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極短編集

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短編78「あなたへ私の独り言」

 私は、今日からこのノートに「独り言」を書くことを決めた。

◇◇◇

○月×日
「なんか、好きになっちゃったみたい……多分、好きなんだろうなあ……」

○月×日
「今日、転んだ時。パンツ見られちゃった。なんで、あんなに恥ずかしかったんだろ?慌てて足を閉じたら、アイツと頭をぶつけてしまった。でも、二人で大笑いしたからいいか!」

○月×日
「アイツの事を想い浮かべていると、なぜだか楽しい気持ちになる。幸せな気持ちになる。早く明日が来ないかな~!」

○月×日
「ショックだ!アイツに好きな人がいるらしい。それを聞いて、落ち込んだ。好きな人は、どんな人なんだろ?」

○月×日
「アイツとケンカした。アイツとはいつもケンカしている。でも、今回は違う感じ……凄い怒ってる。それが悲しい。だから、早く謝ろっと!」

○月×日
「謝ったのに、許してくれない……友達も助けてくれたけど、アイツはもっと怒り出していた。なんでそんなに怒るんだろ?……私の事が嫌いなのかな?好きじゃなくても良いから……嫌われたくない……」

○月×日
「怖くて近付けなかったアイツが、声をかけてくれた。遊びに誘ってくれた。戸惑ってると、ケンカの事なとすっかりなかったような笑顔で、早く~と誘う。あんなに怒ってたのに不思議だ。でも、嬉しいから遊びに行った。仲直り出来たのかな?」

○月×日
「転んで、膝を切った。転んだ所に石があって、角で切ってしまった。すりむいたのとは違って、すぐには血がでなかったけど……大丈夫と思い歩いてたら、アイツがビックリした!膝からドンドン血が出て来た。いいよ!って言ったけど、アイツは自分のハンカチで、傷口を結んでくれた。血で汚しちゃうよ、と言ったけど聞いてなかった。いいよって言ったけど、おんぶしてもらった。アイツの背中って大きかった。コッソリ匂いをかいでしまった。好きな匂いだ」

○月×日
「来年クラスが替わる。アイツと一緒かどうか分からない。一緒にいたいね!と言ったら……ウンっとアイツも言ってくれた」

○月×日
「クラスは違った。アイツが急に遠くに行った気がした。隣りのクラスで、アイツは知らない女の子と仲良く話しているのが、なぜだか腹がだった。好きだからか?」

○月×日
「あ~あ。好きにならなきゃいいのに!って言ってたら、お姉ちゃんが笑ってた。好きな人いていいね!って言われた。好きだから苦しいよ!と言ったら、また笑われた。正直でいいんじゃない?もしかして、その子もそう思ってるかもよ!と言われた。ちょっと嬉しかった」

○月×日
「あ~!もう、ショックだ~。絶対勘違いされた。新しいクラスの男子に一人オカシイ奴がいる。女の子に抱き付きほっぺにキスをするのだ!いきなりやられた!アイツが目の前にいる時に!久し振りに話せてたのに!キャー止めてよ~!と言ってる間に、アイツはいなくなったいた」

○月×日
「アイツに会いたいと、凄く思う日はいつも雨の日だ。……入ってけよ!って、傘を忘れて、雨の中トボトボと歩いていると、アイツは何気なくなく言って、傘に入れてくれた。他愛もない話しをした。もっとアイツといたいと、この時、初めて思った」

○月×日
「殴られたってよ!と友達が教えてくれた。私に抱き付いて来た男子とアイツがケンカをしたらしい……男子を見ると、ホッペを腫らしていた。その後、その男子が抱き付く事はなかった」

○月×日
「なんで殴ったの?と聞いてみたい……私の為?そんな事ないよなあ。でも、そうだったら……お前の為にやったって言われたらどうしよう!」

○月×日
「お前の為……まんまと言われた。私はとんでもなく真っ赤な顔をしていたに違いない。なんでケンカしたの?と聞いたら……もうすんなよ!と言ったら殴られたと言われた。だから、殴り返したのだそうだ。もう変な事するな!と散々殴り返したら、泣きながら謝ったと言っていた。でも……許してやってくれよ……もしまたあったら、お前の為に殴るからさあ、と言っていた。なにか男同士の約束があったらしい……しばらくして、あの男子が謝ってきた。もちろん、もうしない事を約束に許してやった」

○月×日
「アイツは野球をしていた。日曜日に試合がある。見に行こうか、どうしようか迷っていたら……電話があった!明日、試合あるんだけど、見に来てくれないか?えっなんで!?と言うと……見て欲しいから……と言って切れた。」

○月×日
「アイツって、モテてんだなあ~って思った。試合を見に行って分かった。アイツには凄い声援があった。バッターボックスに立つアイツ。私の知らないアイツがいた。ピッチャーの球を、軽くコンっと当てたかと思うと、ホームランだった!私は思った……野球って簡単!?」

