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ミョッルニル

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6部分:第六章


第六章

 シャールヴィの焦りはさらに高まる。それで青い顔でロキに問うのだった。
「本当にわからないんですか!?」
「だから待て」
 トールと椅子を見据えつつそのシャールヴィに答える。
「何の魔術だ、これは」
「それさえわかればですね」
「そうだ。よくあるのは姿を消したり遠隔操作だが」
 己が知っている魔術について考えだした。
「今回は何かだな」
「姿をですか」
「そうだ。魔術では基礎の基礎だ」
 ロキもまた得意としている。だからこその言葉だった。
「だからこそよく使われるのだが」
「見破る方法はありますか?」
「基礎の基礎だ」
 そこをあえて強調してみせた。
「これだけ言えばわかるな」
「じゃあ簡単にわかるんですね」
「シャールヴィ」
 ここであらためてシャールヴィの名前を呼んだ。
「はい?」
「とりあえず椅子の下を剣で払え」
「剣でですか」
「そうだ。わしの予想が正しければだ」
 椅子の下を見つつの言葉だった。何も見えないそこを。
「対処の仕方がわかる。すぐに斬れ、いいな」
「はい、それでは」
 ロキの言葉に応えてすぐに動いた。さっと前に出ると剣を横に払った。すると。 
 その剣が弾き返された。それはまるで石を叩いたかの様であった。
「!?これは一体」
「やはりな」
 驚くシャールヴィに対してロキは冷静なものだった。
「そこにいたか。姿はそこだったか」
「そこ!?それじゃあ」
「そうだ、わしの予想通りだ」
 自信に満ちた笑みを浮かべつつの言葉だった。
「そこに奴等はいる。トールよ」
 今度はトールに声をかけた。見れば彼はまだ天井で両手を踏ん張っている。
「杖だ、杖を使え」
「杖をだと!?」
「そうだ、杖だ」
 それをトールに言うのであった。声が急かすものになっている。
「その両手で杖を持ち天井を突け、いいな」
「だがそれでは天井を突き破るぞ」
「そうなればそれはそれでいい」
 そうした事態も既に考慮に入れた言葉であるのがわかる。今ロキはその自慢の智謀を存分に使っていた。この辺りが流石であると言えた。
「だがわしが考えている通りにいけば」
「その時はどうなる?」
「それで終わりだ」
 ロキはトールに対して断言してみせた。
「御前の勝利でな」
「随分と俺を信頼しているのだな」
「少なくとも負ける男ではないと思っている」
 ここでも不敵に笑ってみせての言葉であった。
「そう簡単にはな」
「面白い。それではだ」
「突け」
 杖で天井を突くように告げた。
「それで防げ。よいな」
「うむ!」
 ロキの言葉に従い実際に杖を天井に突き出した。すると椅子の動きが止まった。
 トールはそれで終わらなかった。全身に力を込めて踏ん張った。椅子を両足で踏んでさえいた。するとその足元から。激しい音と女の叫び声が聞こえたのだった。
「女の声!?」
「やはりな」
 怪訝な顔をするシャールヴィに対してロキはまたしても納得した顔であった。
「姿を消していたのだな」
「ロキ様の予想通りですか」
「そうだ。そして見よ」
 シャールヴィに対して見るように言う。
「足元をな。そこにあるのは」
「なっ、あれは」
 降り立ったトールの足元に二人の女が倒れていた。そのあまりもの大柄さから彼女達もまた巨人であることがわかる。とりわけそのうちの一人は。
「あの女は」
「河にいた女か」
「そうだ」
 ロキはその女を見下ろすトールに述べた。
「ギャールプ。やはりこいつだったか」
「ゲイルレズの娘がまたか」
「もう一人もだ」
 ロキはまたトールに告げた。
「この女の名はグレイプ」
「グレイプ?」
「この女もまたゲイルレズの娘だ。二人でここで御前を倒すつもりだったようだな」
「ふん、小細工ばかりしおって」
 トールは既に事切れている女巨人達を見下ろしつつ言い捨てた。
「今度は何をするつもりだ」
「今度はゲイルレズ自身が仕掛けて来るだろうな」
 ロキはこう予想を立ててきた。
「娘達を倒されたうえはな」
「そうか。ではこちらも本気で行くとしよう」
「トール様」
 シャールヴィがトールの側に来て彼に声をかけてきた。
「どうした、シャールヴィ」
「ミョッルニルと力帯は持っていますから」
 緊張に満ちた顔でトールに告げるのだった。
「御安心を」
「いざという時はか」
「はい」
 またしても真剣な顔で答えてきた。
「ですから行きましょう」
「出す時は今ではないがな」
 ロキはここでは二人、とりわけトールの血気を静かにさせた。
「あくまでいざという時だ。いいな」
「ゲイルレズが何かした時か」
「そうだ。しかもだ」
「しかも」
「手袋は持って来ているな」
 一応念押しのようにトールに尋ねてきた。
「あの鉄の手袋は」
「うむ」
 トールの持ち物の一つである。ミョッルニルを持つ時に常にはめているものだ。当然今回もそれを持って来ているというわけなのだ。
 
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