像が流れ始める。そこに映っているのは先ほどよりは大きくなっているショウさん。手には紫色の長剣を持っている。色合いからしてファラさんではないのだろう。
スクリーンに映るショウさんがカートリッジを1発、2発とリロードした瞬間――爆音が鳴り響き紅蓮の炎と閃光が画面中を覆い隠した。
私の周囲から悲鳴が聞こえたかと思うと、画面には力なく倒れこんでいるショウさんの姿が映る。彼のバリアジャケットの右腕部分は吹き飛んでおり、ところどころ皮膚が焼け焦げていた。
「この事故に関して言えば、新型のカートリッジと魔力変換システム……簡単に言えば、属性変化を補助してくれるシステムを同時に使用したことで起きました。予想以上に新型のカートリッジで得られる魔力が多く、魔力変換システムや他の機能がオーバーヒートしてしまって起きたものです」
「だけどカートリッジシステムを使っただけで破損しちゃうデバイスは昔はたくさんあったから、事故が起こる理由はたくさんあるんだけどね」
「まあとにかく、これでお前達もカートリッジシステムに潜む危険性は理解しただろう。それとショウには感謝をしておけ。こいつはこれまでに何度も似たような事故を経験しながらも新型カートリッジのテストを行い続けてきたんだからな」
つまり……今のカートリッジシステムの安全性が高いのは、ショウさんが身を張ってテストをしてきてくれた結果なのだろう。
ショウさんはこの前軽めの忠告くらいで言ってくれたけど……もしも私がもっと早く生まれていて管理局員になっていたのなら、ショウさんと同じような事故に遭っていたのかもしれない。
いや、そもそもショウさんがいなかったならばカートリッジの安全性は今ほど高くなく、あのとき私とクロスミラージュは……考えただけで背筋が寒くなる。
「あの……何でショウさんは何度も危ない目に遭いながらもやり続けられたんですか?」
「メカニックとして、というのもあるんでしょうけど……最大の理由はなのはちゃんの件があったからでしょうね。カートリッジシステムの安全性が高まって、使用者への負担が減れば必然的に怪我をする可能性は低くなるわけだから」
ショウさんに言わせてあげればよかったのに、とも思うけれど、あの人の場合は照れ隠しとかで誤魔化していた気がする。
私達のことを考えて作ってもらえている教導メニュー。極めて高い安全を約束された最新式のデバイス……本当に私達はこの人達に大切にされてるんだ。
話を聞けば聞くほど、ついこの間の自分の行動が愚かであり申し訳なく思ってくる。あんなことは必要がない時は2度としちゃいけない。そう強く思えるほどに……。
「あの……よければ教えてもらいたいんですけど、何でショウさんは魔導師の道も歩もうと思ったんですか? 話を聞いていた限り、最初はともかくメカニックの道を選んだように思えたんですけど」
「それは色んな後悔があったからだな。まず最初は両親が死んだ時、俺は魔力はあったが魔法は使えなかった。もしもあのとき魔法が使えてふたりと一緒に居たのなら今は……それが最初の大きな後悔」
ショウさんは淡々と言葉を紡いでいるけれど、彼の瞳には確かな悲しい色が見える。不味いことを聞いてしまったとも思いもしたが、話すことを決めて話してくれているのだからしっかりと聞いて自分の糧にしたい。
「次に、俺はジュエルシードを巡る事件でプレシア・テスタロッサ……フェイトの母親を助けられなかった。虚数空間に落ちていく彼女の手を掴むことは出来たが……結局は」
フェイト隊長のお母さんを自分が死なせてしまった。
ショウさんの声にはそんな想いが感じられた。今の関係から考えてもフェイト隊長はショウさんのことを責めたりしてはいないだろうし、友人として接してくれていることに感謝しているのだろう。ショウさんもそれはきっと分かっているはず……だけど忘れられる過去ではないんだ。
「その次に……闇の書を巡る事件。長い間続いた負の連鎖を断ち切ることが出来たわけだが、はやてやシグナム達にとって大切な人を救えなかった」
「待てショウ、あれはあいつが望んだことだ」
「そうよ、ショウくんが自分を責め続けてもあの子は喜んだりしないわ」
「ああ、分かってる……どうしようもないことだって、仕方がなかったんだってのは分かっているんだ。だからこそ、俺はあいつに誓った……はやてやお前達、そしてリインを守れるくらいに強くなる。あの日みたいな悲しみを繰り返させないと」
確かな強い決意がショウさんの瞳にはあった。
過去の事件がどういう経緯で進んだのかは私には分からない。だけど今のショウさん達やさっき見た映像を見れば壮絶なぶつかり合いや葛藤があったように思える。
「それにさっきのなのはの一件……あれが起きるほんの少し前、俺はあいつが弱音を吐いたのを知ってる。けれど……俺の中にも今世間で抱いているようなエースだとかそういう認識があったんだ。だから当時の俺はそれに気づかず、あいつを止めてやることができなかった」
「そのことに関してもお前だけが責任を感じる必要はない」
「分かってるさ……けど俺が再び魔導師の道を歩もうとした理由のひとつではある。……まあ、それ以上に不屈のエースオブエースも人間なんだってことをこいつらに知ってもらいたかったんだけどな」
強い憧れを抱いているスバルだけでなく、私を含めた多くの人間はなのはさんのことを不屈のエースオブエースという認識がある。もしも自分が彼女の立場だった場合、感じるのは喜びよりもプレッシャーなのではないだろうか。それがなのはさんにもあって過去の出来事に繋がったのでは……。
そう考えると、もっときちんとなのはさんのことを知りたいと思える。今日の昼間に知ったなのはさんのような……不屈のエースオブエースではなく高町なのはとしての顔を。
「そして……4年前にはやてから部隊を作りたいと思ってる。実現できた時はメカニックとしてだけでなく、魔導師としても仕事してほしいなんてことを言われてな。なのは達よりも付き合いの長い奴だし、そんなに早く実現もできないと思ったから俺なりのペースで魔導師としての活動も始めたってだけの話さ」
さらりと言っているけれど、今日に至るまでに私の想像以上の努力を続けてきたんだろう。
私はこの人のことを天才だと思っていたけど違う。映像にも映っていたように小さい頃から地道に練習を続けて……なのはさんやフェイト隊長といった自分以上の力量を持った人に囲まれながらも、腐ることなく自分自身を磨き続けて今の実力を身に付けたんだ。
この前、ショウさんを天才呼ばわりした私にヴィータ副隊長が怒ったのが少しは分かる気がする。まだ知らないことの多い私でこれなのだから、長い付き合いのある彼女が感じるものは凄まじいものに違いない。
今後は迂闊な発言はしないようにしないと……そして、なのはさん達を信じて一生懸命日々を過ごしていくんだ。そうすれば、私もこの人のような魔導師になれるかもしれない。ううん、なれるように無茶をせずに努力していくんだ。
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