ハリー・ポッターと蛇の道を行く騎士
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第五話 英国の家
英国にやって来た4人はそこからエメの両親の家までロッカーソンの魔法で移動する。
「皆さん、今から魔法で移動しますので、私の体のどこかを掴んでいてください」
ロッカーソンに言われるまま、エメ達は腕を掴む。すると次の瞬間、足が浮いたような間隔に包まれ、周りの景色もビデオを早送りしているかのように移り変わっていった。
体感時間にして数秒だろうか、気がつけば先ほどまでいた飛行場ではなく、巨大な門の前に立っていた。
「さぁ、行きますよ」
言うや否や、ロッカーソンは正面の門の扉を開いて、長い登り道を足早に進んでいった。エメ達も慌ててそれを追いかけ、遅れながらもロッカーソンについてゆき、追いついたところで先ほどのことについて質問した。
「ロッカーソン先生。さっきの移動に使った魔法はどういう効果のある魔法何ですか?」
「え~と、あれは“姿現し”の魔法で“付き添い姿現し”というものです。イメージした場所までワープする魔法ですよ。本当は家の前まで魔法で飛びたかったんですが、この辺り一帯は姿現しの魔法や飛行魔法など、一部の魔法が使えないようにされているので歩いて近付くしか無いんですよね」
「……なる程。……体験した感じ、瞬間移動みたいなもの……」
「便利な魔法だね~。魔法使いになれば誰でも使えるようになるの?」
「そういうわけでも無いですよ。姿現しは高度な魔法なので、失敗すると大変なことになります。例えば……1番酷い人だと身体がちょんぎれたり、肉片になってしまった人もいます。その為、試験に合格した17歳以上の者しか使ってはいけないと決められています」
恐ろしい魔法である。
長い道を登りきった先には城と呼ぶべき、大きな白い建物が建っていた。
汚れ1つ無いその白い壁は、屋敷しもべ妖精であるロタロタが数日かけて必死に磨いた結果である。
家の扉をロッカーソンが開き4人は中へと入る。
「いらっしゃいませ。アーロン家へようこそ」
玄関ホールにはきっちりと服を着こなした屋敷しもべ妖精が1人立っていて、出迎えを受けた。
屋敷しもべ妖精はエメを見てお辞儀をする。
「お会いするのは十年ぶりで御座いますね。新たな主人よ、私はアーロン家に仕える屋敷しもべ妖精、ロタロタで御座います。以後、お見知り置きを」
既に日本から送った荷物は片付けられており、ロタロタに城内のあっちこっちを案内される。
ロッカーソンには客室を、エメ達3人にはそれぞれの部屋を与えられ、とりあえず生活に必要な施設のある場所まで連れて行かれる。
1時間程案内されたが、まだ家の中のほんの一部分だけだ。
豪奢な飾りに目移りしていたほのかは難しい話を嫌って、話が始まる前にさっさと部屋を出て行くことにした。考える前に動けと言わんばかりに、さっそく案内されていない場所の探検をしに部屋を飛び出していった。
貴重品もいろいろ飾ってあるので、勢い良く駆け回っているほのかにヒヤヒヤしているロタロタだが、危険度の高い場所は入れないように鍵を掛けてあるし、本当に大事な物は宝物庫にしまってある。たぶん迷子になるだろうから、後で迎えに行こうと考えて放っておく。
図書館を教えられたふみは話し合いよりそっちに興味を持ったらしく、新しい本の存在に目を輝かせてさっそく籠もってしまった。
室内は半無重力空間になっており、重力場が複数あった。
上下関係無く、縦横無尽に広がる本棚にぎっしりと詰め込まれた大量の本や資料たちにふみはすぐさま飛びついて片っ端から読みふけっていく。
移動の仕方にはコツが要り、しばらくはまともに動くことすら出来ない筈なのに、本を読みたいという欲望の為せる業か最初は少し戸惑ったもののあっさりとコツを掴んで本を片手に上手く行き来を繰り返してどんどんと本を読んでいく。
あまりにも夢中になって本を読んでいるので、「禁書のエリアには近づかないでください」とお願いしているロタロタの声が耳に入っていたかどうかはかなり怪しい。
「うん、うん──」と生返事を返してくるふみが本当に聞いているのか心配したロタロタが何度か繰り返して注意したところ、図書館からつまみ出されて中から鍵を掛けられてしまった。
禁書にさえ触れなければ問題は無いので、こっちも放っておくことにした。
さて、ようやくの本命。新たな主人となったエメと、屋敷しもべ妖精のロタロタ、そしてロッカーソンの3人での話し合いが始まった。
「で、結局ロタロタっていったい何なんだ?」
「屋敷しもべ妖精でございます。特定の魔法使いを自身の主人とし、その主人や家族に一生涯仕え、日常の家事や雑用などの労働奉仕を行うことを誉れとする者です。
