魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
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sts 11 「消え行く不安」
ショウくんがティアナと話してみると言ってから数日が経過してるけど、何を話したのかティアナは毎日やる気に満ち溢れている。それが伝染しているのか、スバル達もこれまで以上にやる気になっているようだ。傾向としては実に良いと言える。
今日も何事もなく午前の訓練が終わり、今は午後の訓練に向けて休憩中だ。いつもなら午後の訓練内容の確認をしたりしているけど、少しは息抜きしろということでショウくんに食堂に連れて来られた。
「ショウくんって昔からいじわるというか、私に対して少し強引なところがあるよね」
「お前も昔から俺に対してはそういう発言するよな。こっちから言わせてもらえば、どっかの誰かさんがもう少し人の言葉に耳を傾けてくれればいい問題なんだが」
ちゃんと耳は傾けてるよ。私だってもう子供じゃないんだから体調管理やらちゃんと自分で出来てるんだから。ショウくんを含めて、みんなが心配し過ぎなだけだよ……まあ過去が過去なだけに仕方がないとは思うし、心配してもらえるのは嬉しいことなんだけど。
ドリンクを飲みながらふと意識をショウくんに戻してみると、何やら優しげな笑みでこっちを見ていた。
「……その顔は何なのかな?」
「別に何でも」
「理由もなくショウくんは笑わないでしょ」
「お前、それは何気に失礼だぞ」
そうかもしれないけど、実際にショウくんは笑うことが少ないじゃん。基本的に無表情に近いし、感情が出てきても呆れとかそういう類のものばかりだし。
「こっちはただ、お前のドリンク飲んでる顔が子供が拗ねてるような感じだなって微笑ましくなっただけだ」
「そっちのほうが失礼だよ。私だってもう大人なんだから子供扱いしないでくれる」
「ほう……まあ確かにこの前のドレス姿はとても19歳のものとは思えなかったな」
もう、そういうところがいじわるだって言ってるんだよ!
何でショウくんはこうなのかな。昔はからかう側じゃなくて止めてくれる側だったのに……。お母さんとかアリサちゃん達の前ならともかく、ここでの私はスターズの隊長なんだから威厳とかあるわけで。
いやいや、隊長だからって威張ったりするつもりもないし、出来れば普段は仲良く、訓練中は優しくも厳しくしていきたいと思ってるけど。
「相変わらず表情がコロコロ変わる奴だな」
「それはショウくんのせいでしょ……今はまだいいけど、フォワード達の前でからかうのはやめてよね」
「訓練中はしてないだろ?」
「こういうときでもだよ」
ショウくんの中での私のイメージとフォワード達の中での私のイメージは違うんだから、きっと今みたいな私を見せちゃったら幻滅させちゃうよ。あの子達にとっての私は《不屈のエースオブエース》の高町なのはだろうし。
「変に肩肘張らずにありのままのお前を見せればいいだろうに」
「見せれない相手だっているものでしょ」
「まあそうだけど……お前も年取った発言をするようになったんだな」
どうしてそこでそういう言葉を選ぶのかな。普通に大人になったとかでいいと思うんだけど。ショウくん、からかう人間が近くにいなくなったからってからかう側に回ろうとしてない? 誰もショウくんにそんなキャラ求めてないからね。
「そういえばショウくん、ティアナとどんな話したの? ここ最近ずいぶんとやる気に満ちてるし、今日の模擬戦ではスバルとのコンビネーションも一段と良くなってたよ」
「別に大した話はしてないさ」
「え~気になるよ。大した話じゃないのなら話してくれてもいいと思うんだけどな」
少し子供染みた言い方をしている自覚はあったが、今後のためにも知っておきたいことだ。今のことでからかわれるとしても我慢しよう。
私が引き下がりそうにないことを感じ取ったのか、ショウくんはやれやれと言いたげな顔を浮かべると話し始めてくれる。
「本当に大した話はしてない。ほんの少し昔の話をしてから注意しただけでな」
「もっと具体的に」
「具体的にって……お前は駄々をこねる子供か」
「年齢的に言えばまだ子供だよ」
