少年と女神の物語
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第百十二話
「よし、と。あれで全部ですよね?」
「はい。後は帰りにでも学校に持っていけば終わりです」
一通り生徒会として必要なものを買い揃えた俺と梅先輩は、とりあえず昼食をとろうということでフードコートに来ていた。込み具合はすごいけど、座れないほどではない。
その中でも比較的すいている店を選んではいり、うどん店だったので俺はきつねうどんを、梅先輩は天ぷらうどんを注文して待っているところだ。
「それにしても、毎回思いますが荷物持ちをしてくれる人がいると便利ですね」
「まあ、俺のはだいぶ普通じゃないと思いますけど・・・甘粕さんはどうだったんですか?」
「さすがと言いますか、力はあるのですが・・・運べる量には物理的な限界がありますので」
まあ、そこは人間だもんな。目立つ術は使えないし、そもそも外であんまり使うわけにもいかないし。・・・気にせず使っちゃってるけど。やっぱり便利だよな、権能。
「そういう意味では、蚊帳吊り狸は荷物持ちには便利な権能ですね」
「確かに、いくらでも入れることが出来ますしね・・・というか、そもそもそのような権能でしたっけ?」
「全然違いますね」
本来なら、相手を自分の世界に引きずり込んで、しかも一つ絶対のルールを敷くことが出来る、という権能だ。決して物置ではない。物置として使ってはいるけれど。女性の多い神代家では買い物の際とても役立ってはいるけれど。
「まあでも、かなり種類がありそうな権能ですからね。堅牢なる大親分は日常的に役立つ場面も増えるのではないかと」
「・・・ちなみに、現時点ではどのように?」
「蚊帳吊り狸以外ですと・・・携帯代わりに白坊主を使ったり、カップ麺用のお湯を出すのに分福茶釜を召喚したり?」
出せば必ずお湯に満たされているし、温度も大きさも俺の自由にできる。本来の茶釜は茶の湯のためのものだから全然違うんだけど、それは権能だから仕方ない。と、そこで注文した品が届く。一度話をやめて、お互いに箸を動かすことに。
「・・・あ、そうだ梅先輩」
「なんでしょう?」
「これ、まだ渡してなかったなぁ、と思い出しまして。どうぞ」
そう言いながらクリアファイルごと、何枚かの印刷物を渡す。梅先輩は首を傾げながらもそれを受け取り、中身を見て・・・目を見開いた。だいぶ驚いたらしい。
「ちょ、これって・・・」
「はい、俺の権能の詳細ですね。前に委員会に渡した超ざっくりしたものとは違って、ちゃんと書いてありますよ」
「いや、そういうことではなく・・・」
「あ、同じ紙に複数書いてある、とかはないので」
「いやそういうことでもなく!」
店内のお客さんの視線が梅先輩に集まった。やらかしてしまったということに気付いたのか梅先輩は顔を赤くしながらうつむき、しばらくその状態を維持。俺がきつねうどんを食べきったころに水を飲んで、ようやく再起動する。
「・・・なんで、こんなものを?」
「と、いいますと?」
「権能の詳細なんて、武双君にとっては隠しておけた方がいいものではないのですか?」
まあ、それはそうなんだけど。カンピオーネの多くは自らの持つ権能について信頼できる仲間や完全な身内の人間でもない限り、そう細かく詳細を伝えることはないだろう。事実、古参と呼ばれているあの三人については何から簒奪した権能なのかもわかっていないものが多いほどだし、トトについては側近のやつが隠しているほど。隠すことが出来るのであれば隠しておいた方がいい、むしろ隠していこうという類の事柄だ。俺だって、どの神から簒奪しただとかどんなものであるだとかある程度は伝えてきたけど、ここまで詳細なものは渡していない。
とはいえ、渡しといた方が後々楽なのも事実なわけで・・・
「ま、隠したいものではあるんですけどね・・・何かあった時のために、渡しといたほうがいいかなぁ、って」
「何かあった時、ですか?」
「はい、何かあった時のため、です」
具体的には、あの嫌がらせしてたバカどもがまた何かしようとした時。あれだけちゃんと脅したし大丈夫だとは思うんだけど、中にはとびぬけてバカなやつがいる。『私たちが積み重ねてきたモノを、たった一度の偉業だけで覆してなるものか!』とか言う、本当に阿呆な考えを持ってるやつ。特に若いやつに多いみたいだけど、日本にも一人二人はいることだろう。