屋敷しもべ妖精は隷従の証として、衣服の代わりに枕カバーやキッチンタオルなどの布を身に付けています。私であれば、このリボンですね」
ロタロタはポットを魔法で引き寄せると、紅茶を淹れて2人に差し出した。
「私たち屋敷しもべ妖精にとって、主人の命令は例えどのような内容であろうと絶対遵守です。何か御命令があるようでしたらなんなりとお申し付けください」
「そうだなぁ、じゃあ、今ロタロタがやったような魔法の使い方を教えてくれ」
その発言にロッカーソンは驚いた。
何と、杖を使わないで魔法を使いたいと言うのだ。驚きに口を開けるロッカーソンに気づかず、エメは続ける。
「何か、普通の魔法より応用力高そうだし、いちいち杖を使わなくて良いのも便利だしな」
「エ、エメ君!妖精と人間では身体の造りが……」
普通ならば常識的な発言なのだが、そこはアーロン家クオリティー。あっさりと常識を覆す。
「いえ、方法が無いわけではないのですが……歴代アーロン家の方々には、実際に杖を持たずに魔法を使いこなしていた人もいらっしゃいますから」
杖を使わず魔法を使っているのは事実として過去に存在する。そこに至る道のりも、その手段も人それぞれだ。その原理を使えば、杖無しでも魔法を使うことは出来る。……が、どの手段にもデメリットは存在する。
「私が知っているのは3つです。
一つ目は人体改造によって使えるようにする方法。これは身体の造りを屋敷しもべ妖精に近づけたり、精神を弄る、薬品で魔力を体に馴染ませるなどの経過を経て、使えるようになります。時間も手間も非常に掛かる上に成功率は低いです。死亡する可能性もある為、お薦め出来ません。
二つ目は身体を切り開き、体内に杖を仕込む方法。特殊な手術で身体そのものを杖として使うことが出来るようになりますが、仕込んだ杖を壊されたり取り除かれたりすると効果を失います。気絶も許されない激痛に耐えれば、3つの中では1番威力が高いです。
三つ目は魔法書や魔法の指輪などの杖の代わりになるアイテムを使う方法。先二つと違い死亡する危険性が無く使うことが出来ます。しかし強いもの程、体や精神を乗っ取ろうとしてきます。3つの中で1番威力が低く、変な制約のあるものが多いですが、私のお薦めはこれです。
……気合いと元気があれば何でも出来ると言って、挑戦したらできちゃった人もいましたが……あれは例外ちゅうの例外ですね」
ハイリスク&ハイリターン、ローリスク&ローリターンというやつだ。危険度が高い方法ほど威力の高い魔法が使え、強くなれる。逆に危険度が低ければ使える魔法も万全ではないということだ。
唖然としていたロッカーソンが頭を痛そうに振ると、呆れを含んだ調子で言う。
「この調子だと不老不死も探せばあっさり見つかりそうですね」
「ありますよ?不老不死。三代程前の御当主が『不老不死?チョロいチョロいwww』とか言って開発していましたから……」
作った本人は「何が悲しくてこんな面白くもない世界にいつまでも束縛されてないといけないだ」と言って研究資料を全部地下の実験室に放り込んで埋めてしまい、さっさと死んでしまったらしいが……。
目を回してしまったロッカーソンを客室まで連れて行くため、ロタロタは一時、席を立つ。1人残ったエメは杖無し魔法のメリットとそこまでして欲しいかどうかという疑問について考えていた。
ロッカーソンを送り届けて戻ってきたロタロタは、案の定迷子になっていたほのかを連れていた。
ほのかをソファーに座らせたロタロタは、ホットミルクを用意してほのかに手渡す。
あれば便利だなと思っただけで、これから魔法を習うのだからまた今度考えようと思ったエメは杖を使わないで魔法を使うことはいったん諦めて、思考を他に移す。
紅茶を一口啜ったエメはロタロタに質問する。
「庭は色々と防衛装置が置いてあると思うけど、運動する場所ってあるのかな?」
「えっと、中庭がクディッチ用の広場になっています。外庭は防衛用の装置が多くて危険なので、運動ならそこでやるのをお薦めします。」
「分かった。ありがとう」
寝に行こうと部屋を出て行くエメの言葉にロタロタは軽く目を見開くと「さすがはアーロン家ですね」と1人呟いた。そして、はしゃぎまくって家中のあっちこっちを駆け巡っていた影響か、ホットミルクを飲んだら眠くなって寝てしまったほのかを魔法で浮かび上げて、ほのかの部屋のベッドまで運んで行く。
ほのかに布団を被せて微笑むと、ロタロタも自分の寝床へと戻っていく。
……1人を残し、アーロン家は皆が眠りについた。
動き続けるのは、時間を忘れた少女のみである。
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