だって私はまだ19歳。つまり成人してないわけだから子供だよね。それに私だってこの10年で学んだんだから。時として開き直ることも大切だって。
「だからもっと具体的にお願い」
「はぁ……俺が昔は魔法が下手だったこととか、お前とかに嫉妬してたこととか話して、それで最後に無茶なことをするなって言っただけだ」
あれ、ショウくんって昔から色んな魔法使えてた気がするんだけど……私の知っている頃よりも前の話になるのかな。あまりそのへんの話は聞いたことがないから聞いてみたい。
それに私に嫉妬って……時折いじわるなことは言われた覚えはあるけど、別に文句だとか八つ当たりみたいなことをされた覚えはないんだけどな。
「さっきより具体的ではあるけど、それでも簡潔すぎるよ」
「お前は一字一句そのときにあったことを言えとでも言うのか?」
「出来れば」
「素直に言ったらやってもらえると思うなよ。こっちはお前みたいに常に仕事のことを考えるような真面目、いや仕事中毒者じゃないんだ」
「そこは真面目でいいじゃん。何でわざわざ言い直すのかな」
というか、私は別に仕事中毒者とかになってないから。与えられた仕事をちゃんとやってるだけで、休みだってきちんと取るときは取ってるし、息抜きだってやってるんだから。
例えばフォワード達の訓練の様子を見たりとか、そこから訓練内容を見直してみたりとか……これって人に言ったら息抜きじゃなくて仕事してるって言われるよね。
いやいや、ちゃんと息抜きはしてるもん。フェイトちゃんとかヴィータちゃんとかとお話したりしてるし、キャラメルミルクくらいだったら今でも作ってるし……。
「その顔はちゃんと自分のことを見つめられたみたいだな」
「う……別に問題ないよ。体調管理はしっかりしてるし、何より楽しみながらやってるんだから」
「その発言は将来的に不安になるな。理解のある人間と一緒にならないと離婚しそうだし」
な、何で急にそういう話になるのかな。私にはけ……結婚するような相手はいないし、仮に結婚したとしても離婚なんてしないんだから。うちのお父さんやお母さんみたいにいつまでも仲良く暮らすんだもん。
と、はっきり言い切れる自信もない。
ショウくんはクロノくんやエイミィさんのことで色々とあったみたいだし、ふたりが結婚して数年経っている今でも時々相談とかされてるらしいから。
もしかして……私ってずっと仕事が恋人みたいな寂しい女になっちゃうのかな。私だって女の子だし、大好きな人と結婚して子供とかほしいよ。理解がある人と結婚しないと不味いって言われたけど、私の仕事に理解があるとなると同業者とか魔法に関わりのある人だよね。例えば、目の前にいる……。
――って何考えるの私は!?
じょ、条件としては合ってると思うけど私達の関係は友達だったり同僚だったりするわけで。
休日に一緒に出かけたりすることは、中学を卒業してからはほとんどなかったわけで……落ち着け、落ち着け高町なのは。私はまだ19歳。そんなに焦って結婚だとか考える年齢でもないはず。今は機動六課のために一生懸命お仕事を頑張るだけ……これじゃあ数年後本当に仕事中毒になっちゃってそうだよ!
「あれ、なのはさんにショウさん。ふたりも昼食ですか?」
不意に聞こえてきた声に振り返ってみると、そこには綺麗になったフォワード達の姿があった。
何でみんながここに……って、シャワー浴びた後はいつもご飯食べてたもんね。ここに来るのは当然だよね。
不味い、今の心境的にこれまで見せていなかった私を見せてしまう可能性が高い。でもここで逃げようとすればショウくんに疑いを持たれて、そこからの流れでアウトになりそう。となると、一緒に食事をして上手く乗り切る他にない。
――冷静に考えれば大丈夫。ショウくんはみんなの前ではさっきみたいにからかうかどうか分からないし、いかに内心がこんがらがってても顔に出さなければバレないんだから。感情を表に出さないことだってこの10年で身に着けた。きっと大丈夫のはず……
「あの、私達もご一緒してもいいですか?」
「このバカ、邪魔しちゃ悪いでしょうが」
ティアナ、変な誤解しないで。確かに年頃の男女がふたりで食事をしてたらそう思いたくなるのも分かるけど、断じて私とショウくんの関係は特別なものじゃないから!
