戦国異伝
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第二百十話 夜の戦その二
そしてそのうえで十万の軍勢をまずは日橋川のところまで動かした、すると実際に高森山に陣を敷いてだった。
伊達の軍勢がいた、それは川岸もだった。
その布陣を見てだ、信長はまずはこう言った。
「このまま渡ろうとすればな」
「はい、そうすればですな」
「その時は」
「この兵の数でも無理じゃ」
川を渡れないというのだ。
「追い落とされるわ」
「見れば伊達は鉄砲が多いですな」
「それも弓矢も」
「槍もな」
兵の数は伊達の方が遥かに少ない、だがだった。
「武具がよいわ」
「ううむ、確かに」
「実によく揃っています」
「あそこで迂闊に渡れば」
「それこそ」
「二十万おっても同じじゃ」
関東に来たその兵力で攻め込んでもというのだ。
「追い落とされておる」
「それを見越して、ですな」
「伊達はあの地に布陣しておるのですな」
「我等に勝つ為に」
「まさにその為に」
「そしてじゃ」
それに加えてと言う信長だった。
「我等が渡れぬと躊躇しておるとな」
「そこで、ですか」
「当の伊達政宗がですか」
「自ら鉄砲騎馬隊を率い」
「そのうえで」
「来るわ」
攻めて来るというのだ。
「そうして来るぞ」
「渡るも難し、待っても難し」
「そうした状況ですか、今は」
「それはまた厄介ですな」
「実に」
「そうじゃな、しかしわかっておった」
信長は落ち着いた声でこう言った。
「伊達が磨上原に向かったと聞いた時にな」
「その時にですか」
「既にですか」
「この様に布陣することは」
「そのことは」
「うむ、わかっておった」
やはり落ち着いた声であった、今の信長は。
「だからな、よいか」
「はい、殿の仰る通りに」
「ここは、ですな」
「動きそのうえで」
「伊達と戦えと」
「御主達の命預かる」
そのうえで、というのだ。信長はこの戦に勝つ為にだ。今自身の周りにいる彼等にあえてこう問うたのである。
「そうしてよいな」
「はい、是非」
「この命殿に預けます」
「そしてです」
「この戦勝ちましょうぞ」
誰もがこう信長に返した、それも強く。信長もその言葉を受けてだった。その顔をさらに確かなものにさせて続けた。
「ではな」
「はい」
「ではこれより」
「戦ですな」
「そうなりますな」
「そうじゃ、まず言うがじゃ」
信長は己に命を預けた家臣達にさらに言った。
「わしは待たぬ」
「攻めまするな」
「そうされますか」
「そうじゃ、攻めてじゃ」
「そのうえで、ですな」
「勝つのですな」
「そのつもりじゃ、夜に仕掛ける」
その時にというのだ。
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