カラミティ=ジェーン
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1部分:第一章
第一章
カラミティ=ジェーン
気の強い女だった。
髪は短く刈り目の光も鋭い。その顔を見てもだ。
男に見える。小柄な男にだ。その彼女をだ。人はこう呼んだ。
カラミティ=ジェーン。それが彼女の通り名だった。その彼女がバーにいるとだ。
周りはだ。こう噂するのだった。
「また硝煙の匂いさせてるな」
「さっき保安官とやり合ったかたな」
「何だ?また足元に銃ぶっ放したのか」
「それで踊らせたってのか」
「相変わらず荒っぽい奴だな」
粗末な木造のバーの中でだ。荒くれ者達が話す。テーブルも椅子も粗末な木でできている。床を歩くときしむ。その店のカウンターにだ。
ジェーンはいてそれでだ。男達と同じくバーボンを飲んでいた。その彼女を見て彼等はあれこれと話すのである。
「昔は兵隊だったらしいしな」
「カスター将軍と一緒にいたとか言ってるな」
「まあ本当かどうかわからねえけれどな」
「どっちにしても荒っぽい奴だよ」
「本当にな」
「あれで女かよ」
こんな言葉も出る。
「何かあると銃を持ち出してな」
「博打もするしな」
「趣味はその博打に酒」
「それと喧嘩な」
「何処の荒くれ者なんだよ」
西部はその荒くれ者達の世界だ。しかしジェーンはその中でだ。
その荒くれ者の男達も一目置く様な女だった。荒っぽいだけではない。銃の腕も確かだったのだ。その西部の法律である銃の腕がだ。
狙った獲物は外さない、まさに百発百中だった。それが彼女の銃だった。
その彼女を見ながらだ。彼等は話していく。
「服も男のものだしな」
「あいつスカート穿いたことあったか?」
「昔はあったらしいな」
それはあったというのだ。
「看護婦やら皿洗いやらしていたらしいからな」
「へえ、ちゃんと女の仕事もしてたんだな」
「そうなんだな」
彼等の多くは今それを知ったのだった。
「あれでか」
「昔は銃も持ってなかったんだな」
「普通の女だったのかね」
「けれど今はな」
今はだ。どうかというとだった。見ての通りだった。
「あんな風にな」
「男と全然変わらないふうになったな」
「この西部でもあんな女は他にいないからな」
「全く。カウボーイだってできるよな」
「それも昔やってただろ」
「そうなのかよ」
カウボーイは西部の男の仕事だ。フロンティアの騎士とまで言われていた。やはり荒っぽい仕事である。品のいい者は避ける仕事と言われていた。
「まあなあ。あの仕事はな」
「俺達だってそうだしな」
「東で食いっぱぐれたのとかな」
それで西部まで来たというのだ。
「アイリッシュだのチャイニーズだの」
「メキシカンに黒人もな」
とにかくそうした面々の吹き溜まりだというのだ。とにかく様々な人間がア西部まで流れてきているのだ。それが西部なのだ。
「インディアンの奴等を追い出してな」
「俺達はここにいるからな」
「その俺達の中で生きてりゃ」
「一人か二人あんな女もいるか」
「そんな女でもな」
どうかとだ。ここで話が変わった。
「妙に優しいところがあるよな」
「そうそう、しおらしいっていうかな」
「一途なところがあるしな」
「人間としちゃ悪い奴じゃないな」
そのことは誰もが言った。彼女は少なくとも悪人ではなかった。
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