サロン
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第五章
「インスピレーションを得たよ」
「芸術家としての」
「そうなったよ、だからね」
「それで、ですね」
「これはいい絵が描けそうだよ」
こう言うのだった。
「本当にね」
「それは何よりですね」
「とはいっても今は絵の具も筆も持って来ていないから」
バカンスに専念することにしたからだ、仕事道具はあえて持参しなかったのだ。
「描かないけれどね」
「ここではですね」
「うん、けれどね」
「ロンドンに帰られたら」
「描くよ、サロンの人もね」
「風景画が専門ですよね」
「それでもね」
インスピレーションを得たからというのだ。
「描くよ」
「では頑張って下さいね」
「ロンドンに帰ったらね、しかしね」
その店員のサロンを見つつだ、ポッターはしみじみとして言った。
「いや、サロンはいいね」
「奇麗だっていうんですね」
「相当にね、だからインスピレーションを得たんだよ」
「そういうことですね」
「それではね」
「ロンドンに帰られたら」
「描くよ」
是非にと言ってだ、そしてだった。
ポッターはこのバカンスの間海と美酒、花達だけでなくだ。サロンも観て楽しんだ。そしてロンドンに帰るとだ。
実際に風景画だけでなくサロンを着た女性達も描いた、そうしてだった。
その絵を観てだ、コーウェルは描いている本人に言った。
「新境地を開いたね」
「うん、 美人画にもね」
「進出出来たね」
「そうなったよ、いや本当にね」
「マレーシアでいいものを手に入れたね」
「サロンも観てね、サロンはいいよ」
この服の素晴らしさをだ、ポッターはコーウェルに話す。彼は絵の具に汚れたままティータイムに入っていてお茶を飲みつつ話しているのだ。
「僕もそのよさからね」
「インスピレーションを得てだね」
「描けているよ」
「それは何より。ただね」
「ただ?」
「君はあちらでは相手を見付けられたかな」
コーウェルは笑ってポッターにだ、このことも問うた。
「そちらは」
「恋の相手をかい?」
「うん、そちらはどうだったのかな」
「今言われるまで忘れていたよ」
これがポッターの返答だった。
「そういえば」
「それはよくないね」
「うん、あちらに行ってもカップルか家族だけだったしね」
「略奪愛というタイプではないしね、君は」
「奪う者は奪われるよ」
この言葉はポッターの持論でもある。
「自分に返って来るよ」
「そういうものだね、世の中は実際に」
「だからね」
「君は結局ガイドさんと二人だけだったんだね」
「そうだったよ、まあそちらはね」
恋の相手、ひいては生涯の伴侶はというのだ。
「結婚相談所に登録しようかな」
「それがいいだろうね、君の場合はね」
コーウェルも笑って応えた、こうした話をしながらだった。
ポッターはサロンを描いていった、そうしてあの素晴らしい服の思い出を頭の中に出して楽しみもしたのだった。
サロン 完
2015・5・30
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