禁じられた文字
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3部分:第三章
第三章
「全ては帝の気まぐれだ」
「そのせいだ」
それによるものだというのだ。
「帝のその気に障ることを書いたからだ」
「文にな」
「光が僧を指し示すというが」
「どうとでも取れるのだ」
「そんなものは」
まさにだ。そうしたものだった。
皇帝がどう思うか。全てはそれだけだった。
だがそれにより学者は処刑される。そのことをだ。
彼等はだ。こっそりと囁くのだった。
「貴方には同情はするがな」
「理不尽な話なのは確かだがな」
「こんなこともあるのか」
学者の言葉はこれ以上はないまでに苦いものになった。その言葉でだ。
彼はだ。首を横に振り言った。
「こんなことでは文字なぞ覚えなければよかった」
「そうかも知れないな」
「それは時として災いになるのなら」
「だが。仕方がない」
学者はやがてだ。達観に至った。
それでだ。こうも言ったのだった。
「これも天命だ」
「死ぬことも天命か」
「そうなのか」
「学者は文字で生きる」
学者はそれによって学者になる。
文字を操らなければ学者ではない。その文字でだ。
死ぬのならだ。ならばだと言ってだ。
処刑場に向かいだ。それを受け入れるというのだ。
そうしてだった。彼は。
項垂れた顔をあげてだ。背筋を伸ばし。
「では行こう。文字で死ぬことも受け入れよう」
「文字で生きているからか」
「受け入れられるか」
「そうするとしよう。だが」
それでもだというのだ。やはり無念さはあった。
そのうえでだ。彼は言った。
「帝のこの所業は必ず残る」
「それを残すのは」
「何なのか」
「文字だ。帝が否定される文字によって残される」
そうなるというのだ。咎として彼を殺すその文字でだというのだ。
「そのことは変わらない」
「そうなるか」
「帝のことは文字で残るか」
「全ては」
「そうなる。文字によってだ」
最後にこう言いだ。学者は群衆達が見守る中処刑の場に向かいだ。静かにそれを受けたのだった。
明の太祖のことは歴史書に詳しい。彼の粛清、そしてこの文字の獄のことは書かれている。処刑された学者の言った様にだ。彼が忌まわしいと感じそれを処刑の口実にした文字によってだ。残されているのである。
禁じられた文字 完
2011・9・2
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