「邪魔?」
「あぁもう、あんたは……」
「まあまあ、午後の訓練もあるんだから元気は取っておこう。ほら、みんな座って座って」
危ない……正直私はあっち方面の話が苦手だ。苦手といっても興味はあるし、単純に感情を隠しておくことが難しいので今はしたくないということだけなんだけど。
とりあえず、ティアナ以外は誤解というか変な疑問は抱いてないみたいだし、私とショウくんの関係とかがっつりと心を揺さぶってくるような話題は出てこないはず。あとはいつもどおりの感じで乗り切れば
「私も座って構いませんか?」
「もちろんだよ……って、えぇぇッ!?」
ふと視界に映った懐かしい顔。澄んだ青い瞳に感情の乏しい表情、メガネに白衣……私のそっくりさんであり、メカニックの間では有名になりつつあるシュテル・スタークスに間違いない。昔と変わっているとすれば、襟足部分だけ伸ばしていることくらいだろう。
「シュ、シュテル……何でここに?」
「何で? それはですね……あなたを脅かしに来た、というわけではないのでご安心を」
「それくらい言われなくても分かってるよ!」
昔みたいに地球とかアースラで会ってるわけじゃないんだから、私を脅かすみたいな理由で来れるわけないでしょ。というか、久しぶりに会ったのに再会早々お茶目な部分を出さないでよ。
「えーと……なのはさん、この方は?」
「もしかして……なのはさんの姉妹の方ですか?」
「やれやれ、本人だと間違われることはなくなりましたが……未だに姉妹扱いされるとは」
そこまで露骨に嫌そうな顔をしなくてもいいんじゃないかな。私は別に世間でバカにされてたり、批判されたりはされてないはずだけど。
「おっといけません、自己紹介がまだでしたね。はじめまして、私はシュテル・スタークスと申します。以後お見知りおきを」
相変わらず挨拶だけは淑女的で素敵だね。茶目っ気がなければもっと素敵な女性になれると思うよ。
それとみんな、あんまりシュテルに良い印象は持っちゃダメだよ。付き合えば付き合うほど嫌な部分が見えてくるから。
「ちなみにそこにいる高町なのはとは一切血縁関係はありませんので、高町なのはとは一切血縁関係はありませんので」
「今繰り返したのは大事なことなので2回言いました的なことなのかな!」
「ふ、さすがはなのは。よくお分かりで」
別に分かりたくて分かるようになったんじゃないよ。この10年の間にやたらとからかわれたりしてきた結果、こんな風に分かるようになっちゃっただけなんだから。
……しまった、ついいつもの感じでツッコんだりしちゃったよ。こういうところを見せないようにしようと思ってたのに完全にアウトだよ。
「……ショウ、なぜなのはは突然固まったのですか?」
「そこは気にするな。なのはにはなのはなりの考えがあるんだ……ところでシュテル、お前本当に何しに来たんだ?」
「それはもちろん、あなたに会うためですが?」
何を当たり前のことを聞いているのですか、みたいな顔で今言うことじゃないよね。フォワード達が驚いたり困惑してるじゃん。初対面の相手もいるんだからもう少し抑えてよ。
「まあ分かっているとは思いますが今のは冗談です。本当は今日ここに来れば面白いものが見れるかと思いまして。例えば……そうですね、フォワードの皆さん。いきなり見知らぬ人間と会って緊張してしまっていることでしょう。距離感を近づけるためにも私という人間を見せておきます」
な、何だろう……不吉な予感しかしない。それどころか、次の瞬間には私にとって不幸な未来が目に見える気がする。
「では参ります。はーいみんな、私高町なのはだよ。年齢は19歳でお仕事は魔法少女やってます」
「シュテル、それはいくら何でも悪質過ぎるよ!?」
ただでさえ声色が似てるのに抑揚やら口調まで完全に私と同じにしないで。
それに私はそんな「自分可愛いでしょ」みたいなアピールしないし、自分の職業を魔法少女とか言わないからね。
そもそも、目上の人から少女扱いされるならまだしも、年下相手に自分で自分のことを少女だとか言わないよ。
「そうですか……では、悪魔でいいよ。悪魔らしいやり方で話を聞いてもらうから。ふふ、これは管理局の白い悪魔の名台詞ですね」
「何の話をしてるのかな! 私はそんな発言したことないし、管理局の白い悪魔だとか言われてないよ!」
「え……あんなに弾んだ声で連絡してきていましたから、てっきり笑みを浮かべるほど新人達のしごきを楽しんでいるのだとばかり」
「久しぶりにシュテルと話せてたから弾んでただけだよ! 大体シュテルの中の私はどんな風になってるの!」
人を鬼教官みたいに言わないでくれるかな……あぁもう、完全に終わったよ。これまでの私のイメージは今の一連のやりとりで完全に崩壊しちゃった。
「あのショウさん……なのはさんを弄ってるスタークスさんでしたっけ? いったい何者なんですか?」
「まあ簡潔に言えば、茶目っ気のある俺やシャーリー以上のメカニック。加えて……この前話した俺を叩いた奴だ」
「え……あの人にですか? ……なのはさんと間違ったりしたわけじゃないですよね?」
「あいつとなのはを間違えるのは難しいだろ。やることなすこと大半は270度くらい違うぞ」
ショウくんにティアナ、ふたりは私とシュテルを見ながら何を話してるのかな。もしかして……私について良からぬことを言っているのかな? かな?
もしそうなら私も少し怒っちゃうよ。ただでさえシュテルのおかげで苛立ってる上にショウくんまでそっちに回ったら私の身が持たないし。
「やれやれ、またあなたは少し会わない内に……いつか刺されますよ」
「誤解を招くようなことを言うな、俺とティアナはそんな関係じゃねぇよ。多分気に食わない存在と思われてるだろうし」
「え……いや、そんなことは。良い先輩だと思ってますよ!?」
「本当か? この前話したとき、お前割りと睨んでたぞ。言葉にもところどころトゲがあったし」
「それは疲れがあったり、失敗したばかりで自分に苛立ってたからです!」
あれ……見た感じはケンカしてるように思えるけど、何だかずいぶんとふたりの距離感が縮まってるような。この前までティアナって他の子に比べると、私にもショウくんにも距離感があるというか壁みたいなのがあったよね。
まあ他の子よりしっかりしてるから、きちんと距離感を測りつつ近づいていくタイプなんだろうけど。ショウくんは訓練以外でもデバイス関連のこともやってる。それを考えると私よりも接してる可能性は高い。
けど多分……距離が縮まった最大の理由は最初の方に話してたことが関係してるよね。いったい何を話したのか凄く気になる!
「そんなことより……シュテル、本当に何しに来たんだ?」
「すでに見当がついているのでないのですか?」
「まあな。時期的に考えて……あいつを連れてきてくれたんだろ?」
あいつ?
……あぁそういえば、確かあの子も機動六課で働いてくれることになってたんだっけ。前にショウくんとファラが抜ける分の穴がどうにかなるまでシュテルのところで働くって話を聞いた気がするし。
「正解です……とはいえ、ここに来る前にリインと会ってしまったので、今はまだ彼女に捕まっているでしょうが」
「久しぶりに会ったんだからそれも当然だろう」
「あの……いま話に出てる人って誰なんですか?」
「ん? まあ午後の訓練の時には会えるだろうさ」
別にもったいぶらなくてもいいと思うんだけどな、と思った矢先、不意にショウくんの視線がこちらに向いた。
『なあなのは』
『え……何? というか、何で念話?』
『あまり人前で話すようなことでもないんでな。……今後のことを考えて頼みがある』
頼み……言い回しから考えて大切な話だよね。今のタイミングでってことは結構早急的に対応しないといけないことなのかな。
『それはどんな頼みなの?』
『お前はティアナの調子は改善しつつあるように思ってるみたいだし、実際にそうだとは思う。けれど、お前のやってる訓練は間違いじゃないが成果が見えにくい。特にティアナのはな……』
『うん……そうだね』
『あいつは今の自分に自信を持てていない。だから焦りや劣等感を感じやすくなってる。また嫌な流れになる可能性はゼロじゃない……だからお前がどういう想いで教導しているのかを教えてやってくれないか?』
ショウくんは、暗にあの日の出来事の映像を見せてほしいと言っているのだろう。直球な聞き方じゃなかったのは、あれが私にとって辛い過去だから。
……でも必要なことかもしれない。
今はまだみんな文句も言わずに訓練をしてくれている。でも慣れ始めてきたら、何でいつまでもこんな訓練を……、みたいに思うかもしれない。もしくは今後は任務の頻度が上がる可能性もあるし、そこで失敗しちゃったら焦って無茶なことをしちゃうかも。
この子達はまだ新人。きちんと私達が守ってあげて導いてあげないといけない存在だ。だけど、新人でも知っておかなくちゃならないことはある。何より……私と同じ道を歩ませちゃいけないんだ。
『……私は別にいいけど、ショウくんはいいの?』
『何でそこで俺に聞くんだ? あれで1番苦しい思いをしたのはお前だろ』
確かにそうなのかもしれない……けど、私だけじゃなくみんなが傷ついていたのを私はちゃんと知ってる。
ショウくんが自分を責めるように訓練をしたり、私の分まで任務を行っていたのを私は知ってる。当時お見舞いに来てくれたシュテルに教えてもらったからだ。
そのときにもう無茶なことはするなってお説教されたし、とても怖い顔で睨んでたから忘れられるはずないよね。
『そっか……なら明日の朝にでも話そうかな。今日の午後はもしかするとシュテルがこのまま居るかもしれないし、午後からはあの子も多分参加するよね。自己紹介とかも必要だろうし』
『そうだな……質問攻めに遭いそうな気がしてきた』
『私はショウくんほどあの子のことは知らないからフォローはしないよ。頑張って』
『この薄情者』
『いじわるな人から言われたくないよ』
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