変わった毒殺
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第七章
「どうだったかしら」
「あっ、頂きました」
「幾つ?」
「バニラを一つ」
「もっと食べていいのよ」
「いえ、もう」
岳は酔っていても遠慮で返した。
「いいです」
「そうなの」
「そんな図々しいですよ」
幾つも食べることはというのだ。
「ですから」
「そう言うのね」
「はい、ですから」
「そうなのね」
「じゃあ俺は」
ここでだ、岳は。
今の姿の美咲から目を離してだ、席を立って言った。
「これで」
「帰るの?」
「そうします、家はここから近いですし」
そうするというのだ。
「タクシーでも拾って帰ります」
「そうするのね」
「明日は休みですし」
岳はこのことも言った。
「ですから」
「自分のお家に帰ってなのね」
「休みます」
そうするとだ、岳は美咲に答えた。
「じゃあまた会社で」
「送るわね」
美咲はこのことはさりげなく言った、少なくとも岳にはそう聞こえる様にした。
「玄関まで」
「いいですよ、そんなの」
「いいの。これもね」
「これも?」
「礼儀よ」
だからだというのだ。
「送らせてね」
「それじゃあ」
「玄関までね」
こう岳に言ってだった、そのうえで。
彼を実際に玄関まで送った、だがその玄関で。
酔いが酷いせいで脚をふらつかせて腰を落としてしまった、岳はその彼女を見て思わず言葉を出してしまった。
「あの、本当に大丈夫ですか?」
「ええ、もうベッドに行って寝るだけだから」
「そう言いますけれど」
「気にしないで」
「あの、立てます?」
「立てるわ」
こう言うがだ、美咲はわざと酔いが回ったふりをして立とうとしなかった、その彼女を見てだった。そうしてだった。
そのうえでだ、こう言ったのだった。
「あの立てないのなら」
「立たせてくれるの?」
「寝室まで行けないですよね」
そう思っての言葉だ。
「そんなお姿でここで寝たら」
「風邪ひくっていうのね」
「いけないですよ」
まさにだ、そうなるからだというのだ。
「ですから」
「どうするの?」
「送ります」
彼がだ、逆にというのだ。
「寝室まで」
「そうしてくれるの」
「はい」
こう美咲に対して言った。
「そうさせてもらいます」
「悪いわね」
美咲はあえてだ、岳の言葉を拒まずに答えた。
「それじゃあね」
「はい、じゃあ」
岳は美咲の手を取ってだった、そのうえで。
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