○月×日
「月曜日にアイツが私の教室に来た。どうだった?と聞かれたから……凄いね!と答えた。凄いね!簡単そうだった。当たれば跳ぶんだね!と言ったら、頭にチョップされた。次回も見に行く約束をした」

○月×日
「見ていると簡単そうに、球を打ち返しているアイツ。そうそう、見に行った後、アイツに誘われてバッティングセンターに行った。打ってみろよ!と言われて打ってみた。……当たらない!ブンブン振ってると、一回だけ当たった。球は変な方向に跳ぶし、手がビリビリして痛かった。アイツは、なっ!簡単だろ?とウィンクして、飛んで来た球をカキーンと打ち返していた」

○月×日
「野球の試合では、私は目立って応援しなかった。だってアイツの応援団が凄いからだ!下手に仲が良い所を見られたら、どうなる事か分からない!私はいたって普通にし、家に帰ってから、アイツの家に電話をした。アイツの家では、祝電女と呼ばれていた。アイツの弟がつけたらしく、弟が電話に出ると……兄ちゃん祝電、女から電話っ!って声が聞こえた」

○月×日
「野球は全く興味なかったけど、アイツがやってる事で、気付くようになった!どこが勝つと、どのお店が安くなるかが分かり、安くなって欲しいお店を応援した。アイツにその話しをしたら、大笑いしていた」

○月×日
「アイツ、プロになるらしいよ!スカウトが来てた!と友達が教えてくれた。プロ!?なんだか急にアイツが遠くに行ってしまった気持ちがした」

○月×日
「私には、何もない。勉強は中の下だし、得意な事もない。友達付き合いも普通だし、ただ毎日を過ごしていくので、いっぱいいっぱいだ!なんだか悲しくなった。自分が悔しかった」

○月×日
「何が好き?……アイツに聞かれた。もうすぐ誕生日だろ?プレゼントしたくてさ!その言葉は嬉しかったが、とても胸に突き刺さった。なんなんだろ?私の好きなものって……」

○月×日
「プレゼントは、花だった。カスミソウの中に、マーガレット、トルコキキョウが可愛らしく顔を出していた。メッセージカードも入っていた。その場で読もうとしたら、止められた。顔が真っ赤だった!帰ってから読む……お誕生日おめでとう!大好きだよ。と、書いてあった。なんか、嬉しくて涙が出た。」

○月×日
「私は、あまり自分で決めた事なかった。取りあえずで決めて生きて来た。高校進学も友達が行くからで決めた。部活だってそうだ。別に楽しい訳ではない。取りあえずで、やっていただけ……」

○月×日
「日曜日。アイツと映画に行く事になった。好きな物は?の質問に映画と答えたからだ。本当に映画が好きなのかは、良く分からない。とっさに浮かんだ。映画は、映画館で決めた。これなら自信を持って決められた!二人で見た映画は、ゴジラだった」

○月×日
「自分が、意外なものが好きなのが分かった。好きな人といるからだろうか?ゴジラの映画はワクワクした。私、こーゆうの好き!と言えた。映画の後は、ご飯を食べながら、ゴジラの何が良いかについて語った。初めてだった。私の中にも語れるだけの物があったのだ!きっとアイツの野球もそうに違いない」

○月×日
「もうすぐ、卒業式だ。アイツはプロの道へ行く。私は普通に進学にした。でも、一つだけ違うのは……学校を自分で選んだ事だった。」

○月×日
「本当に出来るのかは分からない。でも、大切なのは自分で決める事だと思う。私は映像処理の専門学校に行く事を決めた」

◇◇◇

 あれからも、アイツと付き合いは続いている。私たちは、お互いに自分の世界で生きている。独り言日記も続いている。そして私は……

 本当に、独り言を「形」にしようと思った。

「ねえ、こっち向いて~!」

「はいはい……」

 私は今、ビデオを撮っている。

「もっと良い表情出来ないの~?」

「それを引き出すのがお前の仕事だろ!」

 ファインダーの中のアイツ!今後の、私の人生をかけた仕事!アイツの笑顔を撮りまくる事!!

◇◇◇

○○月××日
「この独り言日記は、ひとまず終わりにしようかと思う。私が一番したい事は……」

◇◇◇

「なあ、どんだけ撮るんだよ!もう十分だろ?」

「え~だって、結婚式に流すんだから、まだ足りないよ!」

「いったいどんなビデオ流すんだよ」

「そうねえ、題して……」

 私はファインダーから眼をはずし、アイツを見る。

「あなたへ、私の独り言!かな」

◇◇◇

○○月××日
「この独り言日記は、ひとまず終わりにしようかと思う。私の一番したい事は……



 あなたのお嫁さんになることだ!!」

おしまい

 
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