んでもって、そう言うやつらが何かしてくるとすれば危険の多い俺や神代家に対してではなく、ウチの庇護下に入ったということになっている梅先輩の家の方が可能性は高い。俺がどうにかすればいいことなんだが、それができない場合ってのもあるわけで・・・
「というわけで、そう言うことがあったらその中の一つと引き換えに委員会に介入させてください。向うが動くには十分な報酬でしょう?」
「たしかに、それはあるかもですけど・・・いいんですか?私がそんなこと気にもしないで渡す可能性もあるんですよ?」
「それならそれでいいんですよ。建前は『庇護下に入った家に対する恩寵の一つ』ってかんじなので、本来どう使うのかは朝倉家の勝手です」
扱いに困り切っている様子の梅先輩を心底面白く思いながら、俺は水を飲む。あー、冷たい水美味しい。
「えっと、それじゃあ・・・これはもらっていいんですね?」
「ええ、どうぞどうぞ。超貴重ですよ?神代家以外でそのデータ持ってるのは、先輩だけです」
「とりあえず・・・委員会の方に、どの神と戦ったのかだけは報告しておくことにします」
「あ、それならそこにヒルコを追加しといてください」
俺からそう伝えると、「分かりました」と言って梅先輩は受け取ってくれた。ちゃんと鞄にしまってくれる。あの量をまとめるとなると、かなりの苦労だよなぁ・・・簡単なまとめだけでいいんならすぐに終わるだろうけど、しっかりとまとめることになるだろうからなぁ・・・
「お疲れ様です、先輩」
「すいません、もう少しちゃんと話の流れを・・・」
あ、うん。ふと無意識のうちに漏れちゃったけど、やっぱり伝わらなかったか。
◇◆◇◆◇
「・・・なんだか、色々と付き合ってくださってありがとうございます」
「気にしないでください。元々今日はそういう予定だったんですから」
あの後、しまいはしたもののどうしたらいいのか分からなさそうにしていた梅先輩なのだが、どうにかして連れ出したところ普段通りに戻った。いやぁ、よかったよかった。
んで、今はそう言った諸々も終わり、買った備品とかも帰りついでに学校に届けてきたところだ。私服で学校に入れてもらえるのかと思ったんだけど、結構あっさり入れてもらえた。意外とその辺りは緩いようだ、うちの学校。
「それは、そう・・・ですね。では、今日は一日楽しかったです。ありがとうございました」
「こちらこそ楽しかったです、ありがとうございました」
うん、これくらいの方がいい。家族と話すときほど遠慮を捨てることができないのは当然のことだけど、ある程度は捨ててほしい。それができる程度には付き合いが長くなってると思うんだけど。
「それで・・・明日は家族でパーティなんですよね?」
「はい、例年通りそうする予定ですね」
「あの人数でやるとなると、賑やかになりそうですね」
「人数が増えるにつれて賑やかになっていってますよ。今年はまた増えたので、どうなるのか楽しみですね」
今年はナーシャと狐鳥が家族になったし、どんな感じになるかなぁ。いやぁ、楽しみ楽しみ。これまでで一番衝撃的だったのはアテが加わって初の時だったな。『え?クリスマスって・・・』って感じの表情は今でも面白かった記憶として残っている。
まあ周囲の人に聞いてみるとふつうここまで賑やかにはならないそうだけど、やっぱりどこの家族も少しは賑やかになるってきくわけなんだが・・・
「・・・そういえば、なんだか静かすぎませんか?」
「それは、確かにそうですけど・・・そういえば、クリスマス前なのに静かですね・・・」
ついでに言うと、もう夕飯時だ。なのにこのあたりの家からそういう類の声は聞こえてこない・・・そういや、前にもこんなことが・・・
「あ、あれ・・・」
「まさか、アイツ・・・!」
妙に静かであり、人の気配が弱くなっている。そんな前にもあった出来事に加えて、梅先輩の家の神社が、燃えている。これがもし予想通りなら、あの野郎・・・・・・!
「・・・先輩、委員会の方に連絡して下で待っててください」
「え・・・?ちょ、武双君!?」
返事は待たずに階段のところまで走り、跳躍の術で一気に上まで跳ぶ。万水千海を発動させつつブリューとボルグを握って鳥居の下に降りる。
そして、そこには予想通り・・・
「お・・・来たか、神代武双」
「テメエ、死ぬ覚悟はあるんだろうな・・・ッ!」
予想通りいた九人目を見るのと同時に、ゲイ・ボルグを投げつけた。
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