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大統領の日常

作者:騎士猫
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本編
  第二十一話 とある戦線の物語2

 
前書き
合宿の前に終わらせようと思ったら終わらせられなかったorz
今回は結構頑張ったと思います。是非感想等もお願いします。 

 
西暦2115年 10月 23日
エールマン少将


「有効射程距離内到達までおよそ4分」
艦隊は今補給と整備を終え、敵基地の近郊まで接近してきている。
先の戦闘で重装甲の艦艇の半数ほどが撃沈はしていなくても損傷が激しいため、現在の艦艇数は780隻だ。
既に敵の艦艇が70隻ほどになっているため、このうちの500隻ほどが他の小中規模の都市に侵攻している。
なので今貴下にいるのは280隻ほど、これでも十分すぎる数だ。
陸軍の方も25個師団まで減っている。飛空軍と同様、他の小中規模の都市の制圧にあたっているからだ。

「さて・・・」
敵は紡錘陣を取っている。この場合に考えられるのは防御に徹しているか、中央突破をするかだ。
通常の戦闘であれば中央突破の可能性があるが、敵は民間人を守るために防御に徹している。つまり中央突破をしてくることはまずないだろう。
念のために中央の防御を厚くしておくように指示する。
他にもヘルメール伯爵の機嫌を取るためでもある。貴族はまず第一に身の安全であるからだ。

「敵艦隊、有効射程距離内に入りました」
私が命令を下そうとするとヘルメール伯爵が号令を下した。
こういう時しか貴族は命令しない。昔は貴族=優秀だったのに、いまでは貴族=無能になっている。こんな奴らが重臣となっているようでは帝国の先も長くはないかもしれんな・・・


・・・・・・・・・・・・・・


現在我が艦隊は敵を包囲している。最初から敵は紡錘陣を取っていたので包囲するのは簡単だった。
既に敵は50隻ほどまで減っている。しかしここからが時間がかかる。
なぜなら敵が減れば減るほど命中する面積が小さくなり、なおかつ敵は回避しやすいため熟練の砲手でも当てるのが難しくなっていくからだ。

21世紀の前半ごろまでは誘導兵器や自動標準で敵にほぼ確実に命中させることが出来たのだが、2048年にディベル博士が発見した粒子が今までの戦い方をひっくり返してしまった。
この粒子を簡単に言うとレーダーなどの電子機器の一部を使用不可能にするのだ。つまり今まで主流だった誘導兵器や自動標準、レーダー等が使えなくなってしまうのだ。ただしレーダーはその後の改良によって60キロ圏内であれば高濃度でない限り使用可能で40キロ圏内であれば高濃度でも大体問題なく使用でき
る。ミサイルの中でも弾道ミサイルなどの誘導式ではないものはコーティングをしていれば使用可能だ。

しかしたとえ命中率が下がるといってもあとは時間の問題だろう。地上部隊の方は入り組んだ渓谷や山道などで思うように進めないらしいが、それも時間の問題だ。敵の飛空艦隊を殲滅した後に艦砲射撃で山ごと吹き飛ばしてしまえばいい。

「もう8時か・・・」
気が付くと夕食の時間になっていた。ということはすでに7時間も艦橋で指示を出していたということか。
ふと指揮席を見ると既にヘルメール伯爵は食事を半ば食べ終わっている。
近くにいる従卒に食事を持ってくるように頼んだ。そしてオペレーターなども交代で食事をとるように指示する。

今日の夕食はステーキだった。私はあまり脂っこいものが好きではないので半分程度まで減らしてもらった。その時副官のビュール少佐が「もしやダイエットでもなさっているのですか?」とにやにやしながら聞いてきたので彼の嫌いなピーマンを従卒にこっそり頼んで2倍にしてもらった。運ばれてきた料理を見て絶望的な顔をしたのはさすがに笑えた。

食事を済ませると副参謀長のクリストフ准将から指揮を引き継いだ。
敵の艦艇数をオペレーターに問うとあと35隻ほどとのことだった。やはり当初の戦闘とよりは敵に与えている損害が少ない。それに加えて敵の基地の防衛装置からの攻撃も無視できなくなっており、そろそろ一気に片を付けなければならない。

ヘルメール伯爵に許可をもらうと全艦に円錐陣を取るように指示した。そして両翼を伸ばし包囲していた艦艇が次々と中央に集結し、30分ほどで円錐陣が完成した。
打撃力に優れる戦艦と高速戦艦を前衛に巡洋艦と駆逐艦を外側に、空母を内側にした陣形だ。

この時、私は勝利を確信していた。こちらは243隻対して敵は30隻程度。この物量の差ではどれだけ優秀な指揮官でも覆すことはできない。
気が付くと私は笑みを浮かべていた。一度深呼吸をして落ち着かせると全艦に号令を下した。


西暦2115年 10月 23日
ラーベクト中将


「っく!・・」
旗艦の近くにいた味方艦が敵の砲撃を受けて爆沈した。
既に我が艦隊は36隻まで撃ち減らされ、組織的な抵抗は不可能となりつつあった。
唯一の救いはディベル粒子のおかげで命中率が下がっていることだ。こちらは各艦の間が広いため、命中弾は少ない。しかし敵は数も多く比較的密集しているため結構な確率で命中する。
とはいったもののこの戦力差を覆すことは到底不可能だ。もし敵が密集体形で突撃してきたらこちらはなすすべもなく壊滅する。

副官に現在の避難完了率を聞くと75%ほどだと返答された。無駄と分かっているが出来るだけ急がせるように伝えた。

ふとメインモニターを見ると敵が徐々に密集体形を取っていることに気づいた。
その数秒後にオペレーターが敵が密集体形を取っていると叫んだ。
全艦に密集した敵艦隊に砲撃を集中させるように指示し、敵艦隊に少なからず損害を与えた。
しかしこの戦力差ではこの程度微々たるものでしかなく、敵艦隊は多少混乱しつつも着実にこちらに進んできた。

目の前にいた味方艦が爆沈した。そしてその煙の中から敵艦が姿を現す。

「どうやらこのレース、死神が勝ったようだな・・・」


西暦2115年 10月 23日「推奨BGM:チャイコフスキー 交響曲第6番《悲愴》 第3楽章 4分30秒あたりから」
2時間前


戦場のはるか後方に援軍として向かっていたフリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト少将率いる第三独立艦隊120隻が姿を現した。脱落艦覚悟で向かってきたため、艦隊全艦の150隻のうち、30隻の脱落艦を出していた。

「おお!間に合ったか!全艦時計回りに迂回して敵軍の後方をつく、急げ!」

艦隊は時計回りに帝国軍のレーダー感知範囲ギリギリを通って帝国軍艦隊斜め右面に移動するとビッテンフェルトの号令で帝国軍艦隊に突撃した。


■エールマン少将


現在艦隊は敵の攻撃を受けつつも順調に敵に向かって突撃している。
あと30分もすれば敵はこの戦場から消え去ることだろう。

「勝ったな」
しかしそんな気持ちは数十秒後に完全に消え去った。

「ご、5時方向に多数の艦影、急速に接近してきます」
「味方か、どの分艦隊か通信を送れ」
ヘルメール伯爵が言った。味方はまだ攻略の途中のはずだが・・・まさか・・
「閣下、艦隊の一部を割いて後方の守りを固めましょう」
「何を言うか、なぜ味方に対してそのような行動をとる必要があるのだ」
「あれは味方などではありません。敵艦隊です!」
「なぜ敵が後方から来るのだ。敵が来るとすれば前方からであろう」
「恐らく感知範囲ギリギリを迂回してきたのでしょう。それより急ぎませんと、我が艦隊は挟撃されてしまいます!」
「・・よかろう、両翼の一部と本体の一部を割いて後方の防御をかt・・・」
「こ、攻撃、きます!!」
遅かったか!
「後方から接近してくるのは友軍ではありません!敵艦隊です!数およそ120!」
「右翼艦隊の損害拡大!」
「戦艦フォルテン撃沈!空母ジャディフェン通信途絶!」
「戦艦バーティクス撃沈!右翼艦隊司令フリーディス少将戦死!」
くっ!、思った以上に混乱が大きい。このままだと・・・・
ヘルメール伯爵に許可を得ている時間はない。
「敵は我が艦隊の半数以下だ!右翼と本体で迎撃する!前衛と左翼はそのまま前進し敵を殲滅せよ!その後敵艦隊の後方に回り込んで挟撃し殲滅する!急げ!!」
「だめです!敵の砲撃が苛烈で右翼艦隊は混乱状態で統制がとれていません!」
こんな短時間で・・・
「やむを得ん、前衛のみそのまま前進して本体と両翼で迎撃する!」
こんなに早く増援が来るとはな。そしてこの破壊力・・短時間で分艦隊を壊滅状態にするとは・・・

「閣下!右翼部隊を突破した敵がそのままこちらへ突撃してきています!」
「装甲の厚い艦で防御壁を築き、左翼部隊が到着するまで持ちこたえろ!」
「前方の敵艦隊からの砲撃が激しく前衛部隊は崩壊しつつあり!」
予想以上に前方の艦隊の攻撃激しい、このままだとまずいな。しかし、こちらから増援を送ることはできない・・・

「閣下!敵艦隊に防御線を突破されました!」
ばかな、早すぎるっ
「護衛部隊迎撃せよ!」
「だめです!敵の攻撃が激しく、戦線維持不可能!」
「戦艦デルフェン撃沈!副司令官サーテムト少将戦死!」
「前衛部隊損耗率4割!」
「右翼部隊壊滅!」
あれだけ優勢だった戦況が一瞬のうちに覆ってしまうとは・・・
最後の最後に油断したな・・・


「直撃、来ます!!」


■ラーベクト中将


既に敵は前衛艦隊を突破しつつある。全滅も時間の問題だろう。副官に避難完了率を聞くと80%だと返された。20%、数でいうと80万人だ。80万人の民間人が捕虜になることになる。帝国では捕虜は奴隷として使われるか、その場で殺されるかだ。どちらにしても地獄だ。こうなったら旗艦を撃沈して混乱させようかとも考えたがさすがは貴族、自分の守りだけは固めていて不可能に近かった。

目の前にいた味方艦が爆沈した。そしてその煙の中から敵艦が姿を現す。
「どうやらこのレース、死神が勝ったようだな・・・」
そう言って目を閉じた。

だがいつまでたっても死が訪れることはなかった。
しばらくするとあたりが騒がしくなってきた。
不思議に思い目を開ける。

私が見たのは目の前で今まさに主砲を撃とうとしていた敵艦の残骸だった。

「味方です!第三独立艦隊です!援軍だ!!」
そうオペレーターが叫ぶとそれまで絶望的な雰囲気に包まれていた艦橋が一気に歓喜に包まれた。
私ははっと我に返って叫ぶような声で指示を出した。
「ありったけの砲弾を、敵にたたきつけろ!!」
援軍の攻撃に混乱していた敵艦隊に次々と砲撃を加えられる。

どうやらレースは一秒差で援軍が勝ったようだ。





「撃て撃て!敵は混乱しているぞ!一気に殲滅するのだ!」

第三独立艦隊はガルメチアス軍の右翼に突撃するとそのまま中央をを突破して左翼後方に突き抜けて後方から容赦ない砲撃を加えていた。
突然の攻撃にガルメチアス軍は混乱し、出血を増大させていた。既に旗艦は撃沈されており、それも混乱に拍車をかけていた。


・・・・・・・


その後、最後まで抵抗を続けていたオルトマン少将の左翼部隊は味方の残存艦艇を救出して撤退し、飛空艦隊を失った地上部隊も空からの砲撃にさらされ、20師団もの損害を出して撤退した。
当初優勢だったガルメチアス軍はビッテンフェルト少将率いる第三独立艦隊の不意打ちを受け、参加兵力240隻のうち187隻もの損害を出し、地上部隊も25師団の大半を失う大敗北となった。
対してロンディバルト軍は守備艦隊150隻のうち119隻を失い、援軍に駆け付けた第三独立艦隊も20隻近い損害と30隻以上の損傷艦を出していた。地上部隊は守備部隊20万3000名のうち12万5600名を出した。

守備艦隊の奮闘によって民間人への被害はゼロであった。

 
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