魔法少女リリカルなのは 絆を奪いし神とその神に選ばれた少年
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第十七話 全の実力
三分が経ち、全は円の中から出る。これからは、一撃だけ攻撃を与える事が全には可能だ。
そして、その一撃を与える策を何通りも頭の中で構築していく。
(相手が退けば、縮地で一気に距離を詰めて仕留める。相手が向かってくるならば、カウンターで相手の首に手刀。相手が空中にいけば……)
魔導師戦を想定して、いくつかの戦闘シミュレーションを繰り広げる全。
その間にも聖は全に攻撃を仕掛けるが、そんなもの全には当たらない。
全にとって脅威でもなんでもないからだ。
こんな物、前世で体験した機関銃で四方八方から撃たれる状況に比べれば雲泥の差。
あの時は本気で死ぬかと思った、と全は余裕の表情すら出している。
その表情が気に食わないのだろう、攻撃がさらに大振りになる。
「くっそぉぉぉぉぉぉ、当たれよぉぉぉぉぉ!!!」
「はぁ……」
全は目を瞑りながらもため息をつき、攻撃を避け続けていく。
ここまで単調な攻撃もないぞ……と全は呆れる。
これでは、どうぞ反撃してくださいと言っているようなものだからだ。
だからといって、攻撃する程全はバカではない。
「はぁ、はぁ、はぁ」
先ほどからずっと攻撃していたからか、聖の息は荒い、対する全は平静だ。
それもそうだろう、攻撃するという事は反撃も受けてしまうのではないか?という恐怖と隣り合わせの行為。それ故に通常以上に体力を消耗する。
対して回避に徹するという事は回避だけに集中できるため、そっちの方が体力の消耗が少ない。
だから、双方共動き回っていたのに全の方が疲れが少ないのだ。
まあ、他にも地の体力の差もあるかもしれないが。
「はぁ、はぁ……そうだ、そうだった」
と、聖はなぜか何かを閃いたかのように空に飛び立つ。
そして、天井付近まで飛ぶとその場に静止する。
「お前、確か飛行適正あんまり高くはなかったな。ここからなら、避けようもない攻撃も出来るし、最初からこうしていればよかったよ」
聖の言葉の通り、全には飛行適正はあんまりない。
この飛行適正が高ければ高いほど、空での戦いに順応していく。
その適正が全にはあまりない。対する聖の適正は天性の才能と言ってもいいくらいに高い。
そして、聖は自身の近くに魔力弾を精製していく。
「ここからは、そんな余裕の表情を消してあげるよ!いっけぇ、セイントシューター!!!」
そう聖が叫ぶと、彼の周りに滞空していた魔力弾が次々と全がいる場所に降り注ぐ。
全はそれをじっくりと見つめたまま……シューターが全がいる地面の付近に次々と当たり、煙が立ち込める。
「ふっ。口ほどにもなかったね」
その煙が消える前に聖は勝利を確信した。全は最後まで動かなかったのだ。当たっていて当然だと思っている。
「クロノ!もういいんじゃないか?早く神楽院を連れて行かないと」
『そうだな。それじゃそっちに』
と、クロノが聖の勝利を宣言しようとした瞬間
「がっ!!!!????」
聖の頭にこれまで感じた事もないような衝撃が走る。
聖の前にいたのは……後方回転をしながら聖の頭にオーバーヘッドキックを喰らわせている全だった。
そのまま、聖は勢いよく地面に激突。後方回転を繰り返しながらも、綺麗に着地した全。
「ふぅ、上手くいった……」
『まったく。冷や冷やしましたよ、マイスター。ここであの技の勘が鈍っていないか試すなんて』
「大丈夫だろ。結果的に勘は鈍ってなかったんだし」
そう、今の全の技は前世で暗殺者をしていた頃編み出した暗殺妙技『星崩し』という名前の技だ。
原理は至って簡単。壁、天井を駆けての上空からの奇襲攻撃である。
というのも、全自身に暗殺者としての素質がまったく無かった為、色々な手段を用いらなければ仕事が出来なかったのだ。
だからこそ、血のにじむような努力を重ねて暗殺妙技を作った。
この星崩しはその暗殺妙技の中でも必中率という確立においてならばピカ一を誇る程の奇襲にはもってこいの技だ。
それもそうだろう。誰が天井からの奇襲など予想しようか。それも先ほどまで目の前にいた敵が、である。
そんな超人のような技も一重に全の努力があっての技であり、全の努力が実った結果でもあるのだ。
「さて、もう終わりだろうし。そろそろ出て『マイスターっ、高宮が起き上がりました!?』……ほぅ?」
全は感心しながら聖が落ちた場所に向かい合う。
そこには、確かに聖が立っていた。
しかし、その目は焦点が合っていない。おそらくは意識を失ったままなのだろう。
「僕が負ける筈がない……僕は主人公なんだ……負ける筈がないんだ……こんな、踏み台なんかに……」
意識が戻っていないせいか、支離滅裂な事を言っている。
もちろん、全はその言葉に興味も向けなかった。
そして、シンからの言葉に少し動揺する。
『マイスター、高宮は魔力を集めています!このまま、砲撃を放つ気です!急いで退避を!』
「ああ、わかっている。しかし、こんな狭い所でそのような物を……!?」
振り向こうとした瞬間、全は気づいた。自身に向けられた視線に。そしてそれが……
「シン、迎撃するぞ」
『マイスター!?何を言っているのか、わかっているのですか!?避けなければいかにマイスターといえど』
「俺は関係ない。だがこのまま砲撃が放たれれば……
なのは達のいる観戦室にまで被害が及ぶ……!」
自身の背中に向けられているという事